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4話  着きました

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「着いたか!行くぞ!」
 
到着するやいなや馬車から飛び出す旦那様。いや、危ないからやめてください。
既に門の前にはリチャード様に仕える執事が迎えに来てくれていた。
 
「お待ちしておりました、サミュエル様。お越しいただきありがとうございます。」
「手厚い歓迎感謝する。リチャードに会いたいのだが、大丈夫か?」
「はい、現在はお部屋にいらっしゃいます。案内いたしましょう。」
「頼む。」
 
執事の案内で部屋へ向かう。もうどこに部屋があるかは知っているが、勝手に歩き回るのは失礼だ。
 
「リチャード様、サミュエル様がご挨拶したいと。お通ししても構わないでしょうか?」
「ああ、構わない。通してほしい。」
 
重厚な扉を執事が開けてくれる。
窓辺で外を眺めていた人物はこちらを見て、微笑んだ。
 
「よく来てくれたね、サミュエル。今日は楽しんでいってくれ。」
「こちらこそ招待をありがとう。お言葉に甘えて羽を伸ばさせてもらう。」
 
そう言って握手をする二人。
リチャード様は亜麻色の髪を肩まで伸ばし、澄んだ切れ長の目が特徴的だ。
二人とも美丈夫であるため、すさまじく絵になる。
 
「それよりサミュエル、ずいぶん仕事が多かったみたいだね。表情も疲れているし、隈もできているじゃないか。」
「ああ、ここ1週間ほど忙しくてな。仕事もひと段落したから参加できることになったんだ。」
「ふふ、じゃあ今日は存分に羽を伸ばしてほしい。ただし、羽目を外しすぎないようにね。」
「リチャードお前も言うのか!俺に味方はいないのか!」
「君の性格を知ってるからこその忠告だよ。」
 
そう言いながらも二人は常時笑顔だ。本当に仲がいい。
 
「それじゃあ準備がもうできているから下で待機しててくれないかい?僕ももう少ししたら向かうよ。」
「ああ、そうさせてもらう。」
 
そう言って部屋を出ていく旦那様。後を追わねばならなければ。そう思ったところで声をかけられた。
 
「レイジさん。君もサミュエルの補佐で疲れただろう?君も十分羽を伸ばしてほしい。」
 
なんてお優しい方だ。しかし、わたしは執事。お言葉に甘えるの良くないだろう。
 
「お気遣いいただきありがとうございます。しかし、今日の旦那様は浮かれすぎています。わたくしがしっかり監視しておかなくてはなりません。」
「なに、今日のメンバーは気心の知れた仲が多い。サミュエルにはああ言ったけど羽目を外しても皆大丈夫のはずさ。風のうわさでサミュエルが忙しいことは聞いていたからね。一応大丈夫そうなメンバーにしておいた。」
 
何と準備のいい。流石だ。
 
「そんなに旦那様を甘えさせなくても……お気遣いは嬉しいのですが。」
「ふふ、そういう君だって彼を甘やかしているじゃないか。まあ、彼にはそういう風にさせる力があるからね。俗にいう末っ子気質という奴かな。」
 
それは否定できない。
 
「そうですね。それに仕事には真面目に取り組んでくれますから。」
「そうだろう。だから君も今日は気にしないで大丈夫だ。」
 
ここまで言われると逆に気を張っていると失礼になる気がする。
 
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてそうさせていただきます。」
「ふふ、ぜひそうしてくれ。さあ、呼び止めて悪かったね。サミュエルを追ってほしい。」
「はい、失礼いたします。」
 
部屋を出ると、扉の横で旦那様が待っていた。
 
「旦那様、先に行かれたのでは?」
「リチャードが呼び止めるのが聞こえたから待っていた。……気にするな、何を話していたかまでは聞こえていない。」
 
確かに聞かれると少々恥ずかしい話もあったが、まあ聞かれても大丈夫な話がほとんどだ。
 
「大丈夫です。わたくしも楽しんでほしいと言われただけなので。」
「リチャードならそう言うだろう。」
 
そしてこちらを見る。何か言いたげな眼差しだ。
 
「なにか?」
「…いや、何でもない。行くぞ。」
「はい、かしこまりました。」
 
様子が少しおかしい旦那様に首をかしげながらも後を追う。
先を歩く旦那様の表情は分からずじまいだった。
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