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一章 花の咲く死をあなたに
HP1-2 狂気
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今、わたしの頭の中はスクランブルエッグ状態。目の前にいる川上楓という女性について理解が追いつかない状況におかれています。だから今一度、この方には黙ってもらうように要求していて、今彼女は私の前にあぐらをして鼻歌を歌っています。この隙に濃い情報を詰め込まれすぎたわたしの可哀想な脳を整理しよう。
まずわたしは7月17日に病死した。これは知ってる。で、なんかよくわからない所で、エンマ様?みたいな役職の人に天国か「走馬の間」に行けるって言われて、詳細はよくわからないけど、特別な場所って聞かされて走馬の間に来た。うんうん順調だ。
そしてここからが問題…、川上楓、走馬がちっちゃい頃に亡くなったお姉さんがいた。この走馬の間は彼女が走馬のことを死んだ後でも見守れるように作った場所。つまりここでは走馬の私生活を全て見ることができる…。うん、怖い。
「怖すぎるわ!」
「どうしたの椿ちゃん⁉︎急に何か考え出したと思ったら、そんな大きい声出して…上から見てたときそんな人だと思わなかった」
「え、あ、ごめんなさい。こっちの話…え、ちょっと待って?あなた私のことも見てたの?走馬だけじゃなくて?」
少しキョトンとした楓はすぐにハッとして近くに放り投げてあったリモコンに手を伸ばしてボタンを押した。すると何もない白の空間がみるみるうちに色付いていき、ベットや机が置かれ、茶色い木目も少しずつ浮き出てきた。そして完全に空間が変わってしまった。
「え、これどういうこと⁉︎ここどこなの」
「見てみ」と楓は人差し指でベットの方を指した。楓の指す方向を目線で辿っていくと、ベットの上には人型の隆起があった。
薄いかけ布団からひょこりと出ている横向きの頭は紛れもなく走馬だった。
「え、もしかしてこれって走馬の…部屋?」
「うん、そうだよ。現世は今朝の6時半くらいだから、そろそろ走馬も起きる時間だよ….」
ルンルンとスキップするように事を説明しだした彼女を見ていると、わたしの体は血がなくなったかのような寒気と衝撃に襲われた。それがどうしてなのかはわかってる。やっぱり恐怖だ。彼女が自分の弟を愛しているのはよくわかった。でも、それが故に死んでも尚、天国にも地獄にも行かずに彼女はこの空間を創り、四六時中愛する弟を眺めているんだ。
家での暮らし…学校での活動…友達との他愛のない会話。そしてわたしとの日々も全て彼女はここで見てきてたんだ。わたしは怖い…彼女の過度の愛で膨張して爛れた狂気が…。
「ねえねえ、話聞いてる?なんか魂抜けたみたいになってるよ?大丈夫?って、私たち霊体から魂抜けたら消えてるか!」
「おかしいよ…」
「え?」
「この空間はおかしいわよ。ていうかおかしいのはあなたよ楓さん!弟のことを想っているからって、こんな…、プライバシーってあるじゃない!………..ごめんね?うまく言えないけど、怖いのよあなた。それに走馬が可哀想よ…」
わたしは彼女の肩を揺すったり、わたしの髪をクシャっと握ったりしながら、幼稚園児がクレヨンで描いたグシャグシャみたいな心の内を吐き出した。ちっともスッキリしないわたしと対照的で彼女は相変わらずカラッとした口調だった。
「おかしいな…私の渾身のジョークが効かなかった。やっぱりこっちにきて日が浅いから理解できてないのかな?ごめんね椿ちゃん、こっちに来たてのあなたにはブラックジョークすぎちゃったね。まだ自分が霊体ってのには抵抗あったよね」
どういうこと…全く話が通じていないっていうか、聞く耳すら持たれてないの?
いよいよわたしはこの場から逃げ出したくなった。走馬の寝ている近くで1人場違いに目の前の狂気に対して発狂をして、その元凶の形は微塵変わらない。そんな空間に頭が破裂しそうなその時、ベットの上で寝ていた走馬がモゾモゾと動いた後に床に足をつけて背伸びをしだした。
「お、今日は平均起床時間より3分早いね~。見てみて椿ちゃん、寝起きの走馬可愛いでしょ~」
「みない」
咄嗟にでたそっけない返事がわたしの中で反芻した。こんな無愛想なセリフ今まで言ったことあった記憶がない。
程よくストレッチを済ませた走馬は階段を降りて一階の部屋にきた。そして歯磨きや朝食よりも前に小さな机の前へと行き座った。机の上には女性の写真が入った写真立てが真ん中に置いてあった。その女性は今座っている走馬の後ろに立っている川上楓だった。写真たての両サイドには線香立てと小さなおりんが設置されていた。
「これ、走馬が一人暮らし始めた時にホームセンターで買ってきて作ったわたしのミニ仏壇。私たちみたいにまだ転生のしていない霊体はお墓か仏壇を通じてお盆の日に現世に行ったり、自分の仏壇のある家を見守ることができるんだけど、私はね、わがまま言ってその霊道を実家の仏壇じゃなくてこのミニ仏壇に移したんだ。だからわたしは現世と弟に対して大きな執着、未練があるとくだされて転生局の人たちに結構迷惑かけちゃってさ。それでわたしの未練を達成するために激レアな処置をしてもらってるんだ~。その激レアがこの走馬の間だよ」
