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春が足りないギルドに、ハルがきた!
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第一話
MMO《ウルテオンオンライン》は、七年続く、そこそこ人気の仮想世界だ。
プレイヤーキルはできない。――なのに、攻撃は当たる。
そして当たったら、硬直する。ほんの一瞬。でも、その一瞬が勝敗を決める。
遠距離が有利。近接は不遇。
そんな世界で、剣士 表記《Polnareff》(ポルナレフ)は今日も剣を握っていた。
「……また二位かよ」
デュエル結果画面を睨んだまま、ポルナレフが息を吐く。上位常連。それなのに、一位だけが遠い。
「二位で落ち込むの、毎回見ても新鮮だね」
銃職《レッドスノー》――スノーが、軽く笑った。
「あと一歩なんだよ。あと一歩」
「その“あと一歩”が永遠なのが芸術点高い」
そこへ副団長の《秋星》が、いつもの温度で刺してくる。
「贅沢やなぁ。上見すぎたら首痛めるで」
「痛めてるのは首じゃなくて心だよ」
ポルナレフは剣を背負い直した。
「狩り行くぞ。装備更新する」
「はいはい。団長さまっ!」
「団長じゃねぇ。うちは副団長が団長みたいなもんだろ」
「うちのギルド、肩書きだけ先に揃うタイプやしな」
「やめろ」
ギルド名は《春夏秋冬》。
季節が揃う、綺麗な名前――のはずだった。
◇
渓谷の狩場に着くと、湧き待ちのプレイヤーがちらほら見える。人が多すぎない。このゲームらしい距離感だ。
「今日は事故らんとええなぁ」
秋星がぼそっと言った、その瞬間。
「うおおおおおお!!」
明らかに場違いなテンションの叫び声。
視界の端で金髪ロングが跳ね、黒Tシャツ短パンの小柄な少女が――ハンマーを振り回して突っ込んでいく。
「ちょ、待っ――!」
間に合わない。
モンスターが一斉に振り向き、硬直が連鎖する。囲まれた瞬間、詰み。
「言うたそばからやな」
秋星がため息をつく。
スノーの銃声が乾いて響き、モンスターが一体ずつ止まる。
ポルナレフが前へ出て、硬直を拾いながら剣で仕留める。
数秒後。戦闘は片付いた。
「……生きてる?」
ポルナレフが声をかけると、少女はぱあっと顔を輝かせた。
「すごーい! ありがとー!」
そして距離感ゼロで近づき、満面の笑みで言う。
「ぴーちゃん!」
「……は?俺?なんでピーやねん!」
「だってさ、英語読めないんだもん!」
「はい?読めないからって、いきなりピー呼ばわりかよ!」
「感覚派だから!」
「誇るとこじゃねぇ!」
スノーが肩を震わせる。
秋星はニヤニヤしながらポルナレフを見た。
「英語表記でカッコつけた罰や!」
「罰じゃねぇ! 俺の名前はPolnareffだ!」
「だから読めないって!」
少女は胸を張るように自己紹介をした。
「ハル! 四季野ハル!」
「……ハル、か」
その名前を聞いて、ポルナレフは一瞬だけ言葉を選ぶ。
「実はさ。うちのギルド、《春夏秋冬》って言うんだけど」
「ちょうど“春”がおらんくてな」秋星が補足する。
「抜けたんよ、春。いろいろあって」
「へー!」
ハルは指を折りながら数え、首を傾げた。
「……あれ? でも夏、いなくない?」
沈黙。
「……いる」
ポルナレフがぼそっと言う。
「俺、本名、夏樹だから」
一拍。
ハルが吹き出した。
「じゃあ夏入れろーwww」
「入ってるわ!」
「夏樹なら“夏”って表示しとけばよくない?」
「よくねぇ! Polnareffのほうがカッコいいだろ!」
「えー、でも読めないし」
「読めないのは君だけだ!」
「じゃあ私のために改名してよ!」
「するか!」
秋星が腹を抱えて笑って言う。
「それ、今言う?」
「言いたくなるだろ今の流れ!」
