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しおりを挟むその日は高校二年生に進級してちょうど二日目だった。
空き教室のロッカーの上に一人の男子生徒が腰を掛け、何やら話している。
そこには彼以外誰もいない…はずだが。
「いや~、よかったよ。今年こそちぃちゃんと同じクラスで。これで卒業まで一緒だし」
その生徒の名は…鍛冶屋孝信。
昨日から二年北組に在籍しており、出席番号は七番だ。
「…え?何で卒業までって?三年に上がるときはクラス替えないってさ。なんか今年からそうなったみてぇだよ。何年振りだっけなぁ…」
「他の人?正直ほとんど知らねぇな…。前同じクラスだった人もそんなによく喋らん人ばっかだし、同じ部活の人もいねぇし。あと、一人うちのクラスに転校してきて…」
ドンドンドン!
そこまで話したところで、外から誰かが戸を叩いた。
孝信はロッカーから降りて急いでそこへ向かう。誰なのかは何となく予想がついている。
「ちぃちゃん」
ガラッと戸を開けた先にいたのは、予想通り「ちぃちゃん」。もとい、出席番号十五番の黒石周子。先ほど孝信が話していた通り、彼女も二年北組のクラスメイトの一員だ。
「やっぱりここにいたー!もうちょいで予鈴鳴るから迎えに来てやったのよ」
「ありがと。もうそろそろ出なあかんかなって思ってた」
「もー、早く!」
催促され、孝信は「じゃ、また後でね」と行って空き教室を後にした。
「…どうせまた幽霊さんと話してたんでしょ?」
戸を閉めている孝信に、周子が聞く。
「…当ったりー」
「だろうと思った。孝ちゃん昔からよく一人で喋ってたし、私と遊んでる時も違う方向向いて全然関係ない話したりしてたじゃん。私も混ぜてーっていつも思ってたよ」
幼少期から付き合いのある周子は、孝信がこのような「体質」であることはもちろん知っている。
「何、混ぜて欲しかったの?」
「だってせっかく一緒に遊んでんのに…」
「しゃーないよ、色んな“人”がちょっかいかけてくるんだから」
「はいはい、孝ちゃんはモテモテでいいですね~」
「まぁ嬉しいけど実体がなきゃねぇ…」
「やっぱり嬉しいんじゃ~ん」
「てか今ならスマホさえありゃ…」
「おはよー!」
教室に向かう二人に接近してくるのは…
「うーす」
「おはよ美羽ちゃん!今日も朝から元気じゃん」
「早く学校来て部活のみんなで朝練してたのよ。私達も昨日から先輩になったんだし、後輩にしっかり教えられるようにしなきゃダメだもん」
二年北組 出席番号十番、神岡美羽。
美貌と煌びやかな雰囲気を持つ彼女はチアリーディング部に所属しており、如何にもオシャレな女子グループのリーダー格といった感じである。朝練をしていたと言ったにも関わらず、彼女のトレードマークである巻き髪がしっかりとキマっている。
「そうだよねー…もう私達も先輩になったんだよね…。あー!!ちゃんと先輩できるかなぁ!不安だよ~」
どうやら自信がないのか周子はグシャグシャと頭を掻きむしっている。一方、孝信はまだ余裕があるのかそれを涼しい顔で眺めていた。
「大丈夫だよ!周子ならできるって!」
美羽は咄嗟にフォローしたが…
周子の表情は思い掛けないものに変わった。
少し前まで笑顔で喋っていたというのに、非常にとげとげしい表情で美羽を睨んでいる。
「…!ごめん」
美羽はハッとした。その理由が何なのか気が付いたようだ。
「…いいよ。次からチカって呼んで」
「わかった…」
「私だって美羽ちゃんみたいな可愛い名前がよかったよ…」
「でもいいじゃん周子だって。鍛冶屋君みたいにちぃちゃんっていうのも可愛いし。じゃ、またね」
そう言って美羽は一足先に颯爽と教室へと向かった。
「…まだこんなこと言ってんの」
周子は物心ついた時から自分の名前が気に入らなかったようで、孝信は幼い頃からそのことで度々愚痴を聞かされていたのだった。
「だって…周子だよ?私らの世代でなかなかいないじゃん、子がつく名前って」
「せっかくお母さんが考えてくれたのに」
「またそんなこと言うー!そんなことぐらいわかってるよ!ただ、考えてくれたとしてももっと可愛い名前がよかっただけ。美羽とか美羽とか美羽とか…」
「ところでさ…、神岡さんと仲良いんだ?」
孝信は美羽とは昨年は違うクラスであった為、彼女のことはあまりよく知らない。ただ、「天高(こと天道学院高校)で一二を争う美女」との評判とは聞いていたが。
「昔から知ってるの。うちのお父さんが美羽ちゃんのお父さんの後輩だから、たまに遊ぶことがあって」
「そういうことかー」
「だから家族ぐるみで仲良いってやつかな。…まぁ孝ちゃんの方が断然長い付き合いだけど」
「そーなんだ」
「だって美羽ちゃんは同じ学校なのも高校からだし」
「そっかー……それにしても、」
「え?」
「さすが、“天高一ニを争う美女”だな。あんなにキレイな子そうそういねぇよ」
顎を撫でながらあっさりと褒める孝信に、周子はまたムッとしてギロリと睨み付けた。
それとほぼ同時に、キーンコーン…と予鈴の音が鳴り出した。
「もぉ!孝ちゃんが無駄話するから!」
「えっ、俺のせい!?」
「いいから急いで!!」
教室はすぐそこだったが、周子は孝信のブレザーの袖を引っ張って連れて行った。
「チカ、おはよー」
「おはよー!」
「それでさー、昨日のドラマ見た?」
「見た見た!」
「あたしもー。なかなか衝撃的な展開だったよね!」
「今日起きたらなかなか寝グセとれなくてよ~」
「てかまだついてんじゃん」
「ホントだ」
「えええ!!ウソだろ!?」
「ちゃんと直してこいよ~」
「ほら、ワックスあるから」
「ありがとー!」
「先生来るぞ、はよ直せ」
この通り、教室はいつもと何ら変わらず普通に騒がしく、担任教師が来るまではこの状態が続いていた。
しかし…
この数時間後、
新クラス二日目にしてあんな事件が起こる…
なんて、四十人いるクラスメイトの中で
誰一人予想もしていなかった。
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