霊道とか転生局とか意味の分からない単語を使われて頭の中はクエスチョンマークで4割くらい埋まりそうだけど、今のわたしは彼女の話をもう少し聞こうと思った。
「ここまでするほどの、あなたの未練って何なの?」
まずわたしは7月17日に病死した。これは知ってる。で、なんかよくわからない所で、エンマ様?みたいな役職の人に天国か「走馬の間」に行けるって言われて、詳細はよくわからないけど、特別な場所って聞かされて走馬の間に来た。うんうん順調だ。
そしてここからが問題…、川上楓、走馬がちっちゃい頃に亡くなったお姉さんがいた。この走馬の間は彼女が走馬のことを死んだ後でも見守れるように作った場所。つまりここでは走馬の私生活を全て見ることができる…。うん、怖い。
「怖すぎるわ!」
「どうしたの椿ちゃん⁉︎急に何か考え出したと思ったら、そんな大きい声出して…上から見てたときそんな人だと思わなかった」
「え、あ、ごめんなさい。こっちの話…え、ちょっと待って?あなた私のことも見てたの?走馬だけじゃなくて?」
少しキョトンとした楓はすぐにハッとして近くに放り投げてあったリモコンに手を伸ばしてボタンを押した。すると何もない白の空間がみるみるうちに色付いていき、ベットや机が置かれ、茶色い木目も少しずつ浮き出てきた。そして完全に空間が変わってしまった。
「え、これどういうこと⁉︎ここどこなの」
「見てみ」と楓は人差し指でベットの方を指した。楓の指す方向を目線で辿っていくと、ベットの上には人型の隆起があった。
薄いかけ布団からひょこりと出ている横向きの頭は紛れもなく走馬だった。
「え、もしかしてこれって走馬の…部屋?」
「うん、そうだよ。現世は今朝の6時半くらいだから、そろそろ走馬も起きる時間だよ….」
ルンルンとスキップするように事を説明しだした彼女を見ていると、わたしの体は血がなくなったかのような寒気と衝撃に襲われた。それがどうしてなのかはわかってる。やっぱり恐怖だ。彼女が自分の弟を愛しているのはよくわかった。でも、それが故に死んでも尚、天国にも地獄にも行かずに彼女はこの空間を創り、四六時中愛する弟を眺めているんだ。
家での暮らし…学校での活動…友達との他愛のない会話。そしてわたしとの日々も全て彼女はここで見てきてたんだ。わたしは怖い…彼女の過度の愛で膨張して爛れた狂気が…。
「ねえねえ、話聞いてる?なんか魂抜けたみたいになってるよ?大丈夫?って、私たち霊体から魂抜けたら消えてるか!」
「おかしいよ…」
「え?」
「この空間はおかしいわよ。ていうかおかしいのはあなたよ楓さん!弟のことを想っているからって、こんな…、プライバシーってあるじゃない!………..ごめんね?うまく言えないけど、怖いのよあなた。それに走馬が可哀想よ…」
わたしは彼女の肩を揺すったり、わたしの髪をクシャっと握ったりしながら、幼稚園児がクレヨンで描いたグシャグシャみたいな心の内を吐き出した。ちっともスッキリしないわたしと対照的で彼女は相変わらずカラッとした口調だった。
「おかしいな…私の渾身のジョークが効かなかった。やっぱりこっちにきて日が浅いから理解できてないのかな?ごめんね椿ちゃん、こっちに来たてのあなたにはブラックジョークすぎちゃったね。まだ自分が霊体ってのには抵抗あったよね」
どういうこと…全く話が通じていないっていうか、聞く耳すら持たれてないの?
いよいよわたしはこの場から逃げ出したくなった。走馬の寝ている近くで1人場違いに目の前の狂気に対して発狂をして、その元凶の形は微塵変わらない。そんな空間に頭が破裂しそうなその時、ベットの上で寝ていた走馬がモゾモゾと動いた後に床に足をつけて背伸びをしだした。
「お、今日は平均起床時間より3分早いね~。見てみて椿ちゃん、寝起きの走馬可愛いでしょ~」
「みない」
咄嗟にでたそっけない返事がわたしの中で反芻した。こんな無愛想なセリフ今まで言ったことあった記憶がない。
程よくストレッチを済ませた走馬は階段を降りて一階の部屋にきた。そして歯磨きや朝食よりも前に小さな机の前へと行き座った。机の上には女性の写真が入った写真立てが真ん中に置いてあった。その女性は今座っている走馬の後ろに立っている川上楓だった。写真たての両サイドには線香立てと小さなおりんが設置されていた。
「これ、走馬が一人暮らし始めた時にホームセンターで買ってきて作ったわたしのミニ仏壇。私たちみたいにまだ転生のしていない霊体はお墓か仏壇を通じてお盆の日に現世に行ったり、自分の仏壇のある家を見守ることができるんだけど、私はね、わがまま言ってその霊道を実家の仏壇じゃなくてこのミニ仏壇に移したんだ。だからわたしは現世と弟に対して大きな執着、未練があるとくだされて転生局の人たちに結構迷惑かけちゃってさ。それでわたしの未練を達成するために激レアな処置をしてもらってるんだ~。その激レアがこの走馬の間だよ」
霊道とか転生局とか意味の分からない単語を使われて頭の中はクエスチョンマークで4割くらい埋まりそうだけど、今のわたしは彼女の話をもう少し聞こうと思った。
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