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風吹く中で
しおりを挟むガタゴト、ガタゴト……たまにガッタン。
幌馬車は王都でよく乗る、乗り合い馬車よりもよく揺れて時折跳ねる。その動きになかなか慣れなくて、気持ちが悪くなってきていた。
「……」
始めはよかった。初めての幌馬車は布で覆われていて、建物のような安心感があったから。だけどそれは逆に、風通しが悪く、よどんだ空気がいつまでも停滞することと同じだった。
私は気を紛らわせる為に、そっと周りを見渡す。
正面から見て左右に三、四人くらい座れる座席が備え付けられている。備え付けられていたといっても、簡単に板を打ち付けているだけだけど。
そして片側に今、私は座っている。隣にはバルさんがいて、ちょうど正面にはルナさんが座っていた。少し離れてローブ姿のフードを目深にかぶった男性と、働き盛りと思われる中年層の男女が一組。みんな朝が早かったからか、眠っているみたいで目を閉じていた。
それと、真ん中には荷物が多く置いてあった。御者の話だと、人を運ぶついでにこうして荷物も運んでいるらしい。特にスフラギドへは出発が早いために普段から利用者が少ないという。
今回はいつもより人数が多いと御者さんは言ってたけど、そのせいで空気はこもるし、狭くて息苦しい。
段々と気持ち悪さが誤魔化しきれなくなってくる。
膝に抱えた鞄に突っ伏して、なんとか吐き気を抑える。そんな私の苦労を知ってか知らずか、隣から声をかけられた。
「リアナ」
息も絶え絶えのげっそりした顔で、なんとか反応する。すると、涼しい顔をしたバルさんがニコッと笑った。さすがにイラッとする。
「……なんですか」
つい素っ気なくなるけど、彼は気にした様子も見せず「見て」と言った。
さっきから見てるけど、と思ったらバルさんが背後の布に手を伸ばす。幌の一部を掴むと、クルクルっと巻いて上にひっかけた。
瞬間、ぶわっと清々しい風が思いきり入り込んできた。
同時に差し込む朝日に、思わず目を細めてそのまま閉じる。
「わぁ~……涼しい」
ひんやりとした風が熱い頬を冷ます。その澄んだ空気が、気持ち悪さを癒していくようだ。
おまけに流れていく景色が輝いて、陰鬱とした気分も変えていく。
新緑色の木々が揺れ、その合間に見える空の薄い水色。遠くまで照らす太陽の光が、森に差し掛かると流れる木々に遮られては、また顔を出すを繰り返していた。
「気分はどうだい? 少しは晴れたかい?」
頭を傾けて柔らかい微笑みを見せる。こういう気遣いに触れると、魔王だったことを忘れそう。まるっきり悪い人には思えないから。
なんて、ちょっと絆されてるのかも。
私が頷くと、彼は満足そうに「良かった」と言った。
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