4 / 9
スタンは正義、ただし味方は叩くな!?
しおりを挟む
第四話
作戦会議の場所は、街の外れにあるギルドハウスの簡易テーブルだった。
地図、討伐ログ、モンスターの行動パターン——全部、スノーが無言で並べている。
秋星は椅子を逆向きに座って、顎を手の甲に乗せた。
ポルは腕を組み、画面に浮かぶ“上位モンスター”のシルエットを睨んでいる。
ハルはハンマーを膝に置いたまま、少し背筋を伸ばして、みんなの顔を順番に見ていた。
「上位の中でも、こいつは厄介だよね」
秋星が言う。軽く笑ってるのに、目は真剣だ。
画面に表示されている名前は——《咬喰竜(こうしょくりゅう)》
巨体。硬い外皮。強烈な噛みつき。
一度捕まると、拘束から抜けるのが地獄みたいに難しいタイプだ。
「……なのに、なんでコイツ?」
ポルが低く言った。
答えたのはスノーだった。
「ハルが上達する」
ハルがぱちっと瞬きをした。
「え、わたしが?」
スノーは視線を外さずに続ける。
「このモンスターは“スタン”が通る。頭に入れば、討伐率が跳ねる。
ハルが狙うべき目標が明確。結果も分かりやすい」
秋星が「なるほど」と頷く。
「たしかに。“上手くなった”って実感しやすい相手だ」
ポルはまだ渋い顔のまま、ログをスクロールした。
討伐成功の鍵——“頭スタン”。
だが、その条件の横に赤字が並んでいる。
【頭部ヒット判定:小】
【頭部位置:常時変動】
【噛みつき拘束:高リスク】
「……頭、当たんねぇんだよ」
ポルが言う。
「こいつ、首振るだけで判定がズレる。ハンマー泣かせだ」
ハルがハンマーを握り直す。
最近、連携は確かに良くなってきた。
でも、上位モンスター相手に“狙って頭を当て続ける”なんて、簡単じゃない。
秋星が明るく言った。
「大丈夫。昔の春夏秋冬は狩りも最強クラスだったし。討伐の手順なら、わたしたちが作る」
その言い方が、ハルの胸を少しだけ温めた。
——自分が足を引っ張らないように、みんなが“形”を用意してくれる。
その中で、自分は“当てる”だけでいい。
スノーが最後に短くまとめる。
「配置。秋星が右へ引く。ポルは左脇。ハルは中央。私は左手前。
やることは単純。ポルが脚を削って頭を落とす。ハルが顎の付け根を叩く。終わり」
ポルが頷く。
「……やるぞ」
ハルが深呼吸して、小さく拳を握った。
「いけるっしょ!」
⸻
フィールドは岩場の谷だった。
左右に岩棚、中央に細い通路。その奥に、えぐれた“くぼみ”がある。落石が積もって足場が悪い場所だ。
咬喰竜はその“くぼみ”を背にして出てきた。回り込むなら、左右の岩棚沿いしかない。
「配置、いつも通り!」
秋星が右側の岩棚へ走る。噛みつき圏内に入ったり出たりできる、ぎりぎりの距離を取る位置だ。
スノーは左手前、岩の陰。
ハルから二歩ぶん後ろ。拘束解除が届く射程で、かつ噛みつきには届かない。
ポルは中央通路を斜めに横切り、咬喰竜の左脇へ回った。
“脚”に刃が届く角度。
そして、ハルが前へ出ても噛みつき圏内に触れない、ぎりぎりの外側。
ハルは中央通路の入り口でハンマーを構える。
咬喰竜まで——三歩半。踏み込めば届く。だが踏み込みすぎると顎が届く距離だ。
秋星がわざと一歩、噛みつき圏内へ入る。
咬喰竜の首が右へ引かれ、顎が開いた。
「ハル、最初は欲張らなくていい!」
右から秋星が叫ぶ。
「一発当てれば形になる!」
「うん!」
ハルは頷き、左斜め前へ踏み込む。狙いは顎の付け根。揺れても判定が残る場所——スノーの言葉を思い出す。
——だが、咬喰竜は首を振った。
右へ振った勢いのまま、今度は左へ戻る。頭の位置が一瞬で変わる。
ゴン。
当たったのは頬骨の外側。硬い音だけが残り、スタンは入らない。
「くっ……!」
二発目。
ハルは頭の戻りを読んで、ほんの半拍遅らせる。
——が、戻るのが速い。顎が上がる。
ゴン!
角に当たる。腕が痺れる。狙いがズレる。
「焦らない」
スノーが左手前から言う。
「顎の付け根。そこ。見えた瞬間に当てる」
ハルは呼吸を整える。
視界の中心に“顎の付け根”だけを置く。世界が一点に縮む。
ポルが左脇から低い斬撃を入れた。
狙いは足首じゃない。前脚の“接地”——踏ん張る場所。
ザン。
刃が地面すれすれを走り、咬喰竜の左前脚が半歩沈む。
重心が崩れ、頭がほんの少しだけ落ちた。
(今!)
ハルが踏み込む——
その瞬間、中央通路の石が砕けた。
くぼみから転がってきた小石に靴が乗り、足首が“外”へ逃げる。
「っ——」
踏み込みが半歩伸びる。伸びた分、身体が前へ流れる。
ハンマーの軌道が狙いから外れ、空振りの風が頬を撫でた。
空振りは、致命的な合図だ。
咬喰竜の顎が最短で“そこ”へ落ちてくる。
ハルの視界に、影が落ちた。
ポルが入った。
跳ばない。大きく動かない。
ただ、ハルの前へ半身を差し込む。
刃は立てない。寝かせる。
顎の“中心”を数ミリ外し、牙の力を横へ逃がす角度——四十五度。
ガギン。
受け流しの音。
本来なら、ここからカウンターが取れる。
だが今回は違う。
受け流した“先”に、ハルがいる。
ポルは返さない。
代わりに肩でハルを押し戻す。
「下がれ!」
ハルの身体が一歩、後ろへ逃げる。
その一拍の隙を——咬喰竜が噛み砕いた。
バクン。
世界が暗くなる。
牙の隙間から見えるのは、ハルの顔だけだった。
ハルが息を呑む。唇が震えて、いつもの呼び名が漏れる。
「……ピー、ちゃん……?」
(大丈夫。今は、当てろ)
ポルは声にしない。
顎の内側で刃を寝かせたまま角度を固定する。
噛み砕かれないための“受け流し”。拘束の中でも、神技は止まらない。
HPがじわじわ削れていく。
秋星が右から顎へ斬り込み、スノーが左から拘束解除のスキルを叩き込む。
だが、咬喰竜は離さない。顎の力がむしろ増していく。
「外れない……!」
秋星の声が焦りに染まる。
スノーが即座に判断する。
「時間がない。HPが落ちる」
ハルの視界がぐらりと揺れた。
心臓が早い。喉が詰まる。
世界が広がって、全部が怖くなる。
(わたしのせい……)
足元が砕けた。バランスを崩した。
そのせいで、ポルが——
ハルの指先が震えた。
泣きそうになる。
声が勝手に変わる。
「……あたぢ……」
次の瞬間、ハルは叫んでいた。
「ピーーちゃんをはなせーー!!」
ハルのハンマーが頭上で弧を描く。
狙いは顎の付け根。さっきスノーが言った場所。
そして今は、ポルを咥えていて——頭の動きが鈍い。逃げ道のない“的”だ。
(当てる。怖くても、当てる)
ドゴォン!!
衝撃音が谷に響き、画面が揺れた。
当然、ポルのHPも一緒に跳ねる。
「ぐっ……!」
ポルの声が牙の中で潰れる。
「もう一回!!」
二発目。
上からじゃない。斜め。顎を“押し下げる”方向へ叩く。
ドゴォン!!
顎の筋肉が一瞬ゆるむ。
ポルの身体がわずかに滑る。
「今だ、ハル!」
秋星の声。
三発目。
一点に絞らない。顎の付け根“周辺”を面で叩く。
どれかが噛み合えば——
ドゴォン!!
——スタン!
咬喰竜の動きが止まった。
顎が開く。
ポルが地面に落ちる。
「お前は俺ごと! 叩くなぁーー!!」
ポルは叫びながら転がり、勢いのまま立ち上がった。
剣を抜く。
スタン中。
首が、完全に空いている。
ハルは息を止めていた。
自分がやったことが正しいのか、怖くて判断できない。
だが、ポルは——ほんの一瞬だけ笑った気がした。
「……ナイススタンだ」
一歩。踏み込み。
刃は横。首筋へ一直線。
ザシュッ。
咬喰竜の首が落ちた。巨体が崩れる。
遅れて討伐ファンファーレが鳴り響く。
静寂。
ハルが震える手でハンマーを下ろし、恐る恐る言う。
「……ご、ごめん……!」
ポルは眉間にしわを寄せてハルを見た。
一瞬、怒鳴られると思った。
だが、スノーが淡々と言った。
「はい、死亡」
秋星が噴き出す。
「それ、今言う?」
緊張がほどけて、ハルの目尻が熱くなる。
声がまた勝手に変わる。
「あたぢ、だって……ピーちゃんが……!」
「だから俺はポルだ!」
ポルが即ツッコミしかけて、途中で止めた。
言い直すみたいに咳払いする。
「……いや。助かった」
照れたように視線を逸らし、頭を軽く掻く。
「次からは、俺を避けて叩け。……それだけ覚えろ」
ハルは涙をこらえて、思いきり頷いた。
「うん!」
秋星が手を叩く。
「よし。今日のハル、ちゃんと“上達した”」
スノーがログを閉じて小さく頷く。
「狙いは合ってた。恐怖の中でも当てた。次はもっと安定する」
ポルは剣を収め、討伐ログをちらりと見た。
“春夏秋冬”の名は、昔から狩りの最前線にいた。
だから成功自体は、いつものことだ。
でも今日は違う。
ハルだけが、このモンスター初見だった。
そのハルが、恐怖の中で“当て方”を掴んだ。
——たぶんこれが、強くなるってことだ。
ポルは小さく息を吐いて、最後にぼそっと言った。
「……次、俺ごと叩いたらマジで怒るからな」
ハルは泣き笑いで答える。
「う、うん! でも……その時は……また助ける!」
「順番が逆だ!」
秋星が笑って、スノーが無表情のまま頷いた。
今日も春夏秋冬は騒がしくて——
たぶん、ちょっとだけ強くなった。
作戦会議の場所は、街の外れにあるギルドハウスの簡易テーブルだった。
地図、討伐ログ、モンスターの行動パターン——全部、スノーが無言で並べている。
秋星は椅子を逆向きに座って、顎を手の甲に乗せた。
ポルは腕を組み、画面に浮かぶ“上位モンスター”のシルエットを睨んでいる。
ハルはハンマーを膝に置いたまま、少し背筋を伸ばして、みんなの顔を順番に見ていた。
「上位の中でも、こいつは厄介だよね」
秋星が言う。軽く笑ってるのに、目は真剣だ。
画面に表示されている名前は——《咬喰竜(こうしょくりゅう)》
巨体。硬い外皮。強烈な噛みつき。
一度捕まると、拘束から抜けるのが地獄みたいに難しいタイプだ。
「……なのに、なんでコイツ?」
ポルが低く言った。
答えたのはスノーだった。
「ハルが上達する」
ハルがぱちっと瞬きをした。
「え、わたしが?」
スノーは視線を外さずに続ける。
「このモンスターは“スタン”が通る。頭に入れば、討伐率が跳ねる。
ハルが狙うべき目標が明確。結果も分かりやすい」
秋星が「なるほど」と頷く。
「たしかに。“上手くなった”って実感しやすい相手だ」
ポルはまだ渋い顔のまま、ログをスクロールした。
討伐成功の鍵——“頭スタン”。
だが、その条件の横に赤字が並んでいる。
【頭部ヒット判定:小】
【頭部位置:常時変動】
【噛みつき拘束:高リスク】
「……頭、当たんねぇんだよ」
ポルが言う。
「こいつ、首振るだけで判定がズレる。ハンマー泣かせだ」
ハルがハンマーを握り直す。
最近、連携は確かに良くなってきた。
でも、上位モンスター相手に“狙って頭を当て続ける”なんて、簡単じゃない。
秋星が明るく言った。
「大丈夫。昔の春夏秋冬は狩りも最強クラスだったし。討伐の手順なら、わたしたちが作る」
その言い方が、ハルの胸を少しだけ温めた。
——自分が足を引っ張らないように、みんなが“形”を用意してくれる。
その中で、自分は“当てる”だけでいい。
スノーが最後に短くまとめる。
「配置。秋星が右へ引く。ポルは左脇。ハルは中央。私は左手前。
やることは単純。ポルが脚を削って頭を落とす。ハルが顎の付け根を叩く。終わり」
ポルが頷く。
「……やるぞ」
ハルが深呼吸して、小さく拳を握った。
「いけるっしょ!」
⸻
フィールドは岩場の谷だった。
左右に岩棚、中央に細い通路。その奥に、えぐれた“くぼみ”がある。落石が積もって足場が悪い場所だ。
咬喰竜はその“くぼみ”を背にして出てきた。回り込むなら、左右の岩棚沿いしかない。
「配置、いつも通り!」
秋星が右側の岩棚へ走る。噛みつき圏内に入ったり出たりできる、ぎりぎりの距離を取る位置だ。
スノーは左手前、岩の陰。
ハルから二歩ぶん後ろ。拘束解除が届く射程で、かつ噛みつきには届かない。
ポルは中央通路を斜めに横切り、咬喰竜の左脇へ回った。
“脚”に刃が届く角度。
そして、ハルが前へ出ても噛みつき圏内に触れない、ぎりぎりの外側。
ハルは中央通路の入り口でハンマーを構える。
咬喰竜まで——三歩半。踏み込めば届く。だが踏み込みすぎると顎が届く距離だ。
秋星がわざと一歩、噛みつき圏内へ入る。
咬喰竜の首が右へ引かれ、顎が開いた。
「ハル、最初は欲張らなくていい!」
右から秋星が叫ぶ。
「一発当てれば形になる!」
「うん!」
ハルは頷き、左斜め前へ踏み込む。狙いは顎の付け根。揺れても判定が残る場所——スノーの言葉を思い出す。
——だが、咬喰竜は首を振った。
右へ振った勢いのまま、今度は左へ戻る。頭の位置が一瞬で変わる。
ゴン。
当たったのは頬骨の外側。硬い音だけが残り、スタンは入らない。
「くっ……!」
二発目。
ハルは頭の戻りを読んで、ほんの半拍遅らせる。
——が、戻るのが速い。顎が上がる。
ゴン!
角に当たる。腕が痺れる。狙いがズレる。
「焦らない」
スノーが左手前から言う。
「顎の付け根。そこ。見えた瞬間に当てる」
ハルは呼吸を整える。
視界の中心に“顎の付け根”だけを置く。世界が一点に縮む。
ポルが左脇から低い斬撃を入れた。
狙いは足首じゃない。前脚の“接地”——踏ん張る場所。
ザン。
刃が地面すれすれを走り、咬喰竜の左前脚が半歩沈む。
重心が崩れ、頭がほんの少しだけ落ちた。
(今!)
ハルが踏み込む——
その瞬間、中央通路の石が砕けた。
くぼみから転がってきた小石に靴が乗り、足首が“外”へ逃げる。
「っ——」
踏み込みが半歩伸びる。伸びた分、身体が前へ流れる。
ハンマーの軌道が狙いから外れ、空振りの風が頬を撫でた。
空振りは、致命的な合図だ。
咬喰竜の顎が最短で“そこ”へ落ちてくる。
ハルの視界に、影が落ちた。
ポルが入った。
跳ばない。大きく動かない。
ただ、ハルの前へ半身を差し込む。
刃は立てない。寝かせる。
顎の“中心”を数ミリ外し、牙の力を横へ逃がす角度——四十五度。
ガギン。
受け流しの音。
本来なら、ここからカウンターが取れる。
だが今回は違う。
受け流した“先”に、ハルがいる。
ポルは返さない。
代わりに肩でハルを押し戻す。
「下がれ!」
ハルの身体が一歩、後ろへ逃げる。
その一拍の隙を——咬喰竜が噛み砕いた。
バクン。
世界が暗くなる。
牙の隙間から見えるのは、ハルの顔だけだった。
ハルが息を呑む。唇が震えて、いつもの呼び名が漏れる。
「……ピー、ちゃん……?」
(大丈夫。今は、当てろ)
ポルは声にしない。
顎の内側で刃を寝かせたまま角度を固定する。
噛み砕かれないための“受け流し”。拘束の中でも、神技は止まらない。
HPがじわじわ削れていく。
秋星が右から顎へ斬り込み、スノーが左から拘束解除のスキルを叩き込む。
だが、咬喰竜は離さない。顎の力がむしろ増していく。
「外れない……!」
秋星の声が焦りに染まる。
スノーが即座に判断する。
「時間がない。HPが落ちる」
ハルの視界がぐらりと揺れた。
心臓が早い。喉が詰まる。
世界が広がって、全部が怖くなる。
(わたしのせい……)
足元が砕けた。バランスを崩した。
そのせいで、ポルが——
ハルの指先が震えた。
泣きそうになる。
声が勝手に変わる。
「……あたぢ……」
次の瞬間、ハルは叫んでいた。
「ピーーちゃんをはなせーー!!」
ハルのハンマーが頭上で弧を描く。
狙いは顎の付け根。さっきスノーが言った場所。
そして今は、ポルを咥えていて——頭の動きが鈍い。逃げ道のない“的”だ。
(当てる。怖くても、当てる)
ドゴォン!!
