【3日に1本更新】神級チート勇者100柱vsランクSSSSSSSSSS世界の魔王 〜超チート戦争〜

にく

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#10 《武技百出》

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 人間領西部、ゴレヴ洞窟。
 そこには、とある噂が流れていた。
 森に巣食う魔物の話。
 冒険者の間でまことしやかに囁かれる、道聴塗説どうちょうとせつ
 曰く、触れた者共を融解させる、強酸性の肌。
 曰く、変幻自在。変態百出。万物に擬態するむくろ
 曰く、其れは澄んだ流動体の身体を持つ、無貌の水塊である。
 ここまでであれば、他のスライムと、何ら変わらない。
 凡俗で凡庸で凡夫で凡才の、ただのスライムだ。
 ……これだけ・・・・ならば。
 しかし、ここからが味噌である──。
 曰く、其の魔物は人語を介す!!
 曰く、其の魔物は武術を扱う!!
 曰く、──其の武術は、達人すらも凌駕する腕前であるッ!!
 万の武具に姿を変え、万の武術を極めし魔物。
 あらゆる武具を模し、あらゆる武術を模した化物。
 其の怪物、人呼んでネームド・モンスター──〝模倣犯トレーサー〟ッ!!!!


✕  ✕  ✕  ✕


 薄暗い洞窟を照らすのは、不規則に点滅する画面モニター
 その世界に似つかわしくない無機質な光源は、しかし決して、光源として創り出された訳ではない。
 映し出されるは世界地図。
 世界を形作るたった一つの大陸は、その半分が欠けて・・・いた。
 ──否。本当に欠けているのではない。
 映し出せない、と言った方がより正確であった。
 周辺の海、半分以外の大陸はしっかりと描写されている。
 一部分だけが、まるで世界から爪弾つまはじきにされたかのように、すっぽりと抜け落ちていた。
 幾つもの画面に渡って、暗黒のみが映写されていたのだ。

「相変わらず気味の悪い黒ね」

 睨め付けるエルフの幼女は、不気味がるように言った。
 ──魔族領。
 大昔、魔王を封じる結界が展開された。
 行動制限の結界は、通常の結界とは違い、その範囲が小さければ小さいほど消費が大きい。
 それは、結界内以外に『侵入不能』『行動不能』と言う効果を貼り付けるのに等しいからである。

「衛生を飛ばしても、直ぐに撃ち墜とされちゃうからね」

 その言葉に、半ば諦めたような口調で、スレイは応えた。
 結界の外に侵入不可ならば、結界内ならば何処にでも移動可能と言うことになる。
 結界の外に行動不可ならば、結界内ならば何をすることも出来ると言うことになる。
 遊びの中級神・キルテッドのチート能力によって創り出された人工衛星が、これらの映像を映し出している訳であるが──その人造の星を墜してしまえば、何も映らなくなるのは当然の帰結である。

「色々と手を尽くしたけれど、結局どれも上手く行かなかったし。どうした物だか……」

 更に追い討ちを掛けて──視覚遮断、電波遮断、魔力遮断──何重もの情報遮断魔術が結界内全土に掛けられている所為で、斜めからの監察をもままならない。

「嫌らしいよね。まるで、結界を逆手に取ってやった。お前達はこの俺の情報を何一つとして仕入れることは出来ない──って言われてるみたいで。嫌になるよ」
「はーぁ、どーでも良いけど早く何とかしてよね」
「今の僕の話聴いてたかい、スフィア?」

 エルフ──スフィアはそう訊ねられると、辟易とした顔で、溜息混じりに吐き捨てた。

「アンタみたいな根暗の話、興味無いわ」
「た、たははは……はぁ…………」

 彼は乾いた笑いを零すと、深く嘆息した。

「あ、そう言えば、君さえ良ければ頼みたいんだけれど。ロッグゥを呼んできてくれないかな? 君ら仲良いだろ?」
「あんな臭いゴブリンなんざ知らないわよ。大体、なんでこの私が弱っちいアンタの命令なんざ受けなきゃならないのよ」

 スフィアはそう言うと、金色こんじきに伸びた髪を不機嫌に掻き揚げた。そんな彼女を、スレイは鼻で笑う。

「弱い、か。そうだね、一方から観ればそうかも知れない。けれども、視点を変えれば話も変わる」

 スレイの語り口調は、何処か得意気であった。

「軍隊ってのはね──回復役ヒーラーが居なければ直ぐに死ぬし、補給班キャリアが居なければ持続出来ないし、司令塔コマンダーが居なければ有象無象に成り代わる。そして──」

 回転椅子をくるりと回すと、彼女の瞳を睨め付けた。

「──そもそも、訓練官トレーナーに鍛えられてなきゃあ、弱兵ザコは一生弱兵ザコのままなのさ」

 柄にも無く、彼がニヒルと笑って見せると、今度はスフィアがそれを鼻で笑う。

「自分が一番役に立ってるって言いたいワケ? 後方支援ベンチのクセに随分と目立ちたがり屋さんなのねぇ、アンタ」
「失礼、そう聴こえちゃったかな? 僕は平等って言いたかっただけなんだけれど。それに目立ちたがり屋は君の方さ、スフィア。まあ、前衛アタッカーには必要な能力だと思うよ」

