婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜

ちぱ

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閉ざされた庇護

 殿下はゆっくりとカップを置き、穏やかな視線でこちらを見つめた。

 長い沈黙のあと、ようやくその口が開かれる。

 「……さて。本題に入ろう」

 低く落ち着いた声だった。
 殿下の目には、昨夜のことを思い返すような影が揺れる。

 「……俺が会場に戻り、父上と母上のもとへ向かった、ちょうどその時、バレンティア嬢の順番がやってきた」

 その言葉に、胸の奥が微かに揺れる。
 レオンは思わず手を止め、殿下の続きを待った。

 「彼女は落ち着いていた。……気丈な女性だ」

 殿下の声は柔らかいが、その奥に確かな敬意があった。

 「陛下と王妃陛下の御前に立ち、見事に挨拶を果たした。……そして母上に促され、私も彼女に言葉をかけた」

 殿下はわずかに息を吐く。

 思い出すように目を伏せてから、静かに言葉を紡いだ。

 「謝罪した。君を伴わず場を乱したことを。彼女は責めなかった。ただ、“レオン様がご無事ならそれで十分です”と答えた」

 胸の奥が熱を帯びる。
 リリアナらしい。あの穏やかで強い人らしい返答だった。

 殿下の視線がゆるやかにこちらへ戻る。

 「そして、私は両陛下に報告した」

 短い間。静かな呼吸のあと、
 その声が少しだけ低くなる。

 「そのあと、俺は父上と母上の御前に進み出て、“番を得た”と報告した。印を示し、君の名を告げた」

 言葉が、静かに胸の奥へ沈んでいく。

 「両陛下は驚かれたが、否定はされなかった。父上は、“印を得た以上、我らが否定することはできぬ”と告げられた。母上は“理を越えて導かれることもある”と微笑まれた。」

殿下は一度言葉を切り、静かに果実水のグラスを手に取った。

 淡い光の中で、氷の音がかすかに鳴る。

 「……本来なら、君をすぐにでも祖国へ帰すべきなのだろう」

 「……本来なら、君をすぐにでも祖国へ帰すべきなのだろう。けれど今は、それが叶わない」

 殿下はゆっくりと息を吐く。
 言葉を選ぶように続けた。

 「父上はすでに、アステリア公国へ正式な文を送られた。王都から王都までは距離がある。往復にはおそらく一週間ほどかかるだろう。それまでは、君の立場も正式には定まらない。だから、この王宮で過ごしてほしい」

 「……滞在、ですか」

 「そうだ。この貴賓室は、一部の限られた者しか入れない。安全も礼も、すべて保証する」

 殿下の声は穏やかだが、その奥には強い意志があった。

 「……あなたの存在を良く思わぬ者もいる。王太子の“番”は、敬意と同じだけの嫉妬も呼ぶ。君を守るためにも、ここにいてもらうのが最善だ」

 穏やかな言葉のはずなのに、胸がきゅっと痛んだ。

 守られている安心と、閉じ込められるような息苦しさ。

 その両方が、静かにせめぎ合う。

 「……わかりました。文が届くまでは、ここにいます」

 そう答えた声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

 殿下は小さく息を吐き、目を細めた。

 「ありがとう、レオン。……あなたがここにいてくれることが、俺にとっての救いなんだ」

 その言葉が胸に落ちた瞬間、何かが静かにほどけた気がした。

 守られているのか、縛られているのか……今はまだ、分からない。

 けれど、不思議と悪い気はしなかった。

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