碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

35 カナタとクロエ

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side カナタ

あたたかな茶色に染まった天井に、ふかふかなベッド。極悪人のはずの俺たちが受けるには、あまりに高待遇な処置。

ついさっき起きた俺は、そんな不可思議な状況に混乱した。

たしか、クロエを薬屋に預けてそれで……そうか、いつの間にか気絶したのか。そんで今、ベッドの上で休めている、と……。

だが冷静さを取り戻してからは、今までの俺たちの許されざる行いを見つめ返していた。

クロエを人質に取られて数ヶ月。

ノアたちがクロエを連れてきてくれるまで、生きた心地なんてこれっぽっちもしなかった。まさか自分があんなにもあいつのことを思っていたなんて、考えもしなかった。

失って初めて大切な存在に気づくとはよく言ったものだが、こんな形で知るなんざごめんだった。

仮にも一国の王族であった身であるのに、子供を攫う卑しい賊のような行為に手を染めることは、どんな理由があろうと絶対にあってはならなかった。

だが俺は、理性ではなく感情を取ってしまった。その結果、他国の無垢な民が犠牲となった。

だというのに俺の心には今、安堵と罪悪感が渦を巻いている。なんて穢れた心なんだろうか。

もしミステーロが滅ぼされていなくとも、こんな奴が国を統治し始めれば、あっという間に国なんぞ無くなっていただろうな。

「……」

ふと隣のベッドを見れば、親友のカイトが眠っていた。激闘を繰り広げたろうに、顔に傷は残っていなかった。

俺もあまり身体にだるさを感じない。あの日から何日か寝込んだだろうが、それでもここまで体力が戻っているのは、ポーションや薬草を使って治癒してくれたおかげだろう。

罪人の俺たちが施されていいものではないというのに。

「……」

再び天井に目を向ける。じっと見つめていれば、だんだんと視界が霞んでいく。

クロエ。お前は俺たちのことなんざ忘れて、幸せに暮らしてくれ……。

やがて、ぷつりと意識が途切れた。






「わたしに戦い方教えてよ!!」

「だーかーらー、お前みてぇなガキに教える暇は、俺たちにはねぇんだっつうの!」

「ヤダ!」

「は?やだじゃねぇよ。無理なもんは無理だっつってんだ!」

「ヤーダー!!」

「どわっ!」

クロエが俺の背中に飛びつく。その勢いと体重に耐えられず、前方によろめいちまった。

「おいくっつくな!降りろ!」

ぶんぶんと背中を左、右と揺らすも、俺の腹の前でがっちりと腕を組んでホールドしやがってるせいで、全く落ちる気配がねぇ!

「クソ!お前、前世はぜってぇ猿だろ!」

「んーっ!!絶対、離すもんかー!!!」

必死に抵抗してるっつうのに、カイトの奴は一度も手助けに入りゃしねぇ。

むしろ微笑ましく見守ってやがる……!

「っだぁーもう!」

面倒になり動きを止める。

「つうか、いつまで付いて来る気だよ、お前は……」

俺は天を仰ぎ掌で顔を覆った。

あの日、魔物に襲われた村からこいつを助けた。
単に魔物に蹂躙されているのが気に食わなかった。ただそれだけだったんだが……。

付き纏われてかれこれもう十日。

邪魔だ、無理だ、どっかいけ、失せろ、などなど……何度拒絶してもこいつは、「戦い方を教えろ!」の一点張り。それが寝てる時も食事の時も、いつどんな時もひょいっと現れて、こんな風にせがんでくる。

ガキのお守りなんざしたことねぇんだよ、俺は……!

「決めた!教えてくれるまで、ずっとこのままね!」

「はぁぁ?!」

このままって……これじゃ、木に止まる蝉つうかコアラの親子っつうか……こんな格好、ただただ恥ずかしいだけじゃねぇか!!

「ふふ」

「そこ!笑うんじゃねぇ!」

「すみません。なんだか大変仲のいい親子というか兄妹というか……とても微笑ましくて、ここがほっこりしてしまいました」

そう言いながら左胸をさするカイト。

「くそ……」

こんなカッコ悪いとこ、これ以上親友に見られるのはきちぃ。どうせ腹の内じゃ、ぜってぇもっと笑ってやがる……!

「……わかった、俺の負けだ。特別にひとつだけ、お前の願いを聞いてやる」

「っ!やっっっっっったぁぁぁぁぁ!!!!!」

「うるっせ!つか、いい加減離れろ!」

強く振り解けば、さっきまでのひっつき力が嘘のように簡単に剥がせた。クロエはそんなことは気にも留めず、「やった!やった!やったった!」と小躍りしている。

こちとら命の恩人だってのに、なんでこいつに……。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

久々に、深い深いため息をした。





「おらよっと!」

ブンッと剣を振り下ろせば、目の前の木が斜めに斬り落とされる。ドーンと木が倒れた後にその断面を見れば、凹凸ひとつない年輪が見える、綺麗な断面ができた。

「ここまでできたらまあ、その辺の魔物も楽に斬れる。とりあえずこれを目標にやってみろ。丸太は俺が用意してやる」

「はい!」

早速と言わんばかりに、クロエは足早に丸太が置かれた場所まで小走りし、構えた剣を振り下ろし始めた。

「わかってると思うが、最初は俺は教えねぇぞ!どうしてもわかんねぇってなったら、俺んとこ来い!いいな?」

「はーい!」

元気よく返事をするクロエ。

さーて、今回は何時間でギブアップするかねぇ……。

俺はその場に座り込んで適当に観察する。

丸太は積み上げておいたから、多少休憩しても大丈夫だろ。

「うわ!すっごいガサガサしてるー!これじゃダメだ!次!」

クロエの猛烈怒涛のアタックに根負けし、あいつの鍛錬を手伝うようになったが、筋はまあ……悪くない。

「えい!っ……!今度は剣が止まっちゃった……。なんで振り抜けなかったんだろう……?」

いまは第三段階。俺が根負けした日からは三週間ほどたったか。

第一段階ではまず、体内の氣の巡りを把握して外に放出するという、一連の流れを意識する鍛錬をやった。こればかりは、感覚を掴むのが早いか遅いかはそいつ次第。ある意味才能に近いかもな。

クロエの奴は三日で片鱗を捉えて五日で実践に持ってける程度には掴んでいた。だからまあ、才能はある方だったな。

第二段階では自分に氣を纏わせて防御力を高めるトレーニング。これは戦いの基本中の基本。これができなきゃ相手からの、特に氣術系の攻撃に対処できねぇ。あんなもん、生身で受けたら重傷は免れねぇからな。

とはいえそんな危ねぇ力を誰しもが内に秘めてるっつうんだから、面白れぇよな。

ちなみにこれは思ってたとおり時間がかかった。だいたい二週間はかかってたか。

一歩でもコントロールをミスすれば、氣は牙をむき、自身の身体を傷つける。内と外では別物になったと考えた方がいい。しっかり手綱は握っとかねぇと、ひでぇ目にあう。

だから最初は怪我ばっかしてカイトに治療されまくってたな。俺も俺で「なんで途中で止めなかったんですか?!」とこっぴどく叱られた。あいつは俺の母親かって。

まあつっても、二週間で安定して氣を纏わせられるなんざ、大したもんなんだけどな。

……当然本人には言ってねぇけど。調子に乗ったら面倒だかんな。

そして今やってる第三段階が、武器に氣を纏わせつつ、対象を斬る鍛錬だ。今度は自分ではなく、他者、要は外の物体に自分の氣を流す。

実はこれがなかなか難しいんだよなぁ。俺もガキの頃はよく、カイトの父親に怒られたもんだ。「もっと丁寧に流すんです、王子」ってな。

「あ、壊れちゃった……」

何度か丸太を斬った後、クロエの振っていた剣が折れた。普通は丸太を斬り落とすぐらいでそうそう剣は折れない。

そんなナマクラを作る鍛治師は世界中どこを探してもいねぇわな。奴らはプライドが人一倍高けぇし、武具に対する執着つうか愛着つうか……とにかく情熱が半端じゃねぇ。

特にブラックスミスのとこは……俺の生きてきた中で群を抜いて引いた。間違いなく。たまたま別の国でそこで働く鍛治師に出会ったが、他の鍛治師とはなんつうか、毛色が違ったんだよな……。

