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第一章 木嶋真奈の日記より抜粋①

第五話 やっぱ焼くならカエルより牛だよね

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「あの……何で?」
「いや、それが聞いてくださいよ。あっ先輩方学部どこっすか?」
「あたしは法よ」
「私は教育」
「あー……じゃあ日文の佐川とかわかんないっすよね」
「あ~、佐川教授ならあたし分かるよぉ。友達が日本文学落とされたって愚痴ってたもん」
「そうなんすよ……! あいつばんばん人のこと落としやがって……」
「いやでも君まだ一、二回しかその教授に会ってないんだよね?」
「はい」
「何? 何をしたの」
「大学の教授みたいなのって、なんか固い感じあるじゃないっすか?」
「あ~わかるぅ」
「そっすよね! 絡みにくいっつーか」
「そうそう! 高校とかと違う感じね」
「いいから! それで?」
「あっはい。そんで、軽くツレとちょっと……」
「ちょっと……?」
「黒板消しを……ね?」
 
 コイツ……ダメだ……。

「えっ何? 黒板消しがどうしたの?」
 
 この人も……ダメだ……。
 
「その、まあドアのところに挟んでおいて、教授が来た瞬間に、パン! みたいな」
「きゃー! すごぉい! 漫画みたいなことするのねぇ!」
「いやぁ、俺ら附属の男子校だったんで。まあ、ノリで? みたいな?」
「アハハ! 面白いねぇ! 憧れちゃうわ!」
 
 先輩は都内トップの女子校出身で、天然のお嬢様だ。だからこんなベタなイタズラもよく知らないのだ。ただし、とっても楽しそうなのはこの人の性格が悪いだけなのだけれど。
 
「まあ、そりゃ教授も怒るでしょ」
「えー……、そっすか? これくらい許してくれたっていいのに……」
「はぁ……。で、留年させる、と」
「俺なんかよくわかんないっすけど、自分どうやら日文専攻らしくって。あの単位取れないと留年って聞いて」
「まあ専攻ならそれはそうでしょうね」
「今頑張って説得してて、荷物持ちとかやろうとしてるんすけど、なかなか機嫌直してくんなくて」
「それは、当然だね」
「でもやんなきゃ仕方ないから、その日から毎日朝も早起きして教授の研究室通ってて、なんとか媚び売ってるんですよ。単位取るための仕方ねえなあ、って思いながら。で、一昨日の朝も同じように研究室に向かってたんすよ」
「ふんふん」
「そしたら、なんか廊下で女がぶつかってきて」
「女?」
「そっす。茶髪の……。美人っぽかったっすね」
「ほう」
「結構な勢いだったもんで、俺よろけちゃって。まあ美人だったし許してやろうと思ってたら、そいつが紙落として」
「うん」
「仕方ねえなあ、拾ってやろうと思って、振り返ったらもういなくて」
「その紙が……」
「これっす」
「なるほどねぇ」
 
 詳しく聞いても意味が全くわからないな……。先輩は一体今の話のどこに、なるほど要素を感じたのだろうか。
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