引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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領主邸

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「……っ!」

 ハッとして目を開ける。同時に大きく息をした。闇の中でもないのに息苦しい。なんとかそのまま二度三度、深く呼吸する。

「はあ……はあ……?」

 息を整えてからゆっくり体を起こす。ぼんやり周囲を見て、理解するまでに数秒。理解してからギョッとした。そこには普段、目にすることの無い状況が広がっていた。

 まず薄い布つきの天蓋があるベッド。そこに自分は寝ていたらしい。天井から垂れ下がっている布の向こうには、うっすら室内が見える。片側が開いていたから、そこからざっと見回したけど、どこを見ても全部高そうな家具だった。

 傷つけたら大変なことになりそう。ひとまず、そのままベッドの中にいることにした。

 けどやっぱり疑問は浮かぶ。

「結局ここは……どこなんだろ?」

 近くの町の町長さんの家でも、こんなに綺麗な部屋は見たことがない。いったい、ここはどこなんだろうか。

 キョロキョロしていたら、部屋の扉が叩かれる。反射的に返事をする。

「はい?」

 でもすぐ困惑する。自分の部屋でもないのに、返事をしてもよかったのだろうか。他に誰かいないのかな、とさらに周囲を見渡す。物音一つしないところを見るとやっぱり誰もいないみたい。

 その間に「失礼する」とルナさんの声がした。

 扉が開かれて、一つに結んだ青い髪を揺らした彼が入ってくる。私を見るなり聞いてくる。

「体調はどうだ?」
「あ……えっと」
「いや、急かしているわけじゃないんだ。一晩目を覚まさなかったから心配だっただけで……問題がないならいい」

 そう言って傍に来るとベッドサイドの椅子に座る。

 ルナさんは、痛いところはあるのか、と続けた。

「知り合いの医師に見てもらったが、単純な疲労だと言われた。どこか気になるところがあれば遠慮なく言え」
「い、いえ。問題ないです! 全然……」

 ふと、視線を落として違和感を覚える。自分の服装が家を出た時と違うことに気づいた。ぼろぼろのローブすらなくて、ゆったりとした着心地の室内着に変わっている。着替えた記憶はないのだけど。

「あれ?」

 思わず動きを止めて、ついルナさんを見た。彼は目が合うと、その目を大きくして、ゆるく首を横に振る。

「オレが着替えさせたわけじゃない。それをやったのは」

 彼の言葉を遮って、またノック音が響く。今度はちゃんと返事をした。ルナさんの知り合いの医師の方だと思ったから。

 だけど現れたのは女性だった。腰あたりまで伸びるローズブラウンの髪は、ゆるやかにウェーブがかっている。パッチリした黒い瞳と、髪に合わせたようなローズピンクのドレスが似合っていた。

 妖艶に微笑む彼女は、スルッと艶めく胸元が強調されている。服から覗く肢体も陶器のように白くて美しい。

 歩き出すと、まるで花のように裾が揺れる。後ろには二人の付き人がいた。

 ベッドの方まで来ると立ち止まり、ニコッと微笑む。

「目が覚めたのですね。安心しました」
「あ、あ、あ……」

 明らかに身分の高い人だというのは分かる。けど、そういう人たちと関わってこなかった自分には挨拶の仕方すら分からない。

 アワアワと口を動かす私に、その女性は何かを思い出した様子で「ああっ!」と声を上げた。

「ごめんなさい。起きたばかりで知らない人間がいたら驚くわよね。私は、ここミゼンを統治するアウディーナ・ロベルタの娘、エマよ」
「あ、エ、エマ様。あの、私はリアナといいます。えっと……リアナ・ヴェルで……」
「いいの。そのままで。無理をしないで」

 慌ててベッドから降りようとしたけど止められる。ルナさんが間に口を挟んだ。

「エマ嬢。リアナは目覚めたばかりだ。用件があるなら手短に頼む」

 その淡々とした話し方にエマ様は、一瞬眉がピクリと動いた気がした。けどすぐに柔らかく笑う。

「ええ、そうですね。リアナ、とお呼びしても?」
「も、もちろんです」
「ではリアナ。早速で申し訳ないのだけど、あなたの装備一式が壊れてしまったようなの。せっかくだから、私から新しいものをプレゼントさせてもらいたいのだけど、勝手に選んでしまってもいいかしら」
「装備は戦力に直結する。本人に選ばせた方がいい」

 間に入ってくるルナさんに、エマ様が笑顔を崩さないまま応える。

「あら、ずいぶん過保護なのね。さっきからあなたとばかり話してる気がするわ」
「オレも言ったはずだが。リアナは目覚めたばかりだ。あまり無理をさせるな」

 エマ様は肩を竦めて「仕方ないわね」と言う。

「少しくらい許してほしいものだけど、こんなに怖い番犬がいたら無理だわ。ねえ、ティクスき……様。服を譲るのは構わないかしら? いつまでも部屋着一枚では可哀想だもの」

 すでに聞く人が私からルナさんに変わってしまった。

 でも、なるほど、と納得する。私の着替えはエマ様のお付きの方がやってくれたみたい。今もエマ様のドレスとおぼしき衣装を、何着も運び始めていた。

 青や黄色や、濃い緑、他にも色鮮やかなドレスが運ばれてくる。ボケッと見ていた私も、思わず目をぱちくりさせた。

 これはどう見ても、普段使いの服ではない気がする。

「あ、あの。これはさすがに着れないと思うのですが」

 どう見ても胸元開いてるし、煌びやかだし。そもそも裾も長くて動きにくそう。

 恐る恐るエマ様に視線を移したら、彼女は頭を傾けた。

「サイズは仕立て直せばいいわ。とりあえず試着してみましょうか」

 ニコッと笑われて、さらに目を瞬かせる。知らぬ間に傍にお付きの方たちがいて、私の腕を取った。

「すぐに済みますから」
「お任せくださいね」
「おい! 人の話を聞いていたのか!?」

 その声もなんのその。両腕を取った二人の笑顔に、冷や汗タラリ。私は戸惑いのまま、着替えを進められてしまった。
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