引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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襲撃

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 路地の細い道を駆けていく。目の前がすぐに開けて海が見えた。ヴォーっとお腹に響く、低い音が響いている。大きな船が遠くに何艘もある。

「ハァ……ハァ……!」

 滅多に使わない体力を使ったせいで、足がガクガクする。それでも、もうすぐ帰れるかもしれない、そんな期待に胸がいっぱいになった。

 王城に向かう前、その帰り道は何回も確認した。

 予定はしてなかったけど、船での帰り方もちゃんと覚えておいた。そのおかげで迷わずに乗れそうだ。

 船着き場に一番近い乗り口のある船。それに乗れば、家がある深い森のそばの小さな町へ着ける。

 私はキョロキョロと周囲を見渡した。

 すると視界の端に大きな船が、今まさに出発準備をするように、煙突から煙を吐き出していた。

「あれ、かな?」

 もし合っていれば近くに船着き場があるはず。船着き場で乗船券さえ買ってしまえばこっちのもの。とにかく早く帰りたい、その思いから先走りそうになるのを一呼吸置いて整える。

 とりあえず、あの船かどうかの確認だけでもしないと、と歩き出した──のも、つかの間。突然の警鐘が全てをかき消した。

 カンッカンッカンッ!! カンッカンッカンッ!!

「──!! えっ、な、なに??」

 思わず耳を塞ぐ。頭にまで響くような甲高い音。耳を塞いでも聞こえてくる音が町中に鳴り響いてた。

 鐘は一つじゃないらしい。始めの鐘に誘起された別の鐘が、次々と耳障りな音を立てていく。

 今となっては、どこが最初だったのか分からないくらいだ。

 道行く人々も不安げに様子を窺っている。

 皆、何が起こったのか理解出来ていないようだった。もちろん、私もだけど。

 そのとき、誰かが海の方に向かって声を上げた。

「リヴァイアサンだ!!」

 その声に海を見ようとしたけど、背後からの足音で振り返る。今しがた出てきたばかりの細道が騒がしくなる。たくさんの人が市場から流れてきた。

 様子を見にきた店員さんや、騒ぎを聞き付けた漁師風の人たち、それから野次馬たち。バタバタと一気に集まってくる。そこに聞きたくない声も交じっていた。

「リアナ! ここにいたのか。ずいぶん先回りしたな。状況はどうなっている?」
「え? いや、え!?」

 真っ直ぐ私の方に走ってくる男性がいたから、おかしいな、とは思ったんだよ。

 やっぱりルナさんだった。まるで私がこの騒ぎを見に来たかの言い種。実際は逃げ出した先で、騒ぎが起こっただけなのに。

 彼は息切れ一つせずに海面を見る。また誰かが「あそこにいるぞ」と言った。

 つい海に目を向ける。船の無い沖の方。中心に波打つ海面がある。それはさざめき、盛り上がったかと思うと、すぐに色鮮やかな青い尻尾が現れた。

「っ!」

 トゲトゲの尾びれがついたそれは、思い切り海面を叩き水しぶきを上げる。そして、顔を出す。

 青い硬い鱗に包まれて、長いひげを揺らしながら、細い瞳で鋭く睨み付ける。うねった体も合わせると、大きな船一艘分のサイズがあった。

 ルナさんが「行こう」と言う。

「警護兵が来るまで時間がかかる。それまで時間を稼がなければ」
「む、無理ですよ!」
「どうした。魔王討伐に志願したんだろう? これくらいで根を上げてどうする」
「それは……」

 けど私が答えるより早く、何かを納得したように続けた。

「ああ、なるほど。確か時間がかかるんだったな。大丈夫だ、魔法が発動するまでは任せてくれていい」
「いやいや、そういうんじゃなくて……!」

 最後まで言い終わらないうちに、リヴァイアサンが息を吸い込むような動きをした。

 直後、そのリヴァイアサンが水の球を吐き出し、キンッと高い音が耳をつんざく。ほぼ同時に強い風が吹く。

「──!!」

 思わず耳を押さえて、顔を背けた。すぐに後ろの方で爆発音が響く。ドゴォンッ!!と聞こえてすぐ、砂煙が周囲を包んだ。

 それが風にさらわれると、倒壊した家屋が現れた。
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