魔王を"封印"した聖女の生まれ変わりはまた聖女でした!

此花チリエージョ

文字の大きさ
52 / 52
魔王と聖なる乙女 ~一万年前の真実~

魔王と聖なる乙女 ~ 8年の月日が流れ ~

しおりを挟む
※視点が何回か切り替わります。誰視点が注意書きがあります。
※冒頭はファラット視点です。

ーーーー


 
 ディアの【白数珠】が壊れ “ 反動 ” で倒れた事件から8年の月日が流れ、ディアとファラットは18歳に成長し、ファラットは村長と呪術一族の長祖父の約束どおりに魔物討伐に森へ来ていた。
 ファラットは地面に魔方陣を描き終えると、上空から殺気を感じて、殺気そちらに目線をむける。

( ん、あれは 『 ブレイズファルコン 』 だな )

 火を吐き真っ赤に燃え盛る鷹に似た魔物・ブレイズファルコンが羽ばたいており、魔方陣を描くファラットを敵と見なしたのかファラットを見据えていた。
 ファラットも上空のブレイズファルコンを見上げながら両手を左右に広げ、

「 〈 古の地から、この地に住まう者よ。 我の魔力を対価に、かの地から水流の能力ちからを宿し “ 精霊 ” を此処へ、召喚せよ 〉 」

 ファラットの呪文に共鳴するように、魔方陣から蒼白い光が溢れ、魔方陣の中心からざっぱんと水が溢れだし、その水は徐々に美しい水の精霊・ウンディーネに姿をかえる。
 ウンディーネはブレイズファルコンから、ファラットを庇うように立ちはだかる。
 ブレイズファルコンが口から火柱を、ファラット達をめがけ噴射し、

「 ウンディーネ、防いで! 」

 ファラットの “ 命令 ” に従いウンディーネは水の盾を作り火柱を防ぐ。
 防がれた火柱が森の木々へ燃え移ろうとして、

「 ウンディーネ、燃え移らないよう消火して! 」

 ウンディーネは上空にたっぷんと水の塊を出現させ、ざっぱんと大雨の如く降らせて火柱を消火した。
 ぐっ、ぐぐぅ……と、水が弱点のブレイズファルコンは呻き声をあげるが逃げる気配はなく。

( 何かあれば風の精霊シルフにディアを癒すよう命じてあるけど……自然発生した魔物か、ディアが制御できなくて呼び出した魔物か判断出来ない以上、ディアの負担を考えれば極力倒したくない、けど )
「 ……倒すしかないのか 」

 ブレイズファルコンは身体を覆う炎の温度をあげ、真っ赤に燃え盛る炎は青白く色をかえ猛スピードでファラットをめがけて飛んでくる。
 弱点である水を司るウンディーネを倒せないならば、契約主であるファラットを倒してウンディーネを消滅させようと、ブレイズファルコンはそう判断したが、

「 だよ 」

 ファラットの横を何かが通りすぎ、ブレイズファルコンを切り裂き、真っ二つに分かれたブレイズファルコンから炎が消え去り地面に落下する。

「 ふぅ、いい加減、この作戦やめねぇ、毎回、ハラハラして気が気じゃねぇーんだけどさぁ 」
「 いや、召喚の俺と、チャクラム使いのガルーシェだと今回みたいな遠距離戦はまだしも、接近戦だと不利になりやすいから、当分は “ 囮作戦 ” でいこう 」

 ぶつくさ文句を言いながら木々の茂みから、逞しい体格に素早さを重視した最低限の防具を身に付けて、深緑色の髪と薄紫色の瞳を持つガルーシェが現れる。
 ガルーシェの人差し指には円形の武器・チャクラムがぐるぐると回っている。 この武器がブレイズファルコンにとどめを真っ二つにしたんだろう。

「 自分を囮にしろ! って言う奴の神経はどうかしてるよ! 俺がタイミング誤れば、最悪死ぬぞ 」
「そう言いながら、1度も誤ったことはないだろう。 君の観察眼は信頼してる 」
「 はぁ、そもそもお前なぁ、お・ま・え、が魔物討伐をしなくちゃならなくなった原因は、ディアを連れ出した、お・れ・ら、にもあるんだぜぇ。 それを忘れてねぇか? 」

 ガルーシェが8年前の【白数珠】が壊れディアの能力ちからが暴走した件に罪悪感を抱いていることはファラットも知っている。 それはマヤとダルクも一緒だが、村長や村人の反対を押しきって魔物討伐を手伝ってくれたのはガルーシェだけだった。
 ガルーシェの感の鋭さにどれだけ助けられたか、

「 それでもガルーシェには感謝してる 」
「 はぁ、まだ問題は解決してねぇけどな。 分かってるのか、もう期限は迫ってるって 」
「 分かっているよ。 そろそろ旅立った呪術一族の人達が戻ってくる時期だ。 なにか成果があるといいけど……」
「 そうだな。 もうちっと、巡回続けるか? 」
「 ああ 」

