28 / 64
気になること
しおりを挟む「話の途中にすまなかったね」
「別に平気ですよ」
並んで歩きながら森の方に行く。焚き火の明るさから離れると暗闇が増して、足元がおぼつかなくなる。けど、バルさんが少し前を歩いてくれたからなんとか進めた。
だけどやっぱり、寒さはどうにもならない。
そっと自分の体を抱き締める。するとバルさんが、ふと手の平を上に向けて前に出す。
淡い青い光が集まって、それはやがて丸くなる。彼がゆっくりと宙へ浮かばせると、まるでランプのように周囲を照らした。どことなく暖かさもあった。
バルさんが聞く。
「これでしばらくは寒くないはずだが、どうだい?」
「暖かいです。これは炎の応用ですか?」
「ああ。けど周りに影響しないだけ、威力を弱めている」
「それで明るさと暖かさだけ残ってるんですね」
「君が描くならどういう文字になるんだろうね」
フッと笑みを見せられて考える。私だったら、中心に火を示す<を使う。けど、それだけだと普通に焼けてしまうから、威力を下げる記号も組み合わせないといけない。それは前面に出さず、あくまで組み込む感じで……。
唸り始めた私に、ククッと笑うバルさんが「時間がかかりそうだね」と言った。
「さっきは突発だったのかい? ずいぶんスムーズだったね」
「さっき? Σのことですか?」
「そうかな。強い風だったけど」
「あれは衝撃とか、そういう意味なんです。魔導術の記号では結構よく使われるものなんですが、私は初めて使いました」
あれだけ魔力の流れを感じとるのに時間がかかっていたのに、さっきは思ってた以上に簡単に使えた。今この場で同じことをするのは難しいけど。
バルさんは「なるほど」と言う。
「なら、感覚を忘れないように繰り返しておくのもいいね」
「それはもちろん」
そんな話をして、彼は足を止める。どちらも口を閉じると静寂が訪れる。かすかに草木が揺れる音や虫の声がした。
なんとなく落ち着かなくなって、話しかけた。
「それで、話があるんですよね?」
雑談するために呼ばれたとは思えない。だから本当の用事はなんだろう、と聞いた。すると、バルさんは少しして答えた。
「気になることがあってね」
「気になること?」
「そう。あの時、君はなぜ止めたのだろうと思ったんだ」
「あの時……」
パッと思い浮かぶのは、山狼に追い討ちをかけようとしたとき。たしかに咄嗟に止めたけど、でもそれは必要ないと思っただけで深い意味はない。
それを伝える。
「山狼はもう戦う意思がありませんでした。だから」
「だから止めた? だがもし、奴らがまた襲い掛かってきたらどうするつもりだったんだい? すぐに反応できたかい?」
「それは……」
少し勢いのある物言いに、返事をしようとしたけど言葉が出ない。
たしかにバルさんの言っていることは合っている。あの瞬間、引いたように見えたけどまた戻ってくる可能性は十分にあった。
無意識のうちに唇をきゅっと引き結んで黙り込む。
しばらくしてバルさんは髪をかき上げクシャっと握って、息を吐き出した。
「責めてるわけじゃないんだ。今まで付き合った人間たちと反応が違って、正直驚いたし戸惑った。それで気になったんだよ。君の素直な考えが聞きたいとね」
「……」
自分の考えを、と聞かれて困惑する。どう説明すべきか、と悩む私に彼は続ける。
「……そうだな、聞くからには私からも話そうか。たしかあれは南の地域に行ったときのことだ。ゴブリンの巣があったんだよ」
「ゴブリン……洞穴を住みかとする魔物ですね」
「そう。彼らが凶暴化するのは満月の夜、繁殖期だけだ。その間は顔を合わせなければいい」
「まさかそのタイミングで出会ってしまったとか?」
私の疑問にバルさんは緩く首を横に振った。
「いや、むしろ新月に近かった気がする。とにかく凶暴な時期ではなかった。だが、その時に組んでいた冒険者たちはゴブリンを狩り始めたんだ」
「襲われたんですか?」
「そうじゃない。討伐経験と素材が欲しいと言っていたかな」
「なるほど」
冒険者という生業だと、依頼を受けて報酬を得る方が主流だ。それで魔物を狩り、素材と経験を積む。けどバルさんの言う通り、全く関係ない野生の魔物を狩って、素材やその経験を得る人もいる。
それがいけないわけじゃないけど、私はあまり好まない。きっとそれが引っ掛かりの部分なんだと思う。
私は「たぶん」と答えた。
「環境の違い、かもしれません。私に必要な素材は森で採れるものだし、職業的にも討伐経験を積む必要もありませんから」
「そうか。環境……」
「性格もあるのかもしれませんけどね」
軽く言うと、彼は考えるように顎へ手を添えた。
「考えの違い、か」
一拍置いて、フッと表情を和らげる。
「ずいぶんと興味深いものだね」
「そうですか?」
聞き返したものの、背後から人の足音がして反射的に振り返った。ほとんど同時にバルさんも振り返る。
ルナさんが驚いた様子で足を止めた。
「バルを呼びに来たんだが、取り込み中か?」
「いや、構わないよ。どうしたんだい?」
傍に行くと、ルナさんは火の番についてローテーションしようと話した。夜通し動物や魔物を警戒するためらしい。
その場を離れる間際、後ろを見る。バルさんが魔術で出した光の粒は、すでに消えかけていてまた闇が戻り始めていた。
21
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる