この気持ちを恋と言うこと勿れ

三十路独身フリーター男

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第1話 まだ童貞!? マジっすか!?

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「まだ童貞!? マジっすか!?」

 切っ掛けは後輩くんのその一言だった。

「馬鹿ッ!? お前、声が大きい……!?」

「おっと、すいません……えへへ」

 仕事終わりの食事ついでに入った居酒屋の個室にて、俺の席の向かいに座る後輩くんは頭を掻きながら笑みを浮かべている。

 その顔は何だか謝っているというよりも、何処か勝ち誇ったような、何処か俺を憐れむような表情で内心イライラする笑い方だ。

 この後輩くんは如何にも今の若者といった風貌で、同じ会社の職員でなければまず出会うことも話すこともない人種であっただろう。しかし、彼のために補足するのであれば、彼は実に真面目で仕事の出来る青年だ。

 人を見かけで判断してはいけないと言うが、まさに後輩くんはその典型例に当たる人間で、直属の部下になった時は随分と落胆したものだったが、今は彼無しでは仕事は出来ない。

 社交性有り。人付き合いも良好。私のようなオタクを馬鹿にしない。寧ろ後輩くんの方が重度のオタク。仕事が早い。物覚えが良い。真面目に働く。

 等々、列挙するのも大変で、一緒に働けば働く程いい奴と思える、そんな好青年だ。

 一方で、そんな俺はというと、気が付けばもう34歳。勿論、独身。周りの友人にも子育てする奴らが増えた中、俺はというと仕事ばかりの日々。最近やたらと腰が痛い。

 等々、どうしてこうなったのかと自問自答する日々を過ごす、そんな中年だ。

「おっし……! じゃあ、風俗行きましょうよ! 風俗!」

 注文していた日本酒をクッと飲み干して、後輩くんはそう言うとテーブルに置いていた自分のスマホに手を伸ばす。

「ちょちょちょ……っ!? ふ、風俗……!?」

「コウ先輩、童貞なんすよね? なら風俗とかも行ったことないでしょ? 俺、良い店知ってるんすよ……!」

 自信満々といった様子で、スポポっと軽快な音を鳴らしながら何やらスマホを弄る後輩くん。

 確かに、後輩くんのリサーチ能力は高く、飲み会の場所や花見スポット、ランチやディナーのお店だってあらゆる良い店を知っている。現に今、俺たちが居るこの小綺麗でありながらも低価格というナイスな居酒屋も、後輩くんが教えてくれた穴場スポットなのだ。

「いやぁ……、でもな……ふ、風俗だろ? 滅茶苦茶高いんじゃないの? じゅ、十万……とか?」

 俺は無い知恵を絞ってそう尋ねてみたが、対して後輩くんはというと嫌味の無い笑い声を上げる。

「十万って、どんな高級店っすか!」

「そ、そうなのか……?」

「高くて一万そこそこっすよ……」

「一万円……」

 幸運なことに……いや、奇しくも? 俺の財布には一万円ぐらいの余裕はある。

 しかし……このご時世、一万円もあれば様々なことが出来る。

 例えば、良い飯を食ったり、新作のゲームソフトを買ったり、それに……ソシャゲに課金したり……あれ? 意外と少ないのか……?

「うしっ! 今から予約取れましたんで、行きましょうよ!」

「うぇ!? い、今から……!? 急すぎないか……」

 変に喉が渇いてしまい、手元にあったビールを一気に喉に流し込んだ。ごくんと音を立ててビールが食道を下るが、あまり喉が潤った気がしない……。

「えー、明日は休みだからいいじゃないっすか! それに、善は急げって言うでしょ! ……あ、ここ割り勘で良いっすよね?」

「お、おう……」

 後輩くんは軽いノリで、さもコンビニに行くようなノリで俺を風俗へと誘い、俺たちは会計を済ませた後に足早に店を出た。

 だが、よく考えてみれば風俗なんてこんなノリでないと行けないのではなかろうか? 

 後輩くんのことだから、無理強いはしない。俺が嫌だと言えば残念そうな顔をして、食い下がるようなことはしないだろうし、何度もこの手の話題を振るような面倒くさい男ではないことは従順承知している。

 であるならば、今こそが絶好の機会なのではないだろうか。

 だって酒に酔っていて意識も曖昧だし、後輩くんの顔を立てることも出来る。

 一万円以下で童貞を捨てられる……と言えば、変な言い方ではあるが、童貞なんて持っていたところで何の役にも立つことなどない。もしも、世界中に「非童貞だけ殺すウイルス」が蔓延したのであれば、その時は俺は生き残れるだろうが、「あ! あの人童貞だったんだ……」とその後の世界で女性に白い眼で見られた日には首を吊りたくなって、結局は死ぬに違いない……。
 
 ということは、童貞である必要はないのだ。

 さらば童貞の日々! 今日、俺はオスとしての階段を一歩登るのだ!
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