「氣を流しすぎだ、馬鹿たれ」

ボソッと言葉が漏れる。どうせあいつの耳には届かねぇけど。

氣は爆発的なエネルギー。それなら剣にめいいっぱい注げば、なんでも斬れる剣ができるんじゃ……とまあ、そんなアホなことを考える奴は本物の馬鹿だ。

爆発的なエネルギーが、急激に別の物体に流れたとすれば、そら途端にぶっ壊れるに決まってる。

まあ例えるなら……

そこそこに硬くてまーるい物体があったとして、それを自分が思い描く物に変えてみるとする。ただし一定の力を超えた威力を加えた場合、その物体は完全に硬直するとしよう。

そんで例えば、だ。そこに上から思い切り拳を振り下ろしたとしよう。そうなれば物体は亀裂を走らせながら変形するか、あるいはぐちゃっと潰れてのっぺりとするか……色々考えられるが、確実に思い通りの結果にはならねぇわな。

加える力が強すぎると、それを受ける側が耐えきれずに壊れる。だから丁寧に丁寧に、受ける側が力に馴染むように、あるいは壊れないギリギリの力を維持できるようにする。

これができれば、武器をぶっ壊すことも減るし、品質の悪い武器だとしても、魔物も容易く斬る名剣に変身させられるってわけだ。

とはいえ、今は対象が動いてもねぇし、攻撃してくるわけでもねぇから?あの丸太斬りをマスターできたとしても、実戦で使えるかどうかはまだわかんねぇんだがな。

「おいこら!バリアが揺らいでんぞ!しっかり意識しろ!」

「は、はい!」

汗をポタポタと垂らす。顔を服の裾で拭いつつ、再び剣を構える。そして、ふぅぅと深呼吸をした。

……戻ったか。

バリアは第二段階の鍛錬内容。これを維持しつつ剣にも氣を流せねぇと戦いにならねぇ。一応この鍛錬は全部繋がってるからな。積み重ねてもらわねぇと困る。

「はああっ!……うわー!またザラザラだーーー!!」

「ははっ……」

まったく、まだまだ先は長そうだ。





結局、三時間ほどして「た、たすけてぇ、カナタせんせーい……」と泣きついた。第二段階のときは一時間でギブアップしてたからまあ、クロエなりに頑張ったことにはなるわな。

「どこがわからなかったか教えろ」と問えば、クロエは懸命に説明した。

感覚を言葉にするのは難しいもんだが、適切な指導には必要なことだ。それに言葉にすることであいつ自身が得られるもんもある。

俺がカイトの父親に教わったのはこういうやり方だったから、問答をして、実践に移して、また問答をして、実戦に移して……この繰り返しを教え通りにできるまで、というかあいつが納得するまでひたすらにやり続ける。

こっちがいいと言うかはその次だ。つまりは最終確認ってやつだな。

昔の俺はこの最終確認で何度もバツをもらって、カイトの父親に叱られまくったっけか。

クロエのことを教えていると、懐かしい思い出が次々と思い起こされる。あれからもう百年が経つってのに……。

こうして、鍛錬第三段階目は五日後に終了した。そしていよいよ最終段階。

それはズバリ実践鍛錬。

今までの基礎をこなしつつ、こちらを害そうとする敵を倒せるか。これができてようやく、戦いのスタートラインに立てるってもんだ。

「やあああぁぁぁぁぁ!」

初日の結果は……

「ううぅぅ……くそー!」

惨敗。

俺が攻撃を喰らう寸前で助けに入り、事なきを得た。

まあそうなるわな、という感想だ。
なんせ訓練と実戦は別物なんだから。

二日目、三日目、と経ても、第三段階までの鍛錬でできていたことを、満足いく形で発揮することはできなかった。

なるべくギリギリで介入するようにはしてるが、こっちがハラハラして仕方ねぇ。

あいつの戦い方はなんつーか、自分の安全を考えず真っ直ぐ突っ込んでくって感じなんだよなぁ……。

こりゃ思ったよりも教えることが山のようにありそうだ。そうして、四日、五日、六日、七日…………とやっていき、第四段階鍛錬を開始した日から、一ヶ月。

クロエはあと一種類で全てのDランクの魔物を討伐するところまできていた。そして今日は、その最後の一種、トレントを倒す予定だ。

トレントの特徴といえば、攻撃してくる本体とは別に、樹木の中に氣核が隠されていることが一番大きい。というか、だからこそDランクに分類されていると言ってもいい。なんせそれさえ見極めて壊しちまえば、簡単にトレントを討伐できんだからな。

とはいえ、今のクロエが見極められるかっつうと、ほぼ百パーセント無理だな。なんせ氣核の見極め方なんて教えてねぇしな。ははっ。

もしトレントを自力で討伐できれば、冒険者の端くれ程度には実力がついたと言えるだろうな。

「さて残すとこあと一種類となったわけだが……意気込みを一言どうぞ?小さな冒険者見習いさんよ」

森の中、俺の横を歩くクロエに問いかける。後ろには当然カイトもいる。

「ふふん。前みたいにちゃちゃっと倒してやるんだから。ギャフンッと言わないように、気をつけてね!カナタせんせ」

生意気にもそう言ってみせたクロエは、ニッと快活に笑った。

あと一種というのもあって調子に乗ってきているっぽいが、ここまでくれば変に油断して負けることだけはないだろう……たぶん。

「そうかよ。だがもし単独でクリアできなければ、お前を俺らのパーティに入れるのは無しだかんな」

第四段階目の試練は、あとはトレントを倒しさえすれば見事合格なわけだが、なんとこのガキんちょは、とんでもねぇことをのたまってきた。

もしわたしがコンプできたら、わたしもイノセントに入れて、と。

俺はその申し出に唖然としたが、カイトはにこにことしていた。俺が毎度こいつに振り回されるのを面白がってるに違いない。

「わかってるよ!でもぜっっったいに、イノセントに入るんだから!!」

なぜクロエが俺たちの仲間になりたいのか。その理由はおそらく、村を襲った魔物の残党の討伐、だろうな。

一緒に行動するようになってわかったが、あいつは時々悪夢にうなされている。昔の俺のように。

聞けば、片腕のない醜いドワーフのような魔物に母親が殺されたらしい。そいつに襲われる夢を、何度も見るという。

その特徴からして、おそらくクロエたちを襲ったのはCランクの魔物スプリガンだろうな。

見た目はかなり醜く狂暴な性格で、普段は小柄な姿をしてるが、体の大きさは自由に変えられる。故に戦闘時には巨大化した状態のスプリガンと対峙することが多い。

俺たちも何度か討伐してきたが、スプリガンはなかなか厄介な奴だ。大きさだけ見ればDランクの魔物と相違ないってのに、とにかくその性質がダルい。

なんせ部分的に肥大化したり縮小化したりすっから、マジで戦いにくい。事前にこの情報をつかんでいても、実際に対峙したときには瞬時に対応できる奴はあんまいねぇだろうな。

それだけスプリガンっつう魔物は面倒で厄介な敵だ。果たしてこの小さな少女に倒すことができるかどうか……。

それにしても、だ。真っ正直に生きろとは言ったが、まさか俺たちと同じ道を辿ろうとは……。だがそれはクロエが選択したこと。外野の俺たちが強制的にクロエの考えを捻じ曲げようとするのは、なんかちげぇ。

とはいえここまで付き合ったんだ。見守ることくらいはしてやってもいい。もちろん、手助けはしねぇがな。

クロエの復讐はクロエ自身の手で遂げなければ、何の意味もねぇんだからよ。

「ま、せいぜい頑張ってくれや」

どうせ勝てないだろう、とこの時の俺は思っていた。今まで培ってきた実力的にはトレントに勝てる見込みは大いにあったが、俺はトレントの、特に重要な情報は話さなかった。

戦闘において事前に情報を得ているのとそうでないのとでは、大きな差が出る。まして今回の場合、氣核の位置を見極める方法なんざこれっぽっちも教えてはねぇ。

俺も意地が悪いとは思うが、教える気なんざサラサラなかった。なにせこいつを俺らの旅路に同行させたくなかったから。血濡れた復讐の道に、無関係の奴を巻き込むわけにはいかねぇんでな。

そういうわけで、クロエに討伐は不可能だと高をくくっていたんだが……。

「やっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

遠くから聞こえる雄叫びとともに、三体のトレントが地面へと力無く倒れた。この衝撃の結果に、俺は口を大きく開け、ただただ唖然としていた。

「なんでだ……」

心の声が、思わずボソッと漏れる。

時間をかけてクロエが奇跡的に氣核に気づいて、なんとか壊せたのならまだわかる。それはただクロエが上手だったってだけで、あいつの力を甘く見た俺の負けだ。

だがこの結果はそうじゃねぇ。明らかにトレントの弱点を知っていた動きだった。

邂逅してすぐ、クロエは攻撃を仕掛けてきた三体のトレントの間を器用にすり抜け、奥にあった木々の中に姿を消した。そしてその十数秒後、この雄叫びが発せられ、敵を見失って混乱するトレントらが息絶えた。

これが初接敵した戦いなわけがない。なんなら今までで一番効率的かつ効果的にクリアしたぞ。意味がわからない……!

「やったやったー!!」

嬉しそうな声とともに奥の森からクロエが出てきた。そして真っ先に俺の方へと駆け寄ってくる。

「見たか!これがわたし、クロエの実力だ!」

ピシッとこちらに人差し指を向けドヤ顔をしてくる。いつもなら内心腹が立つものだが、今回ばかりは脳が混乱していてそれどころではなかった。

「待て。……どうやって氣核を見つけた?俺は見抜き方を教えた覚えはねぇぞ」

「私が教えたんですよ、カナタ様」

背後から柔らかな声が聞こえた。

盲点だった。何もこいつが教えを求めたのは俺だけだとは限らねぇ。なんで今まで気づかなかった。

「とは言え、試験日までに習得できたのはクロエさんの努力の成果ですよ」

「あーもう、クロエさんじゃなくてクロエって呼んでっていったじゃん!」

「す、すみません。いつもの癖でつい……」

「もー、カイトのばかばか……!」

ぽかぽかとカイトの胸に拳をぶつけるクロエ。そんなクロエをカイトは困ったように微笑みながら「以後気をつけますから」と答えていた。

謎は解けた……が、納得がいくかどうか、白黒ハッキリさせなきゃなんねぇ所がまだある。

「クロエ。お前は確かにトレントを倒して見せた。だから俺の負けではあるが、ひとつ確認だ。……どういう経緯でカイトから教わった?」

結果だけ見れば負けは負け。そこに文句をつけるつもりはない。たが、この疑問を明らかにしなければ意味がない。

それは俺にとってではなく、あいつにとってだ。

これでもし俺が納得する答えが返ってこなければ、本心からの合格だとは口が裂けても言えねぇ。そんな薄っぺらな合格に、価値なんざこれっぽっちもねぇからな。

真剣な問いかけに、クロエは手を止めこちらに向き直る。そして曇りない瞳で、真っ直ぐに俺の目を見つめた。

「土下座」

「……は?」

予想外の返答に、思わずそう聞き返していた。

「だーかーらー!土・下・座!!」

「……マジ?」

地面に頭をつけるその行為。それ即ち相手への絶対服従を誓うこと。
これが俺の認識だ。というより、俺たちの国の認識だ。だからカイトだって、それは同じこと。

「あー!カナタせんせ、カイトと同じ顔してるー!!」

「ほら、言ったでしょう?クロエさ……クロエ。私たちの知識では、それは誠心誠意自身の願いを聞いてもらう行為ではない、と」

「えー、そうなんだ。わたしの村じゃ、心を込めて謝ったりお願いしたりするときにやるのにー」

「ふふ。文化の違いとは面白いものですね」

「ねー!」

なぜか意気投合しているらしい二人。いつのまにあんなに仲良くなったのやら……。

「……ふぅ」

ともかく、驚かされはしたが俺が欲しかった答えは十分に得られた。

どちらから申し出たか、ただその一点だけが気がかりだった。この一歩の差が、クロエの今後の成長に関わると言ってもいい。

もちろん、その後努力が続いたか、成果が発揮できるかは本人次第だが、それは聞くまでもなくすでに証明されている。クロエ本人の力で。

あの小さな身体で、ここまでよく頑張ったもんだ。

俺をよそにカイトと仲良く話すクロエへと近づく。それに気づいたクロエが振り向いた。

軽くかがんだ俺は「どうしたの?」と言いたげなクロエの頭に伸ばした手を乗せ、しっかりと目を見た。

「合格だ、クロエ。約束通り、今日からお前は俺たちイノセントの一員だ」

そう伝えてかがんだ身体と手を戻す。

すぐに理解できなかったのか、クロエはぽかんと小さく口を開けた。だがその直後に、じわじわと実感してきたんだろう、ニィッと口角を上げた。

そして……。

「やったーー!!!」

歓喜に溢れた声を上げながら、両手を大きく広げて特大のジャンプをして見せた。



























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