 飄々とした態度が気に喰わないのか、キッと眼光を強くするスフィア。
 しかし、剣呑な瞳を物ともせず、彼は依然として薄ら笑いを浮かべたままである。
 吐き捨てるように彼女は言う。

「下級如きが」
「でも今は人間ヒトだ」

 二人は睨み合う。
 視線と視線は交差点にて火花を散らし、閑静な洞窟の中で、静かに静かに燃えていた。
 やがて、諦めたようにスフィアは嘆息する。

「今回は折れてやるわ。貸しよ、倍以上にして返しなさい。あのキモミドリを連れて来たら良いんでしょ」
「うん。そうしてくれると助かるよ」
「はぁ……。全く、もう……」

 相変わらずの不機嫌さを全身に纏いながら、彼女は洞窟の暗闇へと消えて行った。
 背には、喰えない野郎の視線が在った。

(ホント……鬱陶しいったりゃありゃしないわ)

 洞窟に巣食う暗闇を、電灯が微かに照らす。
 光源が、ジジ、と揺らめき音がした。


✕  ✕  ✕  ✕


 ロッグゥは、洞窟の入口前に立っていた。
 洞窟とは言っても、キルテッドの創った秘密基地ではない。人間領の西方に在る、ゴレヴと言う洞窟に、である。
 無双軍神シンクレティ指揮官コマンダー訓練官トレーナーを自称するスレイの命により、ここへ馳せ参じているのであった。
 彼曰く、最近ここらでは奇妙な噂がささめかれており、それがチート能力による物──詰まりは転生者による物の可能性が高いので、調査をして来いとのこと。

「全ク、人遣いガ、荒イ……」

 一人ごちるが、益々虚しさを加速させるだけであった。
 ロッグゥは気を紛らわせる為、歩みを速める。
 肌で感じる、強者の気配。
 彼のスキルが、本能が、奴は〝強い〟と怒鳴り散らす。
 ロッグゥの足音や息遣いだけが、洞窟内を反芻する。
 ──しばらく歩いていると、彼は拓けた空間に出た。
 広さは凡そ、カモフラージュ用の庵20個分ほど。
 先程まで頭部と親しかった天井は、今では遥か頭上である。

「……誰?」

 声が聴こえる。
 水中で放った言葉のようにくぐもった声が。
 それは空間中央に佇む、人型に固めた水のような物から発せられていた。
 透き通る身体は、14歳前後の少女にも見える。
 恐らく、擬態能力で声帯を作成しているのだろうと。

「単刀直入ニ、行こウ。貴様ハ、転生者カ?」

 自らの問が返答されることは無かったが、しかし。
 人型の水──ゴレヴ洞窟の怪たる〝模倣犯トレーサー〟は満足そうに、幽かに笑った。

「もシ、そうなラ、聴いたことガ、有るだろウ。諸教習合シンクレティズムと言ウ、言葉ニ聴き憶えガ」

 乙女を模したスライムは、浮かべていた笑顔を消す。

「へえ、混淆まぜるとは考えましたね。でもどうするんですか? もしも私が、断るって言ったら」
「殺すしカ、無イ、だろうナ」

 ゴポ。──水音は響く。
 笑って・・・いる・・

(戦いヲ、たのしむクチ、カ……)

 ロッグゥは、表情多彩な半液体生物を睨め付ける。
 凄惨な笑みを浮かべて、何かを待ち侘びているようだった。
 擬態で作られたその喉で、言葉を紡ぐ。

「アナタ、強い?」
「愚問だナ」

 すると今度は、彼女はほっと胸を撫で下ろす。

「それは良かったです。ワタシ、弱い相手をなぶる趣味は無いので」
「……何ガ、言いたイ?」
「ワタシが好むのは、闘争。ただただ強者と死合いたい……それだけが願いなのです。模擬戦じゃあ駄目なんです! 殺し合いを、血を血で洗う泥沼の激闘じゃないと駄目なんです! だから百柱転生このゲームに選ばれた時は、ワタシ、凄く舞い上がっちゃいまして……!!」

 滔々とうとうと、スライムは語る語る。
 話に熱が入ると同時に、口角は吊り上がって行った。

「くどイ。手短ニ、言エ」
「ですからね、もしもワタシを半殺しに出来たのなら、仲間になって差し上げようと思いまして」
「……負けたラ?」
「愚問ですね」

 二匹は互いに笑い合う。
 それは、傍から見れば、今から殺し合うような仲であるとは、とても思えない物だった。
 スライムは透き通る右腕を刃に変態させる。
 片刃刀。
 形状は日本刀に酷似していた。

「ここは武人らしく、互いに名乗るとしましょう。……我が名は死闘の神ヴァル。チート能力は【武芸百般ハック・スラッシュ】──ありとあらゆる武術を、最大練度で行使出来る──こんな風にッ!!」

 踏み込み、瞬間ロッグゥの顔前にヴァルが現れる。
 縮地法──独特の歩法と重心操作によって、間合いを瞬時に詰める!
 道教神話にも仙術として登場する、異常が如き尋常!!
 正に、予備動作を極限まで削いだ人力の瞬間移動である──ッ!!