スノーが肩をすくめる。
「初対面でここまで言えるの、才能だね」
ポルナレフは咳払いして、話を戻した。
「……で、ハル。さっきの突撃、普段もやってんの?」
「うん! いつも!」
「連携って言葉知ってる?」
「れんけい……おいしいやつ?」
「それはレンコンだ」
ハルはケロッと笑い、ハンマーを持ち直す。
「でも大丈夫! 次は上手くいく気がする!」
「根拠は!?」
「気持ち!」
秋星がうなずいてしまう。
「気持ちは大事やな。気持ちはな」
ポルナレフは一瞬迷ってから、言った。
「……良かったら、このあと一緒に狩りしてみるか。春、埋まるし」
「うん! 春やる!」
◇
――十分後。
「だから違うって!」
ポルナレフは吹き飛びながら叫んでいた。
モンスターの攻撃? 違う。ハルのハンマーだ。
援護のつもりで振り下ろされる一撃が、綺麗に味方へ直撃する。
「ぴーちゃん、ごめん! でも今の当たり判定おかしくない?」
「おかしいのは君の距離感だ!」
スノーが淡々と言う。
「はい、死亡」
「死亡じゃねぇ! 生きてる!」
「今のは心が死んだ判定」
秋星が遠くから叫ぶ。
「ポル! 言い方優しく! その子すぐ拗ねるタイプや!」
「拗ねる前に学べ!」
ハルは拗ねるどころか、むしろ目を輝かせていた。
「ねえ! 今のすごくない? 私、春っぽくない?」
「どのへんが!」
「嵐!」
「それ春じゃなくて夏の台風だ!」
ハルは満足そうにハンマーを掲げる。
「いけるっしょ!」
その瞬間、またポルナレフが硬直した。
――ハンマーが当たったからじゃない。嫌な予感に、体が固まったのだ。
秋星が、ぽつりと落とす。
「……春が来たんやない。台風上陸や」
スノーがくすっと笑う。
「うん。ギルド、賑やかになりそう」
ポルナレフは地面に転がったまま空を見上げた。
「……俺、モンスターより当たってないか?」
答えは、風の中に消えた。
でも確かなことがひとつある。
春の足りなかったギルドに、
とんでもない“春”が入り込んだ――ということだ。
MMO《ウルテオンオンライン》は、七年続く、そこそこ人気の仮想世界だ。
プレイヤーキルはできない。――なのに、攻撃は当たる。
そして当たったら、硬直する。ほんの一瞬。でも、その一瞬が勝敗を決める。
遠距離が有利。近接は不遇。
そんな世界で、剣士 表記《Polnareff》(ポルナレフ)は今日も剣を握っていた。
「……また二位かよ」
デュエル結果画面を睨んだまま、ポルナレフが息を吐く。上位常連。それなのに、一位だけが遠い。
「二位で落ち込むの、毎回見ても新鮮だね」
銃職《レッドスノー》――スノーが、軽く笑った。
「あと一歩なんだよ。あと一歩」
「その“あと一歩”が永遠なのが芸術点高い」
そこへ副団長の《秋星》が、いつもの温度で刺してくる。
「贅沢やなぁ。上見すぎたら首痛めるで」
「痛めてるのは首じゃなくて心だよ」
ポルナレフは剣を背負い直した。
「狩り行くぞ。装備更新する」
「はいはい。団長さまっ!」
「団長じゃねぇ。うちは副団長が団長みたいなもんだろ」
「うちのギルド、肩書きだけ先に揃うタイプやしな」
「やめろ」
ギルド名は《春夏秋冬》。
季節が揃う、綺麗な名前――のはずだった。
◇
渓谷の狩場に着くと、湧き待ちのプレイヤーがちらほら見える。人が多すぎない。このゲームらしい距離感だ。
「今日は事故らんとええなぁ」
秋星がぼそっと言った、その瞬間。
「うおおおおおお!!」
明らかに場違いなテンションの叫び声。
視界の端で金髪ロングが跳ね、黒Tシャツ短パンの小柄な少女が――ハンマーを振り回して突っ込んでいく。
「ちょ、待っ――!」
間に合わない。
モンスターが一斉に振り向き、硬直が連鎖する。囲まれた瞬間、詰み。
「言うたそばからやな」
秋星がため息をつく。
