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8話 バレてないかドキドキヒヤヒヤです
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食事が終わり、旦那様は書類をまとめるため執務室にこもっている。
わたしはヘンリーさんに事の次第を相談していた。
ヘンリーさんは顎に手を当て考え込む。
「なるほど……。それは大変なことになったね。」
「はい…。しかし、わたしは2年執事としてやってきていて、旦那様も気付いていなかったはずです。昨日の今日でそこまでたどり着くか疑問ではありますが…。」
「そうだね。たった1日でそういう考えになることは考えにくい。ただ見た目の特徴を言わなかったことは気になるね。ふむ…。ここは私がちょっと聞いてみよう。」
「ありがとうございます。」
「とりあえず、今日は普通に過ごしなさい。ここで別の行動に移すのも変だからね。」
「はい。」
そうしてヘンリーさんと別れる。時計を見るとそろそろ次の仕事の時間だ。
旦那様の元へ行く。
「旦那様。次の公務のお時間です。」
「もうそんな時間か。行こう。」
書類をまとめ、立ち上がる。
なぜか頭をぽんと撫でられる。そのまま部屋を出ていくので慌てて追いかける。
紅い絨毯が張られた廊下を歩く。
朝のことがあるので沈黙が続くと落ち着かない。けれどなにか話そうとすれば墓穴を掘る気がして話せなかった。
次の公務は会談だった。顔見知りなのでやりづらさは感じないだろう。
二人で話しているところをわたしは傍らで人形のように立って待っている。お茶などはすでに用意してあるため、やることがない。何か言われるかお茶が無くなるまでは待機ということだ。
1時間ほど経った頃、話が終了した。
「では今日はこれで。今日も有意義な話ができて良かった。」
「それはこちらの台詞だ。流石サミュエル君は分かっているな。」
「お誉めに預かり光栄です。」
そうして握手して別れる。
帰りはいつも通り馬車だと思っていたのだが、旦那様が歩いて帰りたいとのことなので大した距離でもないし、今日の公務はこれで終わりなのでそうすることにした。
「珍しいですね。旦那様が歩きたがるなんて。」
「ちょっとした気分転換さ。」
旦那様に半歩遅れる形で歩く。そしていくつかの視線を感じる。旦那様に熱い視線を注いでいるのは町中の娘たちだ。確かにこんなイケメンが歩いてきたら見てしまうだろう。
旦那様も視線に気づいたのかそちらに目をやり、微笑む。キャーという悲鳴が上がる。
…なんかいつも通りの旦那様に戻った気がする。というかこのまま探し人のことは忘れてくれないだろうか。……そうだ。
「旦那様、行きたければ行ってよろしいですよ。」
「む?」
「明日は幸い午後からの公務です。日付が変わるまでに帰ってきてくださいね。」
では、と言い立ち去ろうとする。
しかし、慌てた様子の旦那様に手を掴まれて止められてしまった。
あの時よりも強い力。少し痛いくらいだ。
「っ旦那様、痛いですよ。」
「わ、悪い。」
「どうしたんですか?」
「いや、どうしたも何もレイジが勝手に行こうとするから、ついだな。」
「え?いつもなら旦那様はそういうと喜んで飛んでいくじゃないですか。」
「いや、今日は良いんだ。」
「は?……旦那様、熱でも出ましたか?大丈夫ですか?」
思わず旦那様の額に手を当てる。熱はない。
「お前……俺を何だと思っているんだ。」
少し呆れた表情をする旦那様。
そしてためらいがちに言った。
「……少し休憩していかないか。」
「疲れたんですか?なら馬車を呼びましょう。」
「いや、そうじゃなくてだな…。なんで普段は察しが良いのにわからないんだ。」
「旦那様がおかしいと思います。女性との交流を断るなんて。明日槍でも降るんですか?」
「お前は本当に俺を何だと思っているんだ!?」
嘆きながらのけ反る旦那様。うん、いつも通りな気はする。でもやっぱりおかしい。
観念したように肩を落としながら旦那様は言った。
「はあ…だから、昨日レディーたちに美味しいカフェを教えてもらったから行かないかということだ。」
「え?わたくしとですか?なぜ?」
「なぜってなあ…。たまにはそういうのもいいだろう。主人と執事、親睦を深めるのも大事なことだろう?」
「確かにそうですが…。」
「そうだろう。なら行くぞ。こっちだ。」
そう言って歩き出す。しまった口車にのせられた。
