血術使いの当主様

重陽 菊花

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深雪の覚醒

メンタルの限界

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【六月六日】
 私は父方の祖父が会長・伯父が社長・伯母が人事部長を勤める中小企業で営業事務をしている。
父は母の実家に婿入したので母方の名字を名乗っているのでコネ入社の件を知ってるは、私・祖父・伯父・伯母・秘書の五人しか知らない。
 特に秀でた物がある訳でもなく勉強も運動も中の中。
やりたい事も見つけられずだらだらと大学に進学した。
実家暮らしで自立する気もない、そこそこ金がある家に生まれたから自立する必要も働く必要も正直ないがニートなら秒でなれると就職を決意した。
だが友人達が大変そうに就活をする姿を見て私には無理だと早々に諦めた、私にはコネがあるではないか。
そんな緩い感じで祖父の会社に入社した。
自分で言うのも何だが昔から要領が良くて効率良く作業が出来るタイプの人間だ。
無能の課長が目障りだが先輩・同期・後輩にも恵まれて充実した日常を送っていた、彼氏が出来ない事を除いては。
「部長の息子の沼田ッス!よろしくッス!」
私が入社して六年目の春に問題児が入社して来た。
それから職場の雰囲気が一気に変わった。
課長が沼田に媚を売り始め、沼田のミスを他人に押し付けたりと好き勝手始めた。
私もミスを押し付けられ、課長と沼田に怒鳴られた事が何度もある。
もちろん私以外にも被害者はいる、それが原因で退職してしまった社員もいる。
その都度伯母人事部長に報告した。
 私は限界を迎えて有給を取ってメンタルクリニックに行ったら適応障害と診断された。
コネ入社して適応障害で退職するのは申し訳ないが仕方がない。
そこからはどうやって家に帰ったかあまり覚えてないが自室のベッドで伏せて泣いていた。
懐かしい声で名前を呼ばれる様に眠りに着いた。

ーー夢を見ている自覚があるーー
ここは多分は柊家の屋敷の居間だ。
縁側には黒いきものを着た若い男と幼い私が楽しそうに談話をしている。
内容は聞こえないが友人や兄妹の雰囲気というよりは恋人同士に見える。
もっと近くに行きたいがここから動けない。
ただただ見ていると黒いきものを着た男が私の方に振り向いた。
【深雪…早く戻っておいで】
その男は目の絵を描いた紙を顔につけていた、そこで夢は終わった。

 目が覚めたら、二十時を過ぎていた。
音がする一階のリビングに降りて行くと父と母が先に夕飯を食べていた。
「深雪~起こしたのよ~」
「悪いが先に食べてる」
母と父がいつも通りに話しかけて来た。
「私…適応障害になったから会社辞める」
「そうか…テーブルに置いてあった病院の領収書をみて何となく分かってた」
「今まで頑張ったね…後はお母さんに任せてね」
「取り敢えず明日、診断書を持って会社に行く」
「「そう…」」
何とも言えない表情の父母を横目に、テーブルに準備されてた夕飯を食べた。
それからは当たり障りのない会話をして風呂に入って床に就いた。

ーー夢を見ている自覚があるーー
昼間の男とまた同じ場所で楽しそうに話している幼い頃の私達を動かないまま見続けている、何処かで見た事が有るが思い出せない。
あの時と同じ様に【深雪…早く戻っておいで】と言い夢はそこで終わり私はそのまま眠りに着いた。
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