衝撃音が谷に響き、画面が揺れた。
当然、ポルのHPも一緒に跳ねる。
「ぐっ……!」
ポルの声が牙の中で潰れる。
「もう一回!!」
二発目。
上からじゃない。斜め。顎を“押し下げる”方向へ叩く。
ドゴォン!!
顎の筋肉が一瞬ゆるむ。
ポルの身体がわずかに滑る。
「今だ、ハル!」
秋星の声。
三発目。
一点に絞らない。顎の付け根“周辺”を面で叩く。
どれかが噛み合えば——
ドゴォン!!
——スタン!
咬喰竜の動きが止まった。
顎が開く。
ポルが地面に落ちる。
「お前は俺ごと! 叩くなぁーー!!」
ポルは叫びながら転がり、勢いのまま立ち上がった。
剣を抜く。
スタン中。
首が、完全に空いている。
ハルは息を止めていた。
自分がやったことが正しいのか、怖くて判断できない。
だが、ポルは——ほんの一瞬だけ笑った気がした。
「……ナイススタンだ」
一歩。踏み込み。
刃は横。首筋へ一直線。
ザシュッ。
咬喰竜の首が落ちた。巨体が崩れる。
遅れて討伐ファンファーレが鳴り響く。
静寂。
ハルが震える手でハンマーを下ろし、恐る恐る言う。
「……ご、ごめん……!」
ポルは眉間にしわを寄せてハルを見た。
一瞬、怒鳴られると思った。
だが、スノーが淡々と言った。
「はい、死亡」
秋星が噴き出す。
「それ、今言う?」
緊張がほどけて、ハルの目尻が熱くなる。
声がまた勝手に変わる。
「あたぢ、だって……ピーちゃんが……!」
「だから俺はポルだ!」
ポルが即ツッコミしかけて、途中で止めた。
言い直すみたいに咳払いする。
「……いや。助かった」
照れたように視線を逸らし、頭を軽く掻く。
「次からは、俺を避けて叩け。……それだけ覚えろ」
ハルは涙をこらえて、思いきり頷いた。
「うん!」
秋星が手を叩く。
「よし。今日のハル、ちゃんと“上達した”」
スノーがログを閉じて小さく頷く。
「狙いは合ってた。恐怖の中でも当てた。次はもっと安定する」
ポルは剣を収め、討伐ログをちらりと見た。
“春夏秋冬”の名は、昔から狩りの最前線にいた。
だから成功自体は、いつものことだ。
でも今日は違う。
ハルだけが、このモンスター初見だった。
そのハルが、恐怖の中で“当て方”を掴んだ。
——たぶんこれが、強くなるってことだ。
ポルは小さく息を吐いて、最後にぼそっと言った。
「……次、俺ごと叩いたらマジで怒るからな」
ハルは泣き笑いで答える。
「う、うん! でも……その時は……また助ける!」
「順番が逆だ!」
秋星が笑って、スノーが無表情のまま頷いた。
今日も春夏秋冬は騒がしくて——
たぶん、ちょっとだけ強くなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる