碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

20 交流と拒絶

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side リオン=アストラル

「それじゃあ僕はそろそろステラ叡団長のもとへ行くよ。あまり遅くなると、あの男から情報を聞き出せなくなってるかもしれないからね」

僕はそう言い残してもう姿の見えなくなったステラ叡団長たちの後を追っていく。

あの醜い男は、樹宮殿ファレスト近くにある守護叡団ビースト・ロア専用の施設に収容されたはずだ。

ここ亜人国家レグルスには、密な警備を備えた厳重な牢獄はない。一時的に犯罪を犯したものを閉じ込める勾留所はあるけれど、それすらも今から向かう場所にしかない。

この理由としては、まずこの国は曽祖父の代まで他とは一切交流を持たない閉鎖的な国だったことにある。

はるか昔から人間によって迫害されてきた亜人たちは、種族間でのみ寄り添い合い、交流を深め続けたために、たとえ家族でなくとも亜人同士の結束が固かった。そのせいか、外部からの侵入者でもない限り、大きな犯罪などはほとんど起こらなかった。

犯罪が起こらないのなら、閉じ込めておく牢屋など作る意味がない。だからこの国には他国のような立派な牢獄は設置されていない。

ただ曽祖父の代になり、外部との交流が強引に解禁された。そのせいか、主に人間による犯罪が横行したために、急ごしらえではあったけれど、簡易的な牢獄を設立したらしい。そして祖父や父の代になって細かなところを改修・修繕して今の勾留所が守護叡団ビースト・ロアの施設敷地内に併設された。

僕は以前、なぜ他の国と同じように監獄や牢獄をつくらないのかと、子どもながらに父上に聞いたことがあった。その時父上は『なぜ大罪を犯したものの世話を長期的にする必要がある。そんなことをするくらいなら、手荷物を全て取り上げどこぞの森に捨てた方がいい』と言った。

それではその男がこちらに復讐をした時に対応に遅れるのではないかと、僕は懸念した。

けれど父上はさらにこう言った。『そして監視をし、その者の動向を探る。その者が諦めるならそれでよし、復讐のために何か準備するなら完膚なきまでに叩き潰せばいい。心が折れるまでな。そして何かの闇組織に関係するのならば、そのアジトの場所が割れる。そこを袋叩きにすればいいだけだ』とね。

ここまで聞いてあの頃の僕はようやく納得がいったけれど、父上のこのお考えはなかなかに残酷だ。

まず荷物を全て取りあげて森に放置なんてしたら、ほとんどの場合間違いなく魔物に襲われて死ぬ。つまり父上は問答無用で死刑だと言っているようなものだ。

国の平和を乱す悪には、叡王として当然の罰を与えているだけにすぎないのかもしれないけれど。

「それにしても、ノアもシンも全然変わってなかった」

実は二人のことはノアズアークがこの国に来る前から知っていた。EDENでは様々な噂話が飛び交っているけれど、その中にノアズアークに関するものがあった。なんでも帝都消滅の危険性まであったとされる未曾有の魔物を討伐したとか。

あくまでも噂だから、詳細なことはわからなかったけど、この時に僕は、ノアたちが僕と同じように冒険者をしていることを知ったんだ。

あの頃の約束を、二人は守ってくれている。それだけで心が躍る想いだった。そして父上が王家専用の伝書鳩を使ってノアたちがこの国に来ていることを知らせてくれた時は、ちょうど護衛とともにボレアスを視察で回っていた。もし嬉しさのあまりその場で小躍りなんてしていたら、きっと叡団員のみんなに笑われていたことだろう。危うく僕の王子としての威厳がなくなってしまうところだった……。

結局ノアとシンに会いに行けたのはその知らせをもらってから数日経った後だった。流石に自身に課せられた責務を放棄するほど、僕もマヌケではないからね。

これで僕もノアとシンと一緒に冒険の旅に出られると、そう心も身体もうずうずとさせて僕の父上、つまりはレオン叡王のもとに報告書を提出しに行った。そして二人と約束を交わしてすぐに家族に旅に出ることを伝えていた僕は、その時が今であることを意気揚々と話した。

昔からそう伝えていたし、はなから時期叡王は兄さんしかいないと考えていたから、スムーズに話が通ると思っていた。けれど父上は僕の考えとは相違することを言い出した。


『ふむ。その件は承諾しかねるな』

『……?!何故ですか、父上!』

父上は真剣な眼差しで取り乱す僕を見据えていた。決して冗談で言っているわけでもなく、僕を揶揄っているわけでもないのは目に見えて理解した。

『理由は……そうだな。仮に俺でなくとも、妻もレンも同じことをお前に言っただろう』

『それは理由にはなっていません!何故、今さら反対するなどと……』

『勘違いをしているぞ、リオン。俺は一度だってその件について首を縦に振ったことはない』

『…………』

確かにそうだ。父上は僕が早期に冒険者になることを認めてはくれたけれど、ノアたちと旅をするためにということについては何も指摘していなかった。保留にしていたんだ。

『俺がこうも頭ごなしに否定しても、お前も納得がいかないだろう。冒険者を志したきっかけについても、この国最強の栄誉を手に入れたことも、全てはその約束が根幹にあるのだろうからな』

『流石のご慧眼です、父上。ですがそれを理解した上で反対をするのならば、僕は第二王子の肩書を捨てる覚悟だってできています』

この国の頂点たる王族として生まれた僕が、この国で最も恵まれた環境で育ってきた僕が、その責務を一生涯果たすことなく、他所でのうのうと楽しむこと。それは国民に唾を吐き捨て暴力を振るうことと同義なのかもしれない。けれど僕は自分の選択に後悔はしないと、そう心に誓って今まで生きてきた。

自分勝手だと周囲から蔑まれたっていい。ただ僕は自分の心のままに生きたいんだ。

『……そうか』

父上は僕の揺るぎない覚悟を感じ取り、何か考え込むように一度目を瞑った。そして数秒して、ゆっくりと目を開けた。

『ならば条件を課す。現在この国の平和を乱している大事件を知っているな』

『もちろんです。あのような卑劣な事件が三ヶ月以上経った今でも解決されないなんて、この国の平和を守護する者のひとりとして、見過ごせる事態ではありませんから』

『その事件を、リオン、お前とノアズアークで解決してみせるんだ』

『え……?』

父上の突拍子もない言葉に、僕は困惑してしまった。

確かに冒険者たちにもこの件は協力をしてもらっているけれど、ノアたちは亜人の冒険者というわけではない。この国では大半の者に悪印象を持たれている、人間という存在が捜査に組み込まれれば、両者の間に波風が立つのは目に見えている。さらにはそれによる捜査の混乱も想定されてしまう。連携や信頼が大切なこの状況で、ノアたちには申し訳なく思うけど、ノアズアークの面々に協力を要請することを懸命な判断だとは僕には思えなかった。

『お前の考えていることはわかる。だがいつまでも人間を避けていては、この国のさらなる発展は見込めない。妥協のないよりよい国づくりのためには、古くから俺たち亜人にこびりつく人間への憎悪を、少しずつでも霧散させねばならない。これは先先代叡王の時代ではなせなかったことであり、俺の父である先代叡王の願いでもあった』

僕の祖父である先代叡王レオニード=アストラルは、この国に確かな制度をもって新たな風を取り入れた偉大な人物だ。僕はみなが一様に尊敬し褒め称える初代叡王よりも、身内贔屓かもしれないけれど、僕の祖父の方が尊敬すべき亜人だと考えている。

初代叡王は、ハクタク様のお力添えによって何者からも亜人を守る国づくりに成功したお方だ。

古書をあたれば、当時の戦乱が止まない状況も相まって、亜人たちの苦しみを取り除くには独立国をつくり保護するしか、亜人たちを守る術はなかったことがうかがえる。このこと自体は誰にでもなせることではないし、これは初代叡王がハクタク様に認められたからこそなせた偉業だ。

けれどそれ以降、外界との仕切りを積極的に取り除こうとする叡王は、曽祖父や祖父の代まで誰ひとりとしていなかった。

初めて人間との交流を始めたのは、先先代叡王の僕の曽祖父だった。ただ、その時はしっかりとしたルールを設けないままに人間を迎え入れてしまったため、程なくして国民たちによって殺されてしまった。

それほどまでに亜人は人間を恐れ、憎み、忌み嫌っていたんだろう。人間との関係なんてとっくに切れていたというのに、なぜか外とのつながりを持とうとはしないなんて、僕からすればおかしな話だと思ってしまった。

そんな中、外との交流を半ば無理矢理にでも持とうとしたのが、曽祖父の遺志を受け継いだ先代叡王レオニード=アストラルだ。それなりのルールを敷いて実行に移したとはいえ民の合意を全く取れていなかったから、やり方については強引すぎてはいたけれど、僕は祖父のやろうとしていたことには強く賛同した。

なぜ祖父が他の叡王とは違って、民の反対を押し切ってまでこんなことをしたのかといえば、それは曽祖父の願いを叶えたかったことに加えて、若い頃に冒険者をしていたからだと父上は言ってた。外の文化に触れ、この国が技術的にも文化的にもいかに遅れているのか、いかに民たちが昔からの古い考えや固定概念に振り回されているのかを、その身をもって体験してきたらしい。

だからこそ、叡王になって間もなくして人間との交流を図ろうと策を打ち出し、実行に移した。けれどその数年後、祖父は曽祖父と同じように民たちの反乱によって帰らぬ人となってしまった。

急激な変化というのはなかなか受け入れられないもの。そんなことは誰もが知っていることだけれど、祖父の訃報にかけつけた父上は、スターライトの悲惨な有様を見て、肌でそのことを感じ取ったと言っていた。亜人たちの人間への恨みは、父上の想像を遥かに超えていたと。

だからこれきり、父上が叡王となってからは緩やかな交流政策がなされるようになった。徐々に徐々に、どんなに小さな一歩でも、前に進もうと。けれどそれでも、民たちの反感を多く買っている印象を受ける。それだけこの問題は長い時間と凝り固まった固定概念によって複雑に絡み合い、みんなの心に深く根付いてしまっているんだ。

『レオニード=アストラルは、誰がなんと言おうと僕の一番尊敬する叡王です。この国の発展と幸せを願って、外界との架け橋をつなごうとしたんですから。その願いを叶えられるチャンスだと、父上はそう判断したのですね?』

『そうだ。このまま亀の歩みの如く交流を続けていくのでは、おそらくは民たちの人間への憎悪を払拭させることはできないだろう。今の世代も、先代叡王の政策によって招いた人間たちにより、大切な者の命を失っているのだからな』

『人間も我々と同じ。優しい者もいれば、残忍な者もいる。前者のイメージがほとんどない今、ノアたちをそこにあてがうことで人間も亜人も一長一短にはいかないと、そう印象づけたいわけですね』

『ふむ、その通りだ。理解が早いなリオン』

『ありがとうございます。……その条件、飲みますよ、父上』

『そうか』と嬉しそうに笑う父上は、机の引き出しから紙とペンを取り出し何かを書き始めた。あの紙は、伝書鳩の氣術があらかじめ込められたものだ。

『それともうひとつ頼みたいことがある』

『……?』

『ハクタク様のご機嫌が今朝から頗るよくてな。遊び相手……いや話し相手をご所望らしい。頼めるか』

ハクタク様は機嫌がいい時はよく僕たち王族と茶会をしたいと言い出すんだけど、それがなんと長いことか。下手をすれば三日間、ハクタク様専用の空間に閉じ込められてしまう。

『……どうしても引き受けねばならないのですよね』

『今はちょうど誰も手が空いていなくてな。エマとシリウスには例の事件があったばかりだからな、ゆっくり休ませてやりたい』

その話は僕もここに戻ってすぐに知らせを聞いた。二人を心配する気持ちと同時に、爆死したという犯人に言葉では言い表せないほどの怒りが沸々と込み上げた。

『わかりました。その件も引き受けます』



そして結局、ハクタク様のお茶会に想定していた中で最も最悪な三日間という長い間付き合わされ、僕がノアたちに会いに行けたのは、スターライトに戻ってから四日後のことだったんだよね。

たまにこうやって僕たちを振り回してくるから、ハクタク様には呆れることも少なくないんだけれど、なんだかかんだで憎めない。本当に不思議な方だ。

「もうそろそろで勾留所に着くかな」

僕は聖樹から見て東側に位置する、守護叡団ビースト・ロア専用の施設が設けられた区域に入った。僕の姿を見かけた叡団員たちは、一様に僕に敬礼をする。そんなに畏まらなくていいと、前にも言ったはずなんだけど……まあいいか。

あと数分もすれば目的地に到着するはずだ。

「そういえば、あの時のノアの力は凄まじかった」

部分的にではあるけれど、獣化を使わないと押し返せないなんて思いもしなかった。

「お疲れ様です!リオン様!」

勾留所の扉前で待機していた叡団員は、緊張しているのか、耳に響くくらいの大声で敬礼をした。

「ああ、うん。お疲れ様。ステラ叡団長は中に?」

「はい!現在勾留所内にて、連続誘拐事件の被疑者を尋問しております!!」

「わかった。ありがとう」

「どうぞ!」

僕が中へ入ろうと一歩踏み出すと、元気な叡団員が気を利かせて扉を開けてくれた。

「ここか」

僕は入って真っ直ぐ進み、突き当たりを右に曲がって、さらに奥へと進んだ先にある重い扉を開けていく。扉の厚さは通常の五倍程度あることと、そもそも通常使われている扉とは別の特別な原材料でできているため、この扉は開けるのも一苦労な頑強な扉となっている。

『ゴオォォ……ガタン!』

「ふぅ。ようやく開いた」

重く閉ざされた扉を開ければ、薄暗い中ではあるけれどさらに下へと降る階段が見えた。僕は特に臆することはなく先へと進んでいく。ちなみにここまでの道中、叡団員は見かけていない。おそらくはみな、この下へと向かったのだろう。

獣化をすればさっきの扉も簡単に開けられるけど、なんでもかんでもあの氣術で事を片付けてしまっては、僕自身のさらなる成長につながらないだろうね。だから僕は獣化の使いどきはきっちり見極めてから、と昔から決めている。

「お疲れ様です!リオン様」

螺旋状になっていた階段を最後まで降りると、端に置かれた松明の光で淡く照らされた叡団員のひとりが、僕に敬礼をした。

「中の様子はどうだい?」

「ただいま三番の部屋にてステラ叡団長自ら尋問を行っております。ここに常駐していた叡団員も、見張としてこの扉の先で待機を命じられております」

「そうか。僕も入らせてもらうよ」

「はっ!」

僕は敬礼をし続ける彼を横目に、目前の木製の扉を開けた。さっきとは違い、スムーズすぎるほどに簡単に開く。

予算的にここの改修はまだ完了していないから、所々がこういった安い材料で造られたまま、改修されていないんだよね。

「あ、リオン様。お待ちしておりました。ステラ叡団長からあちらの部屋に入るように仰せつかっております」

叡団員の案内により、僕は三番と書かれた部屋の隣の部屋、つまりは四番の部屋へと入った。

「さっさと子どもたちの居場所を吐けや!!」

ぐぐもった声が隣の部屋から聞こえてきた。その声の方向へと顔を向ければ、ステラ叡団長が椅子に括り付けられた例の男の顔を、容赦なく殴っている姿が見える。

この部屋は三番部屋の様子を伺うだけの小さなスペースだ。奇数番号の部屋は尋問を行うスペースであり、偶数番号の部屋は奇数番号で行われることを監視するスペースとなっている。

「ぺっ……人の顔をボコスカボコスカと、殴ってんじゃーーー」

「勝手に喋っていいと言った覚えはねぇぞ!!」

「グハッ!」

男の顔は見ていられないほどに腫れ上がり、口や鼻からは血が流れ出ていた。
ステラ叡団員は加減を知らず、良くも悪くも、何事にも全力で挑むからね。あの男も運が悪い。

「ここに入ってからすでに三十分は経過したのですが、一向に情報を吐く様子はなく……」

僕より先に入って報告書を書いていたひとりの叡団員が困ったような顔をした。

「ここまでやって情報を吐かないのなら、ステラ叡団長がいくら暴力を振るっても、これ以上得られるものはないかもしれないね」

「ええ……なんだか妙な余裕を感じるんです。これを乗り越えられれば自分は助かると思っていそうな感じ、といいますか、まだ何か企みがありそうで……」

「なるほど。参考にさせてもらうよ」

あの男が主犯だというなら……まずはっきりさせなければならないのは、今まで誘拐された子どもたちの居場所だね。この情報はなんとしてでも最優先で手に入れなければならない。

……その安否に関わらず、ね。

「失礼」

「あなたは……ライアン宰相。何故ここに?」

この国の頭脳とも称される人物の登場に、他の叡団員たちも驚いた様子を見せた。

「現在この国の平和を乱している大罪人を尋問していると聞いたのですよ、リオン様。ですので見物にと来たのですが……なるほど、私の予想通りかもしれないですね」

「……?どういう意味ですか?」

僕がそう問いかけると、ライアン宰相は口角を少し上げた。

「……そうですね。ちょうどいい。リオン様たちに手伝ってもらいましょうか。ここではなんですし、宰相室で話しましょう」

そう一方的に話すライアン宰相は、僕がついてくることを信じているのか、後ろを振り向かずにさっさと部屋を出て行ってしまった。

あの笑みを浮かべたということは、きっと宰相の中で何か策を思いついたのだろうね。なら、これに乗らない選択肢なんてあるはずがない。

僕は一度ステラ叡団長の尋問の様子を見た後、すぐに扉に手をかけ部屋を出た。







side ノア=オーガスト

無精髭の男を捕まえ、お疲れ様会を開いてから今日で三日が経過した。しかしながら、依然として状況は何も変わらないままだった。いや、ひとつだけあるとすなら……無精髭の男が爆死して自決したことだろう。これによって誘拐された子どもたちの居場所がわからなくなり、状況は振り出しに戻ってしまったのだ。

「あらかたスターライトの住民からは話を聞いたけど、やっぱこれといって役立ちそうなものは何もなかったなー」

「唯一あの男から得られた情報といやぁ、ノートリアスとかいう闇組織が背後にいそうなことだけだなぁ」

「ゴードンから、何回もその名前聞いた。いつかそいつらも飲み込んで、俺が頂点に立つんだ、って言ってた」

「やっぱセツナの言う通り、本当にダスクもブリガンドもノートリアス傘下の組織だったんだなー。でもカズハとかはそんなの知らなかったって言ってたけどな」

「俺もそんな話は初耳だったぞ。ダスクもブリガンドも危険な組織であると聞いてはいたが、まさか両者ともに繋がってたなんてな。しかもあのノートリアスの仲間だったなんざ、笑えない話だぞ」

ペルロさんは深刻そうに言葉を紡いだ。

「そうですよね。私もそんな風に親から聞かされたことがあります。もちろん、実際にそういった人たちと接触したことはないんですけど」

現在オレたちは前と同じように二手に分かれて情報収集を行っていた。こっちにはボレアスからペルロさんが、あっちのチームにはムースさんがついている。ちなみにリオンやステラさんは、捕まえた男が爆死した件で手を焼いているため、こっちの調査に合流はできていない。

それとシンも今回はあっちのチームに行ってもらった。たまにはこういうのもありかと思ってな。まあ、かなり不機嫌そうではあったけど……。

「そのノートリアスってのはさ、そんなにヤバい組織なのか?」

「ヤバいなんてもんじゃないぞ。全ての悪事の裏にはノートリアスが絡んでいる、と言われるぐらいに恐れられてるんだ。先代叡王レオニード様が閉じこもっていた俺たち亜人に本格的に外との交流を持たせようとしてから、良いことももちろんあったらしいが、それ以上に国民たちが被った損害の方が大きかったんだ。それも全てノートリアスが背後にいたって話だ」

「金持ちに誘拐されたって、ベアドルおじさんが言ってた」

「よく知ってるな、リュウ殿。物珍しかったのもあるのだろうが、亜人たちが行方不明になる事態が相次いでな。その幕引きが国民たちの反乱による先代の死だったらしい。それを聞いた時はなんて悲しいことなんだと、俺は子どもながらに感じたな」

てことはリオンの祖父はもう亡くなってるのか。しかも守っていたはずの民の手によって……。

オレには祖父どころか両親さえいなかった。だけど育ててくれたヴォル爺やクロードみたいに大切な人が亡くなるって想像したら、正気じゃいられなくなるくらいに、つらくて、そして寂しい。

「なるほどなぁ。道理で過剰に人間へのあたりが強いわけだ。こんなんじゃ、人間の観光客も冒険者も誰も寄り付かなくなるわな」

「だな。たしかエルの話だと、亜人たちへの迫害があったのは大昔のことで、今では昔のような風潮はほとんどないんだろ?」

「その通りです。ただ、レグルスが本格的に外部との接触を図るようになってからは、一部の人たちの間で亜人のみなさんを……その、言いづらいのですが商品として扱う人たちが現れたのも事実です。ですので、亜人のみなさんが私たち人間を嫌うのは筋違いなことでもないんです」

「クソが!俺たちをなんだと思ってやがるんだ!そのゴミどもは!」

ペルロさんは感情に任せてそう吐き捨てた。

「落ち着けよ、ペルロの若旦那」

「わ、若旦那……?」

秀の呼び方に、ペルロさんはさっきまでとは一転して呆けた顔をした。

「今はそんな話をしてる場合じゃねぇだろ?………………」

秀はペルロさんの肩を組むように近づき、耳もとでごにょごにょと内緒話をし始めた。

「……ああ。わかってる。この目で見るまではまだ、信じちゃいないけどな……」

























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