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噂
しおりを挟む「そういえばアリシアで聞いたんだが、馬車の定期走行の回数が減っているらしいな」
御者に聞きながら、さりげなく反対側の幌も開けてくれるルナさん。私たちのやり取りを見ていたらしい。さらに風が抜けていき、呼吸が楽になる。
御者さんは、その問いにボソボソと返した。
「そうだよ。ワシは荷運びもしとるから何も変わらんが、他の奴らはもうスフラギトを経路から外してる」
「何故だ? つい先日、何年かぶりに国から魔王討伐の通達があったばかりだろう? スフラギドは魔王城に行くのに一般的な経由地のはずだ。目指す者は多くいると思うんだが」
魔王討伐、と聞いて、チラッとバルさんを見上げる。
目が合うと、彼は「ん?」と首を傾げた。
「……」
私はそのまま静かに首を横へ振る。なんでもない、という意味を込めて。バルさんはフフッと笑って小窓の外へ視線を向けた。
その横顔にふと思う。自分が討伐対象とされているのは、気分が悪くならないのだろうか、と。
面白そうだって理由でついてきているけど、本当に魔王城に着いたら、私が魔王です。とか言って、私たちを斬るつもりかもしれない。
怖い怖い。
ゾクッとする背筋に、両腕を抱えて擦る。やっぱりスフラギドから早々にお家に帰ろう。
密かに考えていたら、御者さんがため息をついた。
「それは隣国での話だろう……アンタら、スフラギトの最近の話は聞いてないのか」
「最近の? 何があった?」
ルナさんの疑問に、御者さんが答えた。
「人がいなくなるんだよ」
「どういう意味だ?」
「そのままさ。今のスフラギトじゃあ、人が消える。昨日話したはずの乗客が翌日には行方知らずになる、なんてことが続いていてな。皆、気味悪がってあの都市に近づかなくなったんだよ」
「だが旅人なら良くあることではないのか? 次の町に行ったとか」
御者さんがゆるく首を振る。
「ワシらが乗せるのは旅人だけじゃない。移住者や一時的に滞在予定の者もいる。彼らがフラッといなくなるのは、なかなかにない。それが何度も続けば、そりゃおかしいと思うさ」
これから行く目的地が気味の悪いところなんて聞いたら、気が重くなる。風通しよくして空気を変えたはずなのに、どんよりとした気分が戻ってくる。
戸惑いがちにルナさんが返した。
「それが事実だとして、スフラギトの警備隊たちはどうしてるんだ? ずいぶんな問題だと思うが」
御者さんも、淡々と言う。
「今のスフラギドは不安定なんだ。国からの干渉が減って、結界を管理している元楼院ってとこが実質牛耳っている」
「都市を護る結界か」
「そうだ。だが結界を維持すると名目で多少の横暴すら許されているらしい。むしろその元楼院が怪しいって話もあるくらいだ」
「怪しい?」
「人攫いでもやってるんじゃないかとね」
「何の為に……」
「さあな。妖しい儀式の生贄なのか、はたまた魔薬の人体実験なのか……あくまで噂に過ぎんがね」
そう残して御者さんが口を閉ざすと、周囲の音がより大きく聞こえる。
ガラガラと響く車輪の音に、カツッカツッ、と馬の蹄の音もする。たまに遠くで甲高い鳥の声も聞こえた。
ルナさんは何かを考えるように、顎へ手を添えたまま動かない。
バルさんは何を考えているのか。相変わらず外を眺めてるだけだった。
「…ぅ…う……」
そして私はまた、具合の悪さが戻ってきていた。
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