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シャーレイ〜定住への手続き⑵〜

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オズウェルは足取りも軽く、図書室に向かう。
たどり着いた建物は、石造りに、ツタが生えていて、どこか怪しげな雰囲気を醸し出していた。
少し緊張しながら扉を開ける。ギイっときしむ音を立てながら扉が動く。
中は階段や扉がいくつかあり、どこが図書室への入り口かわからない。
適当に開けても良いかわからず、どうしようか考えていると、声をかけられた。
 
「旅の人、どうかしましたか?」
 
振り返ると、水縹の髪をした色白の男性がこちらを見ていた。
服装は普通の国民服ではなく、特別な役職であることを示していた。自分とそう変わらない年に見えるのに、落ち着いた雰囲気を纏っていた。
なぜか目が合うと驚いたような表情をしていたのが気になったが、せっかくなので質問する。
 
「えっと……図書室に用事があって……この建物と聞いたんですけど。」
「あ、ああ。そこの扉が入り口ですよ。」
 
なぜか目をそらしながら教えてくれる。
オズウェルは内心首をかしげながらお礼を言う。
 
「いえ、どういたしまして。それで……あの。」
「はい?」
「えっと……」
 
なにかを言おうとしている。待っていると、さらに後ろから声をかけられた。
 
「ノア君、良かったら魚釣りでも行かない?」
「あ、えっと…」
 
用事があるのは彼にらしい。お邪魔になるといけないのでそれじゃあ、とその場を立ち去った。
話しかけ損ねてしまったその後ろ姿を彼は名残惜しそうに見ていた。

 
扉を開けると、少し涼しい風が流れ込んでくる。
壁一面、本で埋め尽くされていた。
本の整理をしていた女性がこちらを見た。
 
「こんにちは。」
「こ、こんにちは。」
 
少し緊張しながら挨拶する。オズウェルが緊張するのも無理ないほど、彼女は美しい人だった。色白の肌、艶やかな黒髪。聡明さを感じる瞳。オステリーアは親しみやすい美人という感じだったが、こちらの女性は高根の花という感じだ。
 
「えっと…セフェルさんですか?」
「ええ、そうです。何か御用ですか?」
「あの……この国に定住したくて、こちらで手続きできると聞いたんですけど…。」
「定住の申請ですね。こちらに来てください。」
 
そう言うと、大きな机のある場所へ招かれる。
そこから書類を取り出して、差し出してきた。
 
「これが定住に必要な書類になります。これで受理されると晴れてこのプリローザ王国の国民となります。」
「は、はい。」
 
書くこと自体はシンプルな物だった。しかし、一文字一文字書いていくと、自分は定住するんだと実感がわいてきて、こみ上げるものがある。
最後は少し震えながら書いてしまった。
 
「かけました……!!」
「お疲れ様です。これで判子を押せば晴れて国民となります。それではよろしいですか?」
「はい…!お願いします…!」
 
そして判子が押される。色々な感情で満たされる。
そしてセフェルは微笑んだ。
 
「ではこちらに来てください。国民の衣服を差し上げます。」
 
アラナが来ているのと同じデザインの服が渡される。
ドキドキと胸を高鳴らせながらそでを通す。そして鏡で自分の姿を見て思わず涙をながしてしまった。
そっとセフェルに背中をさすられる。
 
「おめでとうございます。プリローザ王国での生活を楽しんでくださいね。」
「はい…!ありがとうございます……!!」
 
涙をぬぐい、笑う。そしてセフェルに頭を下げる。
 
「ありがとうございました。わたし、早速親友たちに知らせてきます。」
「はい。きっと待ってます。この紙を渡しておきます。住所と畑の場所が書いてあります。さあ、行ってきてください。」
「はい!ありがとうございます。行ってきます。」
 
そして図書室を飛び出すオズウェル。
 
 
 
風を切るような勢いで進み、酒場のドアを勢い良く開ける。
幸い、中にはオステリーアとアラナしかいなかった。
 
「アラナちゃんっ…オステリーアさんっ…!帰化してきたよ!!」
「おかえり、オズウェル!うん、とっても似合うよその衣装!」
「おめでとう。」
 
二人とも祝福してくれるのがうれしくて、笑う。
暫く喜んでいたが、アラナが背中を押す。
 
「さあ、オズウェル。もう一人伝える人がいるでしょ?」
「アラナちゃん…。ええ!行ってくるわ!」
 
そう言って今度は酒場を飛び出す。向かうべきはあの人の所。
 
 
 
その人は神秘的な塔―――国民の間では縁の塔と呼ばれる―――ところにいた。
 
「エドワード君!」
 
呼びかけるとこちらを見る。服装に気づいたのか、驚いた顔をした。
 
「オズウェルちゃん…その恰好…。」
「旅を終えて、この国に帰化したの。よろしくね。」
「うん。良かった。僕もうれしいよ。」
 
そう言って優しい顔で微笑む。オズウェルもとてもうれしそうに笑った。
 
 
 
―――この日からオズウェルのプリローザ王国での生活が始まった―――
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