24 / 64
新たな魔導術
しおりを挟む緊張しつつ馬車を降りたタイミングで、前方から声がした。
「バル、こっちは頼んだぞ。ほら、来い! 相手をしてやる」
ルナさんが何かを投げる。それが一瞬光って、山狼たちの目がくらみ気が逸れた。
その瞬間を逃さず、彼が駆け出す。
その後ろ姿を見送った直後、背後で物音がした。反射的に振り返る。狼の一頭がすぐそばに迫っていた。
「っ!」
私が降りたばかりの乗降台に乗り掛かり、中の女性を狙っている。彼女は怯えた様子で立ち上がることもできず、そのまま後ずさる。
「ひっ! こ、こないで!!」
「おい、騒ぐな」
隣にいたローブの男が止めたけど、狼が反応して飛びかかった。
「ガゥッ!」
「──キャア!」
「まっ……!」
女性が悲鳴を上げて、咄嗟に腕で前を遮る。私も咄嗟に手を伸ばす。
それでも間に合わず、狼が腕に噛みつこうとした。
でもその寸前、狼のそばでいきなりボワッと炎が上がる。「キャインッ」と狼が離れた。
直後、人の気配がして反射的に横を見る。
「バルさん!」
「ルナに任されたからね。リアナ、援護を頼むよ」
「は、はい」
慌てて女性のもとにいき、しゃがみこんで声をかける。
「大丈夫ですか?」
「……ええ」
「しばらく奥にいてくださいね」
「君はどうするんだ?」
「あなたは……」
女性のそばにいた男性。先程はローブの男性の後ろにいたらしい。
聞けば二人は夫婦だと言う。マリーさんとベンナンさん。ローブの人は黙ったままだった。
私は援護のために外に出ると伝える。
「いま外にいる二人は私の仲間なので行かないと……行ってきますね」
急いで立ち上がり、歩き出そうとする。けど後ろからグンッとローブが引かれた。
「わ!」
「待って……」
マリーさんが見上げてくる。焦げ茶色の長い髪を揺らして、薄茶の目で訴えるように見つめてきた。
「あなたみたいな子が行って何が出来るの? 危ないからここにいなさい」
「あの、でも」
心配してくれてるのかな、と思う。ついでにいうと私も残りたい。けど外にいる二人に何かあれば結局、狼に襲われることになるわけで。
それなら多少でも援護をして、早いとこ終わらせた方がいい。
だから、引き留められると戸惑ってしまう。
私の困惑に気づいて隣にいた夫のベンナンさんが、私のローブを掴むマリーさんの手をそっと外した。
「マリー、彼女はメイラとは違う。大丈夫だよ」
「でも……!」
外で狼が吠えている。「ガウガウッ」と聞こえてマリーさんの肩が跳ねた。
すみません、と残して急いで外に出る。
外ではもうバルさんが狼を相手にしていた。
「くっ!」
「バルさん!」
今まさに狼が飛びかかる瞬間だった。びっくりして、でもそのとき不意に視界の端に金色の光が見えた。
魔力の輝きが、目を瞑って集中しなくても見える。なんだか瞳が熱い。その流れに沿って、浮かんだ記号を素早く辿った。
紋章が勝手に浮かび上がる。
「∑!」
発動した直後、風の塊が狼を吹き飛ばす。ハッとしたときにはバルさんが、目を見開いて、でもフッと表情を和らげた。
「助かったよ……──っ! リアナ!!」
でもその顔がすぐさま変わる。私の背後に迫った狼によって────。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~
阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」
婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。
けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。
セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。
「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。
――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる