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一章 花の咲く死をあなたに
EP8 決死の判断
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空気が冷たい。椿さんの表情は笑っている。でもピクリとも動かない。俺の返事待ちなのは明らかだが、俺もまだ適当な返事が思いつかない。急に一年以内に死ぬ宣言されて俺はなんと答えればいいのだろうか。マニュアルがあったなら今すぐに読みたい。
そんなかんな考えていると椿さんの目線が上に向いたり下唇を甘噛みしたりしだした。そろそろマズいのかもしれない。でも俺ならと思って言ってくれたことなのかもしれない。だったら下手な返事もできない。同情すればいいのか。それとも、気にしませんよって意思を出せばいいのか。でも、後者の方はどう出せばいいんだろう。『そうなんですね』は素っ気なさすぎる気がする。きっとまだ一分しか経っていない。なのに体感十分くらいだ。この沈黙と椿さんの仕草に俺は恐ろしさを感じて喉が締まる。
ビューン
「おっと」
急な突風に桜が揺れ、俺と椿さんの髪も靡いた。瞬間、黒っぽい何かが俺の視界を塞いだ。
「うわ!なんか目入った!土か?いった!」
「フフ、アハハハ!」
椿さんは土が目に入りパチパチまばたきをしている俺をみてケラケラ笑っている。
「ちょっと何わらってるんですか。土目に入ったら痛いんですよ。外出てなかったからわかんないかもしんないけど、まつ毛が入るなんかより、取れないし痛いんですからね!」
あ、俺もしかして今最低なこと言ったかも。
「すみません!悪気なくて、その…」
「もー、わかってるよそんなの」と椿さんは笑うことを一切やめずに許してくれた。
「ていうか、目瞑りながら謝られても反省の意が見られないよ。はい、目薬。まあ、一切怒ってないからいいんだけどさ」
「ありがとうございます。怒らないんですね、割と刺さる言葉なんじゃないかなって思うんですけど。外に出れなかった人にあれは」
椿さんから受け取った目薬を右目にさしてギュッと瞑った。そして数回まばたきをして痛みがひいたのを確認してから目薬を椿さんに返した。椿さんはポーチにしまいながら答えた。
「まあ、刺さるっちゃ刺さるけど、無理に同情されたり、適当な言葉を考えてだされてもなんか嫌だし。まあ、さっきまで君は考えてたみたいだけどね」
「う…」お見通しすぎて辛い…。
「まあ、わたしの走馬になら言えるかもって意思をキャッチしてくれたって点は、評価してあげる」
「はは、ありがたきお言葉です…」椿さんに対して完全に深読みしすぎた。彼女はだいぶいい加減だった。普通に今までのノリで話して欲しかったんだ。
「あ~あ、相馬のせいで逸れちゃったじゃん話題。戻していい?わたしが一年生きれないよって話に」
「あ、どうぞ」
「絶対に緊張しないでね」
そう言われたからなんだか気が抜けた。これは椿さんだからかな。
「わたしね、生まれつき肺に持病があったんだよね。で、それが厄介なやつでさ、ちょいちょい別の部位にもいくわけ。まあそれは初期に見つければチョチョイのチョイって治せるんだ。だけど、大元の肺はどうしようもなくて、現代の発達したって言われてる医療でも治せないんだって。でも先生は必ず治す手段を探し出すって言うんだ。だからわたしは、長い長い入院生活をとったんだ、自分はいずれ正常な身体になって、普通の生活を過ごせるって信じて」
現代の医療技術でも治せない病か。軽んじてるわけじゃないけど、辛いんだろうな。15年前くらいだったかな。世界の医療は大幅に発達した。今までも不治の病と呼ばれてたものや、後期の取り返しのつかない癌でさえ治せるものとなったんだ。でも、それについで現れたのが次のグレードの病だった。これらもまた、大変な病だとテレビではよく聞く。出始めの当時は、『上には上がある、治らない病気というのは無いが、この世からそう呼ばれる病気は消えない』という言葉を偉い医者が言ったのが各チャンネルで議論されたり、取り上げられたりしていたらしい。
「なのにさ、残酷だよね。わたしのこの病気は、心臓にきたんだ。正直心臓にきたのは3回目だったからこれも今まで通りすぐ治ると思った。なのに、わたしの病気は、わたしの中で成長して、進化した。今までの治療法じゃもう、治せないんだって。それからコイツはさ、日に日にわたしを蝕んでったんだ。苦しいものじゃないってのが救いだけど、結局治療法が見つからなくて、心臓、胃、肝臓が侵略されたんだ。先生は、わたしのお母さんになんて言ったと思う?」
正直予想ができてしまった。でも俺は恐る恐る聞いた。「なんて言ったんですか。」
「聞こえたんだよね。もう彼女の身体は治りません。余命もこの先どんどん縮まりますって。わたしその日の夜に、お母さんに退院したいって頼んだんだ。もう、最後だからって。最後の我儘を聞いてって。お母さん、泣いてた。泣きたいのはわたしだけどさ、泣いてる暇はわたしにはもう一時も残されてないから。治ると信じて失った時間をパーって使いたいんだ」
椿さんの笑顔は強がりなんかじゃない。今確信した。必死なんだ。最後の時間を生きるの必死なんだ。やりたいことをやりたくて彼女はウズウズしてるんだな。そういう思いが頭の中で飽和したのか俺はおかしなことを口に出していた。
「だったら、俺と、もっともっと遊びましょうよ。最期まで」
そんなかんな考えていると椿さんの目線が上に向いたり下唇を甘噛みしたりしだした。そろそろマズいのかもしれない。でも俺ならと思って言ってくれたことなのかもしれない。だったら下手な返事もできない。同情すればいいのか。それとも、気にしませんよって意思を出せばいいのか。でも、後者の方はどう出せばいいんだろう。『そうなんですね』は素っ気なさすぎる気がする。きっとまだ一分しか経っていない。なのに体感十分くらいだ。この沈黙と椿さんの仕草に俺は恐ろしさを感じて喉が締まる。
ビューン
「おっと」
急な突風に桜が揺れ、俺と椿さんの髪も靡いた。瞬間、黒っぽい何かが俺の視界を塞いだ。
「うわ!なんか目入った!土か?いった!」
「フフ、アハハハ!」
椿さんは土が目に入りパチパチまばたきをしている俺をみてケラケラ笑っている。
「ちょっと何わらってるんですか。土目に入ったら痛いんですよ。外出てなかったからわかんないかもしんないけど、まつ毛が入るなんかより、取れないし痛いんですからね!」
あ、俺もしかして今最低なこと言ったかも。
「すみません!悪気なくて、その…」
「もー、わかってるよそんなの」と椿さんは笑うことを一切やめずに許してくれた。
「ていうか、目瞑りながら謝られても反省の意が見られないよ。はい、目薬。まあ、一切怒ってないからいいんだけどさ」
「ありがとうございます。怒らないんですね、割と刺さる言葉なんじゃないかなって思うんですけど。外に出れなかった人にあれは」
椿さんから受け取った目薬を右目にさしてギュッと瞑った。そして数回まばたきをして痛みがひいたのを確認してから目薬を椿さんに返した。椿さんはポーチにしまいながら答えた。
「まあ、刺さるっちゃ刺さるけど、無理に同情されたり、適当な言葉を考えてだされてもなんか嫌だし。まあ、さっきまで君は考えてたみたいだけどね」
「う…」お見通しすぎて辛い…。
「まあ、わたしの走馬になら言えるかもって意思をキャッチしてくれたって点は、評価してあげる」
「はは、ありがたきお言葉です…」椿さんに対して完全に深読みしすぎた。彼女はだいぶいい加減だった。普通に今までのノリで話して欲しかったんだ。
「あ~あ、相馬のせいで逸れちゃったじゃん話題。戻していい?わたしが一年生きれないよって話に」
「あ、どうぞ」
「絶対に緊張しないでね」
そう言われたからなんだか気が抜けた。これは椿さんだからかな。
「わたしね、生まれつき肺に持病があったんだよね。で、それが厄介なやつでさ、ちょいちょい別の部位にもいくわけ。まあそれは初期に見つければチョチョイのチョイって治せるんだ。だけど、大元の肺はどうしようもなくて、現代の発達したって言われてる医療でも治せないんだって。でも先生は必ず治す手段を探し出すって言うんだ。だからわたしは、長い長い入院生活をとったんだ、自分はいずれ正常な身体になって、普通の生活を過ごせるって信じて」
現代の医療技術でも治せない病か。軽んじてるわけじゃないけど、辛いんだろうな。15年前くらいだったかな。世界の医療は大幅に発達した。今までも不治の病と呼ばれてたものや、後期の取り返しのつかない癌でさえ治せるものとなったんだ。でも、それについで現れたのが次のグレードの病だった。これらもまた、大変な病だとテレビではよく聞く。出始めの当時は、『上には上がある、治らない病気というのは無いが、この世からそう呼ばれる病気は消えない』という言葉を偉い医者が言ったのが各チャンネルで議論されたり、取り上げられたりしていたらしい。
「なのにさ、残酷だよね。わたしのこの病気は、心臓にきたんだ。正直心臓にきたのは3回目だったからこれも今まで通りすぐ治ると思った。なのに、わたしの病気は、わたしの中で成長して、進化した。今までの治療法じゃもう、治せないんだって。それからコイツはさ、日に日にわたしを蝕んでったんだ。苦しいものじゃないってのが救いだけど、結局治療法が見つからなくて、心臓、胃、肝臓が侵略されたんだ。先生は、わたしのお母さんになんて言ったと思う?」
正直予想ができてしまった。でも俺は恐る恐る聞いた。「なんて言ったんですか。」
「聞こえたんだよね。もう彼女の身体は治りません。余命もこの先どんどん縮まりますって。わたしその日の夜に、お母さんに退院したいって頼んだんだ。もう、最後だからって。最後の我儘を聞いてって。お母さん、泣いてた。泣きたいのはわたしだけどさ、泣いてる暇はわたしにはもう一時も残されてないから。治ると信じて失った時間をパーって使いたいんだ」
椿さんの笑顔は強がりなんかじゃない。今確信した。必死なんだ。最後の時間を生きるの必死なんだ。やりたいことをやりたくて彼女はウズウズしてるんだな。そういう思いが頭の中で飽和したのか俺はおかしなことを口に出していた。
「だったら、俺と、もっともっと遊びましょうよ。最期まで」
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