すきピのピ 〜不遇職ハンマー娘が、正解だらけの世界をぶっ壊す〜

池沢 悠

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春が足りないギルドに、ハルがきた!

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第一話

 
 MMO《ウルテオンオンライン》は、七年続く、そこそこ人気の仮想世界だ。
 プレイヤーキルはできない。――なのに、攻撃は当たる。
 そして当たったら、硬直する。ほんの一瞬。でも、その一瞬が勝敗を決める。

 遠距離が有利。近接は不遇。
 そんな世界で、剣士 表記《Polnareff》(ポルナレフ)は今日も剣を握っていた。

「……また二位かよ」

 デュエル結果画面を睨んだまま、ポルナレフが息を吐く。上位常連。それなのに、一位だけが遠い。

「二位で落ち込むの、毎回見ても新鮮だね」
 銃職《レッドスノー》――スノーが、軽く笑った。

「あと一歩なんだよ。あと一歩」
「その“あと一歩”が永遠なのが芸術点高い」

 そこへ副団長の《秋星》が、いつもの温度で刺してくる。

「贅沢やなぁ。上見すぎたら首痛めるで」
「痛めてるのは首じゃなくて心だよ」

 ポルナレフは剣を背負い直した。

「狩り行くぞ。装備更新する」
「はいはい。団長さまっ!」
「団長じゃねぇ。うちは副団長が団長みたいなもんだろ」
「うちのギルド、肩書きだけ先に揃うタイプやしな」
「やめろ」

 ギルド名は《春夏秋冬》。
 季節が揃う、綺麗な名前――のはずだった。



 渓谷の狩場に着くと、湧き待ちのプレイヤーがちらほら見える。人が多すぎない。このゲームらしい距離感だ。

「今日は事故らんとええなぁ」
 秋星がぼそっと言った、その瞬間。

「うおおおおおお!!」

 明らかに場違いなテンションの叫び声。
 視界の端で金髪ロングが跳ね、黒Tシャツ短パンの小柄な少女が――ハンマーを振り回して突っ込んでいく。

「ちょ、待っ――!」

 間に合わない。
 モンスターが一斉に振り向き、硬直が連鎖する。囲まれた瞬間、詰み。

「言うたそばからやな」
 秋星がため息をつく。
 スノーの銃声が乾いて響き、モンスターが一体ずつ止まる。
 ポルナレフが前へ出て、硬直を拾いながら剣で仕留める。

 数秒後。戦闘は片付いた。

「……生きてる?」
 ポルナレフが声をかけると、少女はぱあっと顔を輝かせた。

「すごーい! ありがとー!」

 そして距離感ゼロで近づき、満面の笑みで言う。

「ぴーちゃん!」

「……は?俺?なんでピーやねん!」

「だってさ、英語読めないんだもん!」
「はい?読めないからって、いきなりピー呼ばわりかよ!」
「感覚派だから!」
「誇るとこじゃねぇ!」

 スノーが肩を震わせる。
 秋星はニヤニヤしながらポルナレフを見た。

「英語表記でカッコつけた罰や!」
「罰じゃねぇ! 俺の名前はPolnareffだ!」
「だから読めないって!」

 少女は胸を張るように自己紹介をした。

「ハル! 四季野ハル!」
「……ハル、か」

 その名前を聞いて、ポルナレフは一瞬だけ言葉を選ぶ。

「実はさ。うちのギルド、《春夏秋冬》って言うんだけど」
「ちょうど“春”がおらんくてな」秋星が補足する。
「抜けたんよ、春。いろいろあって」

「へー!」
 ハルは指を折りながら数え、首を傾げた。

「……あれ? でも夏、いなくない?」

 沈黙。

「……いる」
 ポルナレフがぼそっと言う。
「俺、本名、夏樹だから」

 一拍。
 ハルが吹き出した。

「じゃあ夏入れろーwww」
「入ってるわ!」
「夏樹なら“夏”って表示しとけばよくない?」
「よくねぇ! Polnareffのほうがカッコいいだろ!」
「えー、でも読めないし」
「読めないのは君だけだ!」
「じゃあ私のために改名してよ!」
「するか!」

 秋星が腹を抱えて笑って言う。

「それ、今言う?」
「言いたくなるだろ今の流れ!」

 スノーが肩をすくめる。
「初対面でここまで言えるの、才能だね」

 ポルナレフは咳払いして、話を戻した。

「……で、ハル。さっきの突撃、普段もやってんの?」
「うん! いつも!」
「連携って言葉知ってる?」
「れんけい……おいしいやつ?」
「それはレンコンだ」

 ハルはケロッと笑い、ハンマーを持ち直す。

「でも大丈夫! 次は上手くいく気がする!」
「根拠は!?」
「気持ち!」

 秋星がうなずいてしまう。
「気持ちは大事やな。気持ちはな」

 ポルナレフは一瞬迷ってから、言った。

「……良かったら、このあと一緒に狩りしてみるか。春、埋まるし」
「うん! 春やる!」



 ――十分後。

「だから違うって!」

 ポルナレフは吹き飛びながら叫んでいた。
 モンスターの攻撃? 違う。ハルのハンマーだ。
 援護のつもりで振り下ろされる一撃が、綺麗に味方へ直撃する。

「ぴーちゃん、ごめん! でも今の当たり判定おかしくない?」
「おかしいのは君の距離感だ!」

 スノーが淡々と言う。

「はい、死亡」

「死亡じゃねぇ! 生きてる!」
「今のは心が死んだ判定」

 秋星が遠くから叫ぶ。

「ポル! 言い方優しく! その子すぐ拗ねるタイプや!」
「拗ねる前に学べ!」

 ハルは拗ねるどころか、むしろ目を輝かせていた。

「ねえ! 今のすごくない? 私、春っぽくない?」
「どのへんが!」
「嵐!」
「それ春じゃなくて夏の台風だ!」

 ハルは満足そうにハンマーを掲げる。

「いけるっしょ!」

 その瞬間、またポルナレフが硬直した。
 ――ハンマーが当たったからじゃない。嫌な予感に、体が固まったのだ。

 秋星が、ぽつりと落とす。

「……春が来たんやない。台風上陸や」

 スノーがくすっと笑う。
「うん。ギルド、賑やかになりそう」

 ポルナレフは地面に転がったまま空を見上げた。

「……俺、モンスターより当たってないか?」

 答えは、風の中に消えた。
 でも確かなことがひとつある。

 春の足りなかったギルドに、
 とんでもない“春”が入り込んだ――ということだ。
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