スノーの銃声が乾いて響き、モンスターが一体ずつ止まる。
ポルナレフが前へ出て、硬直を拾いながら剣で仕留める。
数秒後。戦闘は片付いた。
「……生きてる?」
ポルナレフが声をかけると、少女はぱあっと顔を輝かせた。
「すごーい! ありがとー!」
そして距離感ゼロで近づき、満面の笑みで言う。
「ぴーちゃん!」
「……は?俺?なんでピーやねん!」
「だってさ、英語読めないんだもん!」
「はい?読めないからって、いきなりピー呼ばわりかよ!」
「感覚派だから!」
「誇るとこじゃねぇ!」
スノーが肩を震わせる。
秋星はニヤニヤしながらポルナレフを見た。
「英語表記でカッコつけた罰や!」
「罰じゃねぇ! 俺の名前はPolnareffだ!」
「だから読めないって!」
少女は胸を張るように自己紹介をした。
「ハル! 四季野ハル!」
「……ハル、か」
その名前を聞いて、ポルナレフは一瞬だけ言葉を選ぶ。
「実はさ。うちのギルド、《春夏秋冬》って言うんだけど」
「ちょうど“春”がおらんくてな」秋星が補足する。
「抜けたんよ、春。いろいろあって」
「へー!」
ハルは指を折りながら数え、首を傾げた。
「……あれ? でも夏、いなくない?」
沈黙。
「……いる」
ポルナレフがぼそっと言う。
「俺、本名、夏樹だから」
一拍。
ハルが吹き出した。
「じゃあ夏入れろーwww」
「入ってるわ!」
「夏樹なら“夏”って表示しとけばよくない?」
「よくねぇ! Polnareffのほうがカッコいいだろ!」
「えー、でも読めないし」
「読めないのは君だけだ!」
「じゃあ私のために改名してよ!」
「するか!」
秋星が腹を抱えて笑って言う。
「それ、今言う?」
「言いたくなるだろ今の流れ!」
スノーが肩をすくめる。
「初対面でここまで言えるの、才能だね」
ポルナレフは咳払いして、話を戻した。
「……で、ハル。さっきの突撃、普段もやってんの?」
「うん! いつも!」
「連携って言葉知ってる?」
「れんけい……おいしいやつ?」
「それはレンコンだ」
ハルはケロッと笑い、ハンマーを持ち直す。
「でも大丈夫! 次は上手くいく気がする!」
「根拠は!?」
「気持ち!」
秋星がうなずいてしまう。
「気持ちは大事やな。気持ちはな」
ポルナレフは一瞬迷ってから、言った。
「……良かったら、このあと一緒に狩りしてみるか。春、埋まるし」
「うん! 春やる!」
◇
――十分後。
「だから違うって!」
ポルナレフは吹き飛びながら叫んでいた。
モンスターの攻撃? 違う。ハルのハンマーだ。
援護のつもりで振り下ろされる一撃が、綺麗に味方へ直撃する。
「ぴーちゃん、ごめん! でも今の当たり判定おかしくない?」
「おかしいのは君の距離感だ!」
スノーが淡々と言う。
「はい、死亡」
「死亡じゃねぇ! 生きてる!」
「今のは心が死んだ判定」
秋星が遠くから叫ぶ。
「ポル! 言い方優しく! その子すぐ拗ねるタイプや!」
「拗ねる前に学べ!」
ハルは拗ねるどころか、むしろ目を輝かせていた。
「ねえ! 今のすごくない? 私、春っぽくない?」
「どのへんが!」
「嵐!」
「それ春じゃなくて夏の台風だ!」
ハルは満足そうにハンマーを掲げる。
「いけるっしょ!」
その瞬間、またポルナレフが硬直した。
――ハンマーが当たったからじゃない。嫌な予感に、体が固まったのだ。
秋星が、ぽつりと落とす。
「……春が来たんやない。台風上陸や」
スノーがくすっと笑う。
「うん。ギルド、賑やかになりそう」
ポルナレフは地面に転がったまま空を見上げた。
「……俺、モンスターより当たってないか?」
答えは、風の中に消えた。
でも確かなことがひとつある。
春の足りなかったギルドに、
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