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差し出された手
沈黙が落ちていた。
殿下と向かい合っているのに、言葉が出てこない。
視線を合わせることすらできず、ただ同じ空気を吸っているだけだった。
何かを言わなければと思うのに、喉が動かない。
胸の奥がざわついて、落ち着かない。
そんな中で、殿下が小さく息を吐いた。
「……色々と聞きたいこともあるだろうが、まずは食事にしよう」
穏やかで、どこか柔らかい声だった。
命令ではなく、気遣いに満ちた響き。
「……はい。そう、ですね」
ようやく返した自分の声が、思っていたよりも小さくて情けなかった。
落ち着こうとしても、胸の鼓動が早くなるばかりだ。
殿下は短く頷くと、静かに立ち上がって扉の方へ向かう。
重厚な扉を開け、外へ向けて短く言葉を放った。
「……用意を」
低く澄んだ声が響き、外で控えていた者たちが一斉に動く気配がした。
衣擦れと足音が混じり合い、やがて遠ざかっていく。
殿下は扉を静かに閉じ、再びこちらへ戻ってきた。
目の前に立ち、穏やかな声で言う。
「立っていると落ち着かないだろう。……座るといい」
そう言って、殿下は軽く手を差し出した。
その仕草は自然で、まるで舞踏会の誘いのように優雅だった。
けれど……僕は、その手を取らなかった。
男の自分が、王太子殿下に導かれるなんて。
それに、僕には婚約者がいる。
そんな状況で、その手を取ることなどできない。
視線を落とし、小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます。自分で座ります」
そう告げて一歩下がり、自分の足でソファへと歩み寄る。
背後から、わずかに衣擦れの音がした。
ソファに腰を下ろし、そっと顔を上げると、殿下と目が合った。
一瞬だけ、殿下の瞳の奥にかすかな寂しさが浮かんだ気がした。
その表情はすぐに消え、いつもの穏やかな微笑みに戻る。
それなのに、胸の奥がきゅっと痛んだ。
どうしてこんなにも苦しくなるのか、自分でもわからない。
殿下は向かいに腰を下ろす。
その瞬間、部屋の外で控えめな足音が聞こえた。
扉が開き、香ばしいパンと温かなスープの香りが流れ込む。
数人の侍従が静かに入室し、慣れた手つきで食器を並べていった。
金属と陶器が触れ合う微かな音だけが響く。
王宮の朝が、ゆっくりと動き出す。
すべてが整うと、侍従たちは一礼し、音も立てずに退室していった。
扉が閉じられ、再び静寂が訪れる。
香ばしい匂いだけが、静かに部屋の中に残った。
殿下と向かい合っているのに、言葉が出てこない。
視線を合わせることすらできず、ただ同じ空気を吸っているだけだった。
何かを言わなければと思うのに、喉が動かない。
胸の奥がざわついて、落ち着かない。
そんな中で、殿下が小さく息を吐いた。
「……色々と聞きたいこともあるだろうが、まずは食事にしよう」
穏やかで、どこか柔らかい声だった。
命令ではなく、気遣いに満ちた響き。
「……はい。そう、ですね」
ようやく返した自分の声が、思っていたよりも小さくて情けなかった。
落ち着こうとしても、胸の鼓動が早くなるばかりだ。
殿下は短く頷くと、静かに立ち上がって扉の方へ向かう。
重厚な扉を開け、外へ向けて短く言葉を放った。
「……用意を」
低く澄んだ声が響き、外で控えていた者たちが一斉に動く気配がした。
衣擦れと足音が混じり合い、やがて遠ざかっていく。
殿下は扉を静かに閉じ、再びこちらへ戻ってきた。
目の前に立ち、穏やかな声で言う。
「立っていると落ち着かないだろう。……座るといい」
そう言って、殿下は軽く手を差し出した。
その仕草は自然で、まるで舞踏会の誘いのように優雅だった。
けれど……僕は、その手を取らなかった。
男の自分が、王太子殿下に導かれるなんて。
それに、僕には婚約者がいる。
そんな状況で、その手を取ることなどできない。
視線を落とし、小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます。自分で座ります」
そう告げて一歩下がり、自分の足でソファへと歩み寄る。
背後から、わずかに衣擦れの音がした。
ソファに腰を下ろし、そっと顔を上げると、殿下と目が合った。
一瞬だけ、殿下の瞳の奥にかすかな寂しさが浮かんだ気がした。
その表情はすぐに消え、いつもの穏やかな微笑みに戻る。
それなのに、胸の奥がきゅっと痛んだ。
どうしてこんなにも苦しくなるのか、自分でもわからない。
殿下は向かいに腰を下ろす。
その瞬間、部屋の外で控えめな足音が聞こえた。
扉が開き、香ばしいパンと温かなスープの香りが流れ込む。
数人の侍従が静かに入室し、慣れた手つきで食器を並べていった。
金属と陶器が触れ合う微かな音だけが響く。
王宮の朝が、ゆっくりと動き出す。
すべてが整うと、侍従たちは一礼し、音も立てずに退室していった。
扉が閉じられ、再び静寂が訪れる。
香ばしい匂いだけが、静かに部屋の中に残った。
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