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シャーレイ〜国民としての朝〜

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鳥の声で目が覚める。
ゆっくり目を覚ましたオズウェルは起き上り、部屋が広いことに違和感を持つ。
暫く考えて思い出す。プリローザ王国に帰化して与えられたマンションに移ったのだ。
思い出すのと同時に、喜びがあふれる。本当にこの国の住民になったのだと。
暫く喜びに浸っていたが、ふと空腹を感じる。流石にもう、オステリーアの所でご馳走になるのも悪いだろう。いくつかレシピも教えてもらったので、それを参考に作ろうと考えた。
作るのはブットの香草グリルだ。レシピを見ながら慣れない手つきで作る。今までは旅人だったので料理をすることもほとんどなかったので手つきが危うい。アラナとオステリーア3人で料理したときも2人に心配されるほどだった。
慎重に魚をさばき、焦げないように焼く。結構神経を使いつかれるが、楽しかった。
そして少し焦げてしまったが、なんとか完成した。
 
テーブルに着き、食べてみる。
少し焦げの味がするし、同じレシピのはずなのに味が違う。食べれないわけではないが、オステリーアの料理には程遠い。もっと練習しようとオズウェルは思った。
食べ終わった食器を片付けていると扉がノックされる。
返事をするとアラナが扉を開けて入ってきた。
 
「おはよう。オズウェル。よく眠れた?」
「アラナちゃん、おはよう。ええ、今ご飯も食べ終わったところ。」
「大丈夫だった?」
「オステリーアさんと味は全然違ったけど食べられたわ。怪我もしなかったし。」
「良かったあ。あの時のオズウェルの手つき見てたら本当に怖くて……。」
「あはは…。頑張って上達します。」
 
そうして、アラナが朝からやってきた理由を聞く。
 
「特にこれといった用事はないんだけどね。新しい家はどんなところかなって見に来たの。」
「そうなんだ。こんな広い部屋ひとりだとちょっと落ち着かないね。今まで宿屋だったから。」
「ふふ、そう。でも多分世帯持ったらすぐ狭くなるわよ。」
「世帯って……まだそんなの考えられないわ…。」
「あら、分からないわよ?案外そういうのってすぐなんだから。」
「もう、そういうアラナちゃんは恋人とかいるの?」
「いるわよ~。何なら惚気てもいいわよ。」
 
ニマニマしながら言うアラナ。よっぽどその人のことが好きなのだと思うと少し羨ましくなった。
 
「そっかあ……。少し羨ましいわ。わたしにはわからないから。」
「前にも言ってたわね。何かあったの?」
 
少し逡巡してオズウェルは口を開く。
 
「これと言って恋愛では何かあったわけじゃないんだけど……。旅の途中で色々な人に出会ったから。裏切られることも多かったし。1回本当に危なくて男の人に襲われそうになったわ」
「え。」
「まあなんとか助かったけど。それから何というか…怖い…とは違うんだけど…現にエドワード君は大丈夫だし。」
 
自分でもわからない感情に言葉がまとまらない。
今では襲われても大丈夫な自信がある。それ以来、武術を磨いてきたから。
 
「男の人の本質ってあんなのなのかなって思ったら恋人とかは抵抗があるという感じかしら。」
 
なんとか言葉をまとめる。あの時の目を思い出すと今でも不快な感情が蘇る。
欲望にまみれた目。恋人となって、家族になったらそういうことだってする。
そしたらあの目をまた見ることになるのかもしれない。それは正直今は嫌だった。
そこまで言って、何も言わないアラナを見る。そしてぎょっとしてしまった。
 
「ア、アラナちゃん?」
「オズウェル…!」
 
そう、アラナは大粒の涙を流していた。
 
「つらい思いをしたわね。無理に進めようとしてごめんなさい。」
「謝らなくていいよ。アラナちゃんに嫌な思いしたわけじゃないし、わたしも恋に憧れがないわけじゃないから。」
 
それでもアラナの涙は止まらない。
泣き止むまでオズウェルは必死にアラナを宥め続けた。
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