引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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気になること

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「話の途中にすまなかったね」
「別に平気ですよ」

 並んで歩きながら森の方に行く。焚き火の明るさから離れると暗闇が増して、足元がおぼつかなくなる。けど、バルさんが少し前を歩いてくれたからなんとか進めた。

 だけどやっぱり、寒さはどうにもならない。

 そっと自分の体を抱き締める。するとバルさんが、ふと手の平を上に向けて前に出す。

 淡い青い光が集まって、それはやがて丸くなる。彼がゆっくりと宙へ浮かばせると、まるでランプのように周囲を照らした。どことなく暖かさもあった。

 バルさんが聞く。

「これでしばらくは寒くないはずだが、どうだい?」
「暖かいです。これは炎の応用ですか?」
「ああ。けど周りに影響しないだけ、威力を弱めている」
「それで明るさと暖かさだけ残ってるんですね」
「君が描くならどういう文字になるんだろうね」

 フッと笑みを見せられて考える。私だったら、中心に火を示すクノを使う。けど、それだけだと普通に焼けてしまうから、威力を下げる記号も組み合わせないといけない。それは前面に出さず、あくまで組み込む感じで……。

  唸り始めた私に、ククッと笑うバルさんが「時間がかかりそうだね」と言った。

「さっきは突発だったのかい? ずいぶんスムーズだったね」
「さっき? Σラディウスのことですか?」
「そうかな。強い風だったけど」
「あれは衝撃とか、そういう意味なんです。魔導術の記号では結構よく使われるものなんですが、私は初めて使いました」

 あれだけ魔力の流れを感じとるのに時間がかかっていたのに、さっきは思ってた以上に簡単に使えた。今この場で同じことをするのは難しいけど。

 バルさんは「なるほど」と言う。

「なら、感覚を忘れないように繰り返しておくのもいいね」
「それはもちろん」

 そんな話をして、彼は足を止める。どちらも口を閉じると静寂が訪れる。かすかに草木が揺れる音や虫の声がした。

 なんとなく落ち着かなくなって、話しかけた。

「それで、話があるんですよね?」

 雑談するために呼ばれたとは思えない。だから本当の用事はなんだろう、と聞いた。すると、バルさんは少しして答えた。

「気になることがあってね」
「気になること?」
「そう。あの時、君はなぜ止めたのだろうと思ったんだ」
「あの時……」


 パッと思い浮かぶのは、山狼に追い討ちをかけようとしたとき。たしかに咄嗟に止めたけど、でもそれは必要ないと思っただけで深い意味はない。

 それを伝える。

「山狼はもう戦う意思がありませんでした。だから」
「だから止めた? だがもし、奴らがまた襲い掛かってきたらどうするつもりだったんだい? すぐに反応できたかい?」
「それは……」

 少し勢いのある物言いに、返事をしようとしたけど言葉が出ない。

 たしかにバルさんの言っていることは合っている。あの瞬間、引いたように見えたけどまた戻ってくる可能性は十分にあった。

 無意識のうちに唇をきゅっと引き結んで黙り込む。

 しばらくしてバルさんは髪をかき上げクシャっと握って、息を吐き出した。

「責めてるわけじゃないんだ。今まで付き合った人間たちと反応が違って、正直驚いたし戸惑った。それで気になったんだよ。君の素直な考えが聞きたいとね」
「……」

 自分の考えを、と聞かれて困惑する。どう説明すべきか、と悩む私に彼は続ける。

「……そうだな、聞くからには私からも話そうか。たしかあれは南の地域に行ったときのことだ。ゴブリンの巣があったんだよ」
「ゴブリン……洞穴を住みかとする魔物ですね」
「そう。彼らが凶暴化するのは満月の夜、繁殖期だけだ。その間は顔を合わせなければいい」
「まさかそのタイミングで出会ってしまったとか?」

 私の疑問にバルさんは緩く首を横に振った。

「いや、むしろ新月に近かった気がする。とにかく凶暴な時期ではなかった。だが、その時に組んでいた冒険者たちはゴブリンを狩り始めたんだ」
「襲われたんですか?」
「そうじゃない。討伐経験と素材が欲しいと言っていたかな」
「なるほど」

 冒険者という生業だと、依頼を受けて報酬を得る方が主流だ。それで魔物を狩り、素材と経験を積む。けどバルさんの言う通り、全く関係ない野生の魔物を狩って、素材やその経験を得る人もいる。

 それがいけないわけじゃないけど、私はあまり好まない。きっとそれが引っ掛かりの部分なんだと思う。

 私は「たぶん」と答えた。

「環境の違い、かもしれません。私に必要な素材は森で採れるものだし、職業的にも討伐経験を積む必要もありませんから」
「そうか。環境……」
「性格もあるのかもしれませんけどね」

 軽く言うと、彼は考えるように顎へ手を添えた。

「考えの違い、か」

 一拍置いて、フッと表情を和らげる。

「ずいぶんと興味深いものだね」
「そうですか?」

 聞き返したものの、背後から人の足音がして反射的に振り返った。ほとんど同時にバルさんも振り返る。

 ルナさんが驚いた様子で足を止めた。

「バルを呼びに来たんだが、取り込み中か?」
「いや、構わないよ。どうしたんだい?」

 傍に行くと、ルナさんは火の番についてローテーションしようと話した。夜通し動物や魔物を警戒するためらしい。

 その場を離れる間際、後ろを見る。バルさんが魔術で出した光の粒は、すでに消えかけていてまた闇が戻り始めていた。
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