「第二至上主義論者」の斯くも難しき恋心

第23話 第二至上主義論者の経験値

「はぁ？そんなこと言われなくても知ってるわよ！あのね…、お昼休みの度にあんだけ仲睦まじい様子を見せつけられれば誰だってわかるわ！でもね、そんなことは問題じゃない！いえ、寧ろ好都合！二階堂くん！一条さんと別れてあたしと付き合うことをお勧めするわ！」

「……」

　私は二宮さんの悲しむ姿を覚悟していたが、どうやらその心配は要らない様だった。寧ろ、彼女は生き生きとした表情である。

「いや、二宮さん…。私からこう言うのも何だが、普通相手から“付き合っている人がいるから”と言われたら、そこは諦めたり悲しんだりするところじゃないのかな？」

「何でよ？さっきも言ったでしょう。あたしは二階堂くんが一条さんと付き合っていると知って、だからこそ貴方を好きになったのよ。…二番目にね！」

「……すまない。やはり理由がよくわからない。良ければご教授いただけるかな？」

「いいわ！その耳の穴を掻っ穿ってよく聴きなさい！」

「頼む」

「いいこと？付き合うなら女性経験の無い男性より、女性経験のある男性の方いいのよ！」

「ほう。それはどういった理由で？」

「一度でも女性と付き合ったことがあるということは、女性に接する術について実体験で学んでいるということなの。幾ら性格が良くっても、幾ら顔が良くてもお金持ちだったとしても、女性と付き合ったことが無かったら無意味。それってただ『自分は出来る男だから女性と付き合うなんて楽勝！』なんて思っているに過ぎない勘違い野郎よ！“百聞は一見に如かず”！女性経験のある男性の方が気遣いも出来ていて、きっと素晴らしい付き合いになるに決まっているわ！」

　確かに。二宮さんの言い分もわからなくはない。それは男女の関係というだけの話ではなく、世間一般的にも通ずる話なのかもしれない。練習や鍛錬を無意味と軽んじるわけではないが、やはり一度の実践がその人の価値観や考えを大きく変えるということは十分にあり得るし、実践を踏まえた上で考えというのには論理性が増すだろう。

例えば、恋愛について色々な知識を熟知している人がいるとして、その人が一度も誰ともお付き合いしたことがないのなら、やはり説得力に欠ける。知識だけがいっぱいあっても家を建てたことのない建築家に家造りは任せられないし、手術経験のない医者もあまり信用できない。

「成程。二宮さんの言い分はごもっともだと思う」

「じゃあ…！」

「しかし、果たして私は二宮さんを満足させられる程に経験を積んでいるのだろうか？」