ここまで来たら仕方ない。おいて行かれないようにしないと。
そう思って旦那様を追いかけた。
わたしはヘンリーさんに事の次第を相談していた。
ヘンリーさんは顎に手を当て考え込む。
「なるほど……。それは大変なことになったね。」
「はい…。しかし、わたしは2年執事としてやってきていて、旦那様も気付いていなかったはずです。昨日の今日でそこまでたどり着くか疑問ではありますが…。」
「そうだね。たった1日でそういう考えになることは考えにくい。ただ見た目の特徴を言わなかったことは気になるね。ふむ…。ここは私がちょっと聞いてみよう。」
「ありがとうございます。」
「とりあえず、今日は普通に過ごしなさい。ここで別の行動に移すのも変だからね。」
「はい。」
そうしてヘンリーさんと別れる。時計を見るとそろそろ次の仕事の時間だ。
旦那様の元へ行く。
「旦那様。次の公務のお時間です。」
「もうそんな時間か。行こう。」
書類をまとめ、立ち上がる。
なぜか頭をぽんと撫でられる。そのまま部屋を出ていくので慌てて追いかける。
紅い絨毯が張られた廊下を歩く。
朝のことがあるので沈黙が続くと落ち着かない。けれどなにか話そうとすれば墓穴を掘る気がして話せなかった。
次の公務は会談だった。顔見知りなのでやりづらさは感じないだろう。
二人で話しているところをわたしは傍らで人形のように立って待っている。お茶などはすでに用意してあるため、やることがない。何か言われるかお茶が無くなるまでは待機ということだ。
1時間ほど経った頃、話が終了した。
「では今日はこれで。今日も有意義な話ができて良かった。」
「それはこちらの台詞だ。流石サミュエル君は分かっているな。」
「お誉めに預かり光栄です。」
そうして握手して別れる。
帰りはいつも通り馬車だと思っていたのだが、旦那様が歩いて帰りたいとのことなので大した距離でもないし、今日の公務はこれで終わりなのでそうすることにした。
「珍しいですね。旦那様が歩きたがるなんて。」
「ちょっとした気分転換さ。」
旦那様に半歩遅れる形で歩く。そしていくつかの視線を感じる。旦那様に熱い視線を注いでいるのは町中の娘たちだ。確かにこんなイケメンが歩いてきたら見てしまうだろう。
旦那様も視線に気づいたのかそちらに目をやり、微笑む。キャーという悲鳴が上がる。
…なんかいつも通りの旦那様に戻った気がする。というかこのまま探し人のことは忘れてくれないだろうか。……そうだ。
「旦那様、行きたければ行ってよろしいですよ。」
「む?」
「明日は幸い午後からの公務です。日付が変わるまでに帰ってきてくださいね。」
では、と言い立ち去ろうとする。
しかし、慌てた様子の旦那様に手を掴まれて止められてしまった。
あの時よりも強い力。少し痛いくらいだ。
「っ旦那様、痛いですよ。」
「わ、悪い。」
「どうしたんですか?」
「いや、どうしたも何もレイジが勝手に行こうとするから、ついだな。」
「え?いつもなら旦那様はそういうと喜んで飛んでいくじゃないですか。」
「いや、今日は良いんだ。」
「は?……旦那様、熱でも出ましたか?大丈夫ですか?」
思わず旦那様の額に手を当てる。熱はない。
「お前……俺を何だと思っているんだ。」
少し呆れた表情をする旦那様。
そしてためらいがちに言った。
「……少し休憩していかないか。」
「疲れたんですか?なら馬車を呼びましょう。」
「いや、そうじゃなくてだな…。なんで普段は察しが良いのにわからないんだ。」
「旦那様がおかしいと思います。女性との交流を断るなんて。明日槍でも降るんですか?」
「お前は本当に俺を何だと思っているんだ!?」
嘆きながらのけ反る旦那様。うん、いつも通りな気はする。でもやっぱりおかしい。
観念したように肩を落としながら旦那様は言った。
「はあ…だから、昨日レディーたちに美味しいカフェを教えてもらったから行かないかということだ。」
「え?わたくしとですか?なぜ?」
「なぜってなあ…。たまにはそういうのもいいだろう。主人と執事、親睦を深めるのも大事なことだろう?」
「確かにそうですが…。」
「そうだろう。なら行くぞ。こっちだ。」
そう言って歩き出す。しまった口車にのせられた。
ここまで来たら仕方ない。おいて行かれないようにしないと。
そう思って旦那様を追いかけた。
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