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同行
しおりを挟むお兄さんから差し出された手を、ジッと見ていたら「ほら」と急かされた。
おずおずと自分の手を重ねると軽く引かれて、その勢いのまま立ち上がる。
立ち上がったタイミングで彼は続けた。
「オレはルナ・ティクス。冒険者ランクはS。よろしく」
「あ、わ、私はリ、リアナ……リアナ・ヴェルです。よろしくお願いします……」
名乗られたから、咄嗟に返してしまう。本当は何かの隙に逃げるつもりだったから、名乗りたくなかったんだけど。
ルナさんは「リアナ」と私を呼ぶ。
「とにかく、その装備ではこの先不安だ。近くに港町がある。そこで物を揃えよう」
そう言って歩き出す。その後ろ姿を追いながら思う。
ええ、ええ。港町、知ってますよ。
港町ミゼン。さっきそこから馬車に乗ってきましたからね、と。
* * *
海から様々な船が訪れる、その大きな町がミゼンだった。
海岸沿いに建つ店では海鮮を扱う料理が多く出るし、市場では珍しいアイテムも並んでいる。
王国の中心から馬車で下り、ミゼンの町に着く。そこから、さらにまた馬車や船で移動していく人が多い。そして、その流れに乗って私も同じように馬車を選んで森のそばまで行った。
本来なら、そこから歩いてまた乗り合い馬車に乗るはずだったのが……。
なんの因果か、反対の馬車に乗って戻ってくる羽目になるとは。
「ここはいつでも賑やかだな」
どこか懐かしそうな、親しみを感じるような、そんな視線で周囲を見ている。私はルナさんに「そうですね」と返した。
道中、話を聞けば、ルナさんはちょうど反対のルートからミゼンを目指して下りてきたらしい。王城へ行くついでに請け負った、何かのクエストをこなした、とかなんとか。
とにかく私たちは港町に到着したわけで、ひとまず装備を売っている店に向かうことにした。
ルナさんが慣れた様子で進んでいく。私は、というと。
いまだ慣れない人込みに、俯きがちルナさんの背を追いかけていた。
ぼろぼろローブの破けたフードを目深にかぶって、モジャモジャの髪を出来るだけ顔に寄せて、目だけで周囲を見ていく。
馬車の停車場から、少し歩くと市場に差し掛かった。
大通りに面した街路に、ズラッと並ぶ屋台。そこへ入ると、左右で店の売り子さんが声を出し合っているのが耳に入る。
これは美味しいよ!、とか、今なら安いよー、とか。
みんな生き生きした顔で楽しんでて、でも、私はこういうのが苦手。
人がいっぱいいると、頭が痛くなるもの。
さっきから人に当たらないように、隙間を縫って歩いていく。すれ違う人に当たらないように寸前で避ける。
だけど避けきれずに人にぶつかってしまった。咄嗟に謝りの言葉を口にする。
「あ、すみません……」
「いえ…」
相手が軽く頭を下げて、つられるようにワタシも返す。すぐさま、またルナさんの背を追いかける。
出来るだけ当たらないようにしてても、これ。なのにルナさんは一度も当たることなく、スタスタと先へ歩いていく。
どんな反射神経なのよ、とジト目で見る。けど、ふと気付いて立ち止まった。
「……」
あれ、もしかして今……逃げるチャンス?
だってルナさん、どんどん歩いていっちゃってるし。周りには人が溢れるくらいいるし。
この中で、私一人いなくなっても気づかないはず。
周囲をさりげなくキョロキョロと見る。屋台の隙間に、路地裏に続く道がある。そこを通れば、海沿いの方の大通りに出られるだろう。
ただ、出来れば森の方の道は、怖い思いをしたから使いたくない。代わりに船。船ならきっと問題ない。多少お金はかかるけど、背に腹は代えられない。
「……──」
じっとタイミングを見計らう。ちょうど十字路のところで、行き交う人が増えた。
その瞬間、ルナさんの背中が人に紛れた。
────今だ!!
私は急いでクルッと体の向きを変えて、船着き場へ続く細い道へと向かった。
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