メモ帳サイズの心たちーSF編

結崎悠菜@w@

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天才の恋の話

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 S子はみんなとは違う考え方をし、みんなと違う動きをし、みんなより言葉の覚えが遅かった。
 彼女の母は「それもあなたよ」と言って愛してくれたが、他の親族は異端な彼女を疎ましく思っていた。
 彼女は愛情を受け取るのが下手だった。それでも、母の愛は感じていたし、幼い心はその愛をもっと欲していた。
 しかし、女手一つで育ててくれたその人は、呆気なく逝ってしまった。
 病院で息を引き取ったのを見送り、彼女は家路についた。誰も気にかけなかった。
 帰路からそれ、彼女は近所の廃屋に身を置いた。お気に入りの場所だった。母の死を理解できたわけじゃない。寂しいと感じたわけでも、辛いと感じたわけでもない。ただ、無心で一番燃えやすいところに火を放った。
 火はすぐに回った。死を前にして恐怖よりも、死とは何か、ということについて考えていた。
 親戚から隔絶され、「あの母娘はもう死んだのよ」と陰で言われたことを思い出した。社会に認められなければ死んだも同じ、そう考えてから、自分を振り返った。
 彼女は社会に認められたいと思ったことがなかった。母がすべてであったから、思う必要がなかった。そう考えると、母がいない今、もうすでに死んでいるように感じられた。
 息がしづらくなり、ようやくリアルな熱を感じ始めた時、少しひんやりとした手が彼女に触れた。
 ドキリとして、身を任せて一言二言話した後、目を開くといつもの天井のシミが笑っていた。夢だったのかとフラフラと昨日の小屋に向かうと消火され、水浸しになった黒い木だけが残っていた。






 S子は天才だった。なんでもできたし、なんでも認められた。それなのに、彼女は満足出来なかった。
 彼女がまだただの変な子だった頃、火事で死に掛けたことがあった。その時、見知らぬ人が救ってくれた。その人のことが忘れられず、今も探し続けているのだ。
 忘れられないといっても、覚えているのは少しひんやりした手と暖かい抱きしめられた感触に、「大きくなったらまた会える」という言葉だけだった。ふと「あ~、あの時に戻れたら名前を聞くのに」と声が出た。
 S子は天才だった。すぐに行動に移し、それから二年でタイムマシンを開発した。
 「これであの人にもう一度会える」
 そういって乗り込み、過去へと向かった。彼女の計算は完璧で、思い通りの時間と場所に降り立った。
 もう幼い自分が廃屋に火をつけていた。いつ、いつ来るのだろう。ウキウキしながら外で待つ。
「おかしい」
 火が全体に回ったのに、まだ誰も現れない。当時のことをもう一度思い出してみる。
 「君が大きくなったらまた会える」その後まだ言って無かっただろうか。今なら続きを思い出せる気がした。

 「強く生きて…私」

 思い出した瞬間、彼女は走り出していた。幼き自分を救い出し、強く抱きしめ、自分が言われた言葉と同じ言葉を伝えた。
 こうして彼女は自分が恋したのは自分だと気づいた。

 そう、S子は天才だった。自分の時代に戻った彼女が真っ先にしたのはクローン作りだった。ただ姿が同じと言うだけでなく、S子を愛するようにDNA形成されたクローン。彼女は三年かけてそれを作った。名前をF子として、自分の手で育てることにした。
 成長を早めるプログラムも作ったが、F子にはそれを使わなかった。自分が欲した愛を注ぐように、F子をゆっくりと育てた。子として、人としてF子を愛するS子は、歪みながらもこれまで以上に人間だった。

 ある日、彼女はF子に一つのボタンを渡した。
「この世界に絶望したらこのボタンを押しなさい」
 それからすぐに、彼女は殺された。
 F子はボタンを押しそうになったが、思いとどまった。この世界にはS子が作ったものが沢山ある。世界は愛するS子で溢れている、そう感じたのだ。

 それから数年後、S子がF子を作った歳と同じになった年。S子のクローン技術は世界中の軍隊に利用され、その国への愛国心を高めたクローン軍隊がいくつも作られた。
 S子が作ったもの、S子の一部。それが殺しあう戦争。その光景にF子は心から絶望した。


「S子、愛してる」


 世界を巻き込んで、F子は消えた。
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