すきピのピ 〜不遇職ハンマー娘が、正解だらけの世界をぶっ壊す〜

池沢 悠

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午後6時連携?の時間!

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第二話

 次の日。
 春夏秋冬のメンバーは、午後六時に集合して連携の練習をすることになっていた。

 ――の、はずだった。

 夕方のフィールドの端っこから、「ドォン、ドォン」という鈍い音がずっと聞こえてくる。
 誰かが壁でも殴ってるのかと思ったら――

「うりゃぁっ! このっ! タイミングぅっ!」

 ハルがいた。
 敵もいないのに、ハンマーを振り回して、地面を叩いて、砂煙を上げている。
 まるで“練習”という名の儀式だった。

 そこへ一時間前にログインしたポルが、遠巻きに見ながら固まる。

「……なにしてんの。修行? それとも、ただのテンション上がり?」

「ちが、ちがう! 連携の練習! あたし!ちゃんと出来るようになりたいの!」

 ハルは息を切らしながら、ぶんぶんとハンマーを抱える。
 その目だけが、妙に真剣だ。

「だってさ……みんな連携かっこいいじゃん。私だけ遅れたら、やだもん」

 ポルは、言葉を探すみたいに一度だけ視線を泳がせてから、咳払いをした。

「……わかった。じゃあ先に立ち回り教える。ハンマーは、振る前に一歩引いて、入る時に“最短”。力任せじゃ当たんねぇ」

「うん……!」

 ちょっとだけ、空気が良くなる。
 そこへ、秋星がログインしてきた。

「え、何この光景。ハルが自主練? 成長イベント?」

「うるさい。茶化すな」

 ポルが即座に言うと、秋星はにやにや笑って近づく。

「いやぁ、微笑ましいなぁ。ポルがちゃんと先輩してる」

「してねぇ!」

 否定が早い。

 最後に現れたのはスノーだった。
 足音もなく来て、状況を一回見て、淡々と言う。

「まずね、ハル!あなたは前より全体を見る事を意識して.敵の位置と味方の位置を把握しない限りは、致命的よ。」

「ゔゔ…むりぃ…ハルの頭じゃパンクしちゃうよぉ」

 ハルはその場でしゃがみこみ、頭を抱えた。
 秋星が肩を震わせる。

「かわいい悲鳴だなぁ」

 ポルが秋星を睨み、スノーは表情ひとつ変えず続けた。

「難しく考えない。最初は“見えるものを言葉にする”。敵が右。味方が左。距離が近い。障害物がある。――それだけ」

「……敵が右……味方が左……」

 ハルは復唱しながら立ち上がる。
 その瞬間だけ、ちょっとだけ頼もしく見えた。

「よし。じゃあ、実戦で確認」

 スノーが言い、四人はいつもの狩場へ向かった。



1戦目

 モンスターが湧く。
 ポルが前へ出て、盾役のように距離を詰めた。

「俺が止める。ハル、合図見ろ。……今、寄るぞ!」

 ハルは深呼吸して、視界の端で味方の位置を追う。

(敵が前……ポルが近い……秋星は斜め……スノーは後ろ……)

 スノーが指で小さく合図を出した。
 ハルは頷く。

「いけるっしょ!」

 ハルのハンマーが、狙った場所へ落ちた。

 ドン!
 敵がよろめく。
 秋星がすかさず横から入って、追撃を重ねる。

「お、綺麗! 今日のハル、当たってる!」

「当ててんだよ!」

 ポルが言い、ハルは照れながらも頷く。

 最後はスノーの冷静な指示で、敵は崩れた。
 連携が、ちゃんと“連携”になっていた。

「やった……! ねえ、見た!? 今の!」

「見た見た。……まぁ、悪くない」

 ポルは偉そうに言うくせに、声がちょっと嬉しそうで。
 ハルはその一瞬を逃さず、ニヤッとした。

「ポル、やさしい。ぴーちゃん大好き」

「……だから違うって!」

 ポルが真っ赤になって叫ぶ。
 秋星は爆笑して、スノーは小さくため息をついた。



2戦目

「次、もう一回やって確認しよう」

 スノーの声で、二体目を引く。
 さっきより少し強いモンスターだ。

 最初は順調だった。
 ポルが止める。
 秋星が削る。
 スノーが全体を見て、ハルのタイミングを整える。

 ――問題が起きたのは、ポルが調子に乗った瞬間。

 ポルが急に、やたら軽やかなステップを踏み始めた。

「……え、なにその動き」

 ハルが思わず聞くと、ポルはキメ顔で言い放つ。

「これは戦闘の“流れ”を読む動きだ。相手の癖を――」

「それ、今言う?」

 秋星が即ツッコミ。
 スノーは淡々と指示を出す。

「ポル、止めて。ハル、次で――」

「わかってる! 見てろ、俺の華麗な――」

 ポルがさらにステップを増やした。
 その結果、足場がちょうど、ハルのハンマーの軌道に滑り込む形になる。

(敵が前……味方が左……距離が近い……)

 ハルは必死に“全体”を見ていた。
 見ていたのに。

 ポルの動きが、全体の中で一番自由だった。

「今っ!」

 ハルのハンマーが振り下ろされる。

 ――ゴォン!!

「え?」

 間の抜けた声を出したのは、ポルだった。

 次の瞬間。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ポルは宙に打ち上げられた。
 綺麗な放物線。
 夕焼けを背景に、妙に美しいシルエットで飛んでいく。

 秋星は腹を抱えて笑い、ハルは固まり、スノーだけが淡々と結論を言った。

「はい、死亡」

「おい!! 俺を敵扱いするなぁぁぁ!!」

 叫び声は遠ざかり、ポルは丘の向こうへ消えた。

 ハルは青ざめたまま、ハンマーをぎゅっと抱えて小さく呟く。

「……あたぢにはむり~……」

 夕暮れのフィールドには、勝利ログと、笑い声だけが残った。

 そして丘の向こう――
 ポルが落ちた先に、なぜか“薔薇みたいな光”が一瞬だけ、ふわりと揺れた気がした。
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