記憶を封じられた新米冒険者、森で誰にも見えないはずのS級冒険者を拾いました

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出会いを見つけて、未来を繋げ

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 私は、“開く”という文字にそっと触れた。

 すると、目の前の薄赤い板に新たな文字が浮かび上がる。

 冒険者養成所
 輝石の指輪の起動確認。
 あなたは正式に、冒険者養成所・見習い冒険者として登録されました。

 指輪の詳細を確認するには、こちらの動画をご視聴ください。

【動画】

 動画と書かれた文字は、ほのかに青く光っている。

「開く」「閉じる」といった他の選択肢は見当たらない。

(……これに、触れればいいのかな?)

 私はためらいながらも、動画の文字に指先をそっと触れた。

 その瞬間。

 板からすべての文字が消えた。

 代わりに映し出されたのは、胡座をかき、酒瓶のようなものを手に持った一人の男。

 顔立ちは端整で、整った眉に鋭い目。
 濃紺色の髪に、印象的な金色の瞳。

 その身体は明らかに鍛え抜かれていて、
 上裸のまま酒をゴクゴクと豪快に飲み干すと、口元を腕でぬぐい、ニヤリと笑った。

「……!!」

 驚きすぎて、声すら出なかった。

 こんなふうに、目の前の板に人が映し出されるなんて。

 思ってもみなかった。

 戸惑う私とは対照的に、男はまるでこちらを見透かすように話し始めた。

「さぞ驚いてるんだろうな。
 お前が何年、何十年、何百年後の人間かは知らんが」

 その口元に、誇らしげな笑みが浮かぶ。

「カルロス・リンデベルグの名において、お前を歓迎してやる」

 男はニヤリと笑うと、再び酒瓶を豪快にあおりはじめた。

「……カルロス・リンデベルグ……」

 私は思わず、その名を復唱する。

 その瞬間、板に映る男の正体に気づいた。

 このドーム内で最も大きな町、リンデベルグと同じ姓。

 そして、ここは冒険者養成所。

 彼こそが、赤い輝石を用いたドームを築き、魔物の凶暴化によって崩壊しかけた世界で、腕に覚えのある者たちを鍛え上げたという、伝説の男。

 冒険者養成所の創設者。

 婆様が話してくれた、あの人物だ。

 もうこの世にはいないはずの人。

 その姿を、まさか自分の目で見ることになるなんて。

 驚きと戸惑いが胸を満たす中、カルロスは空になった酒瓶を足元に転がし、再び語り出した。

「これからお前たちは、ここで面倒くせぇ勉強だの、
 ぬるま湯みてぇなドーム内訓練を受けることになる」

「それから、ドーム周りの弱っちい魔獣でも狩りに行くんだろうよ。
 でもな、そこで調子に乗ってると死ぬぜ?」

 彼は別の酒瓶に手を伸ばし、蓋を開けてグビリと一口。

「お前らの時代のドームの外がどうなってるかは知らねぇが……
 てめぇの力を過信するな。お前はまだまだひよっこだ」

「長生きしてぇなら、見極めて、逃げろ」

 その言葉の一つ一つが、荒削りだけれどまっすぐに、私の胸に刺さる。

 彼はきっと、多くの死を見てきたのだ。

 私は心の中で、(どんだけ酒飲むのこの人)とつっこみながらも、画面越しにカルロスの目をまっすぐ見つめていた。

「勉強や訓練がちょっとでもキツいって感じるようなら、お前には冒険者なんて向いてねぇ」

「出会いを見つけて、子でも作って、未来を繋げ」

 真剣な目でこちらを見据えながら、カルロス・リンデベルグは静かに言った。

「訓練所は、いつ辞めてもお前の自由だからな。
 ……俺から言えるのは、そんぐらいだ」

 その言葉を最後に、薄赤色の板に映し出されていた彼の姿は、ふっと消えてしまった。

 ほんの短い時間だったはずなのに、彼が消えたあと、私はしばらくの間、その赤い板をただ見つめていた。

 胸の中に残る、あの声。あの瞳。

(……本物だったんだ)

 我に返ったとき、身体にずしりと疲れがのしかかってきた。

「寝るかぁ……」

 誰もいないこの部屋で、私はぽつりとつぶやく。

 初めて触れた輝石の技術、初めての個室、そして、この新しい部屋。

 考えたいことは山ほどある。

 やりたいことも、知りたいことも、山ほどある。

 でも、今は……

(とにかく、寝たい……)

 明日は休み。訓練は明後日から。

 だから、今は何も考えずに眠ってしまおう。

 私はベッドへと歩き出し、そのまま勢いよく飛び込んだ。

 ふわり、と跳ねるスプリングの音。

 そして、想像していたよりも。

 いや、想像以上にふかふかの感触に、私の意識は、あっという間に深い眠りへと引き込まれていった。

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