上 下
9 / 21
第一章 木嶋真奈の日記より抜粋①

第九話 私の友達の女の子はニンニク人前で絶対食べないから、私さては女じゃないな?

しおりを挟む
 学部が違うこともあり、さすがに講義の時の護衛はできない。そのため、どんな時も連絡が取れるようにする条件で、私は講義に出ることになった。
 
「絶対っすよ! どんなときも、すぐ出てくださいね!」
 
 別れ際になって、悠斗がすがりついて言ってくる。
 なんだコイツは。ウサギか? ウサギなのか? 側から見れば寂しがりやの彼氏と冷たい彼女みたいな構図で言ってくるのがまた腹立つ。
 
「はいはい、じゃっ、放課後ね」
「絶対……! 絶対っすからね……!」
 
 絶対絶対、と叫んでへたり込む悠斗を尻目に講義室へと向かう。
 
「おっはー、真奈」

 後ろから不意に抱きつかれ、思わず体が反応してしまう。
 
「そう身構えないでよ~」
「なんだ……、菜摘か。びっくりさせないでよ」
「うふふ、ごめん」
 
 菜摘は高校の同級生で、大学でも同じ学部、学科と、何かと縁のある親友だ。手芸サークルに入るきっかけをくれたのも彼女で、私の背後を取れるのは先輩と菜摘くらいだ。今はもう菜摘はサークルをやめてしまったが、それでも友達として仲良くしている。
 
「ねえ、真奈、悠斗くんとどういう関係?」
「えっ、菜摘あいつのこと知ってるの?」
「まあ、有名じゃない? 悠斗くん」
 
 有名だろうな、こんなバカなら。私は知らなかったが、確かに大学生にもなって黒板消し落としをするようなやつが噂にならないはずもない。
 
「まあ、サークル絡みでちょっとね」
「……真奈、まだ手芸サークル辞めてないの?」
「うん……」
「……真奈。私はやっぱり早く辞めるべきだと思うよ。真奈が仮に逮捕とかされちゃったら、私……!」
「菜摘……」
 
 菜摘がサークルをやめた理由のうちの一つは仕事内容のアウトローさにある。昨日は渋ったが、うちは基本どんな内容の依頼でも受ける。そこにどんな危険が待ち受けていようとも、だ。彼女はそんなことまですることに罪悪感を感じていたし、嫌気が差してやめていった。
 だからこんな危険なことをしていると知る友達として私を止める気持ちはよくわかる。
 でも、それでも私は。
 
「菜摘、大丈夫だよ。私がそんなヘマしないことくらい知ってるでしょ」
「……うん、そだね」
 
 菜摘には申し訳ない。しかしそれでも私は、この仕事を辞めるわけにはいかない。
 
「焼肉が、かかってるの……!」
「ふふ、真奈らしい」
「あっそろそろ一限始まるよ」
「ほんとだ! 急がなきゃ」
 
 因みに一限は遅刻した。
しおりを挟む

処理中です...