 ガルーシェの言葉にファラットは頷き、巡回を再開して森の中を歩き出す。
 ファラットとガルーシェは8年間、一緒に魔物討伐のペアを組んでおり、現在いまでは “ 無二の親友 ” になっていた。




 ーーーー



 ※リール視点。

 リールは留守をカヤックとディアに任せ、実家の呪術一族の屋敷に訪れていた。
 昔から一族に伝わる、あらゆる呪術に関する書物が保管されている部屋で片付けをしていた。

「 もう、お父様ったら、こんなに散らかさなくてもいいのに! あら、何かしら 」

 リールは床に無造作に山ずみになって散らかっている奥に、縄で幾重にもぐるぐる巻きにされ呪符が貼られている、書物が入りそうな大きさの古びた木箱を見付ける。

( なんだろう……この箱、気になる )

 好奇心に負けたリールは、呪符を剥がし縄をほどき木箱を開けて中を見てみる。

「 ただのじゃない、どうしてこんなに厳重に保管されているのかしら……? 」

 リールはパラ……パラッと書物を開いて読んでいく。

「 これ、は――…… 」

 そのあとに続く言葉は発せられず、リールの喉にゴクンっと飲み込まれ、

( この方法さえあれば、解決策が今すぐ見つからなくても、なんとかなるかもしれない。 さすがに、わたしでも “  ” だし、カヤックとの “ 約束 ” を破ることになるけど、ディアを助けられるなら些細なことだわ…… )

 ディアを助けたい、ただその思いだけで、書物を熟読し続けた。

( 使わないなら、使わないでいい、あくまでもコレは保険……最後の “  ” よ )

 この時、リールが発見した書物が、後々に起きる “ 悲劇 ” の原因になることを誰も知らない。



 ーーーー



 ※ファラット視点。

 ガルーシェは森の奥を指差して、

「 おい、ファラット。 ここから北西に魔物の気配が感じるぞ。 数は……1体だな。 どうする? 」
「 そうだなぁ、 とりあえず様子だけ見るか、草食の魔物で村に危害がなければ、このままでもいいし、危害があるようなら……作戦どおり倒そう 」
「 了解。 でも、あんま無理すんなよ。 お前は魔物相手でも、わざと逃げられるように追い詰めてるから殺生するのに抵抗あんだろ 」
「 ……やっぱり、気付いてたんだ。 さすがだな 」
「 まぁ、8年前のこともあるし、力の流れを見ればなんとなく……んん? 」
「 どうした? 」
「 いや、北西から感じていた魔物の気配が消えた? 」
「 え……? 」

 8年間、ずっと魔物の位置をガルーシェに探らせていたが、途中で気配が消えたのは今回がはじめてで、ファラットとガルーシェは困惑したが、

「 くそ、俺の調子が悪いのか 」
「 ガルーシェ、今日はここまでにして切り上げるか? 」
「 そう、だな。 調子が悪いまま続けても良くねぇし、村に帰るか 」
「 じゃあ、つかまれ 」
「 おう、いつも悪いな 」

 ファラットとガルーシェは森の奥、北西方向には進まず、ファラットがカヤックから受け継いだテレポートの能力ちからを使って村へ帰って行った。



 ーーーー



 ※???視点。

 森を北西に進んだ先、ガルーシェが魔物の気配が感じなくなった辺りで、

「 “  ” を、生きながられたかも知んないのに、な。 兄さん、結界がゆるんでね? 」

 ぷすぷすと黒焦げになった猪に似た魔物を足蹴にしながら見た目が18歳ぐらいの、漆黒の短い髪を揺らし長細く尖った耳に褐色の肌を持ち、つり目の鋭利な銀色の瞳は上空、いや、木の枝に腰をおろし、自分を見下ろしている、見た目が20歳ぐらいの兄を見上げる。


「 ふむ、そうだな。  」
「 ったく、最近、魔物も増えてるし、南東にある人間の村で何かあるのか? 」
「 イース 」
「 なんだよ、ディース兄さん 」
「 もし、そうだとしても人間の世界のことは関わりないことだ。 気にするだけ、無駄だろう 」
「 無駄だけどさぁ、魔物の相手をされるのは “  ” の、じゃん。 エルフらは、引き込もって頼りにならねぇし」
「 彼等は “ 戦闘 ” が不得手だしな、得意なダークエルフ我等で補えばいいだけだ。 結界も強化したし、帰るぞ 」
「 へいへい 」
「ふてくされるな、妻が美味しいミートパイを作ったから食べに来るか? 」
「 やった、義姉さんのミートパイ大好き! 行く行く 」
「 たく、もう100歳になるのに、まだ子供だな 」
「2000歳になる兄さんには言われなくねぇーよ。 もう、じ「 イース、これ以上は許さないよ 」
「 ぐっ 」

 じじぃと続くはずだった言葉を、イースと呼ばれたダークエルフは必死に飲み込む。
 親子ほど歳が離れた珍しいダークエルフの兄弟は森の奥へ、結界で守られた自分達の村へ帰って行く。
 数ヶ月後のこの地で、イースはと運命の出会いを果たすことになる。

しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.19 此花チリエージョ

ありがとうございます!すっごく嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。