「シッ!」

 刃先を紙一重で躱す。
 小さな突風がロッグゥの頬を掠めた。
 続いて間髪を容れず、左手の水平斬撃が彼の頸を襲うが──これを微妙に屈むことで回避する!

「中々やるじゃあないですかッ!!」
育てテ・・・貰っタ・・・、のでナァ……!」

 ヴァルの双剣は勢いを増して行き、それらをロッグゥはギリギリで総て回避する!
 ──が、回避だけで手一杯!
 古今東西の、文字通り世界をまたいだあらゆる剣筋が、ロッグゥを襲い来る!!
 時に靱やかに、時に激しく。
 時に緩やかに、時に素早く。
 剣戟の速度は、尚も上昇を続け──深緑の額には汗が、つう、と伝った。

(やはリ──)

 そして。
 猛攻の中で、ロッグゥは確信する。

(この能力、人間・・ベース・・・の能力ダッ!)

 武術とは! 闘いを求める者共が作り上げた、汗と叡智の結晶!!
 故にッ! 知性有る人間以外は、この術を扱わず!!
 そして──人間とは即ち、神の写しである。
 神の姿を模して創られ、故にどの宇宙せかいに於いても、その姿は大きく逸脱しない。

「ほらほらほらほら! 守ってばかりじゃ死にますよッ!」
「ぐっ……!」

 次第に生傷が増える。
 緑の肌は幾つもの裂傷が走り、赤く染め直して行く。
 彼は顔を苦悶に歪ませ、顰めた眉は深まる一方だった。
 攻撃を躱して躱して躱して──。

「だからぁ、躱すだけじゃ終わりなんだって」

 ずぷり。
 ロッグゥは一瞬、何が起きたか分からず硬直する。
 痛みの元を、胸元を睨め付ける。
 そこには──直角・・、吸い込まれるように曲が・・って・・いる・・
 刃が、刃が・・変形・・したのだ──!!
 現在形を持ってはいるが、元は不定形。当然に、変形もするのであるッ!

「もうお終いかぁ、楽しめると思ってたんだけどなぁ……」

 口から、胸から、錆臭い液体が溢れ出す。
 出血が止まらない。
 全身をぞくぞくと寒気が襲い、脳は締め付けるように悲鳴を上げる。
 身体がまともに動かない。筋肉が不格好に笑ってしまっている。
 視界が磨り硝子のようにかすんで、もう敵の顔さえ良く見えない。声が遠のいて──。

「──名乗っテ、無かったナ」

 声を、絞り出す。

「あれ? まだ喋れるんですか。凄いですねー、尊敬しますよ」

 ──武術とは詰まる所、神の姿をしている者にしか扱える代物だ。
 人間の編み出した、人間用の技術ワザなのだから──。
 彼女ヴァルが人間に擬態しているのも、恐らくそう言った事情が有ってのことだろうと、ロッグゥは推測する。
 ならば──ならば、勝機は此方ロッグゥに有りッ!!!!

「俺ハ、俺の名ハ、盗みの神ロッグゥ……! 俺ノ、能力ハ、分身を作れル──こんな風ニッ!!」

 ぼやけた視界に影が落ちる。
 緑色・・の影だった──!
 彼の身体は物理法則を無視して砕け散り、粒子となって霧散した。
 しかし、彼はそこに居る。
 ──依然、変わり無くそこに居る。
 咄嗟に彼女はガードするが──咄嗟故に反応が間に合わない。刃のまま、彼女は打撃を真面に受けてしまう。
 しかし、刀とは元来横から・・・衝撃・・・・脆弱・・であるッ!
 新たに現れた彼は、彼女の手刀をへし折ったッ!!
 ……無貌の怪ならいざ知らず、人型ならばロッグゥにが有る。
 文字通り、ウン人力の能力パワーなのだからッ!!!!

「固体化しテいれバ、スライムだろうト、物理ガ効ク──新入りノ、冒険者ガ、言っていたナ」

 彼女は素早くバックステップで間合いを取ると、独り言を呟き始めた。

「もしやもしや、最初から分身……。いや! そもそも総てが本体のパターンですかね……!?」

 ニタニタと嗤うのは、蠢く水。
 睨め付けた先には、一匹のゴブリンが居た。
 ──否。
 その情報は最早過去だ。
 5匹。
 彼は己を5匹、複製していたのだッ!!
 それは正しく神の御業チートのうりょく
 その名も【自己複製ドッペルゲンガー】──。
 ステータス、スキル、経験値、記憶を共有しつつも、状態やステータス残量を共有しない分身体を創り出す!!

 或る洞窟の一室で、苛烈な武闘会は開かれる。
 二人の男女。
 二匹の雌雄。
 魔の物共は踊る。血湧き肉躍る。
 奇しくも二匹は同様のことを想っていた。
 今夜は、とてもとても長い夜になる──。

「──さア、死合おどろうカ?」
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