引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月 瑠々奈

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結界都市スフラギト

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 大きな門の手前で入国審査を受ける。一人一人、入国の理由や身分証の確認を受けて、許諾の有無が出された。

 事前に厳しいと言われていたけど、私たちは魔王討伐のお触れを出したギラロッシュ王国の書状があったから、すんなり入れた。

 ちなみにバルさんはルナさんの書状に便乗しただけ。名前も何も書いてないから一人くらい増えてもバレないみたい。

 入国許可を得て、私たちは幌馬車に戻りみんなで門を通る。他のみんなも問題なく入れたらしい。ローブの男性も相変わらずフードを目深にかぶっていて、見るからに怪しいのにすんなり入れたらしい。

 何はともあれ、揃ったところで門の中に入る。門を通る瞬間、その景色が歪んだ気がした。入れ物に水が張ってある、その表面が揺れるのに似ていた。

 これが結界なのだろうか。不思議な感覚に通りすぎた後も後ろを見ていたら、御者さんから声がかかる。

「もうすぐ停車場へ向かうよ。降りる準備をしてくれ」

 その言葉に、みんなが動き出す。私も荷物の確認を始めた。

 少しして馬車が止まり、一人一人降りていく。ローブの男性は無言のまま一番に人混みへ消えて、次に降りたマリーさんとベンナンさんは私たちを待っていてくれた。

「リアナちゃん、短い間だったけどありがとうね。話せてよかったわ」
「はい、マリーさんもお元気で」

 そんな挨拶を交わす頃、ルナさんたちもベンナンさんと別れの挨拶をしていた。そして最後に御者さんにお礼を言ってその場を後にした。

 宿を探そうと歩き始めるルナさんについていく。その間際、街を見上げる。

「……」

 スフラギドは、結界都市といわれるほど見事な結界に護られているらしい。けど、見上げた先に変化はない。どういう仕組みで結界が展開されているのかは分からない。けれど、魔の国に一番近くて、世界の盾と呼ばれている都市だった。

 とはいえ、危険が隣り合わせといった雰囲気はなくて、大通りを歩く人たちの表情は明るい。様々な地域から人が集まってるのだろう。服装もいろいろで、店もたくさんある。

 ここで人が連れ去られたり、夜な夜な怪しい儀式の生贄にされたり……人体実験を施される、なんてあるとは思えない。

「この先に宿屋街があるらしい」

 ルナさんの声に顔を向ける。二人についていくうちに、知らずに緩やかな坂へと差し掛かっていた。彼は地図を見ながら正面に視線を向ける。

「少し歩くが選択肢は増えるから行こう」
「そうだね」

 バルさんが同意して歩き出す。私はふと、さらに坂上の高台にある神殿のようなものに目を留めた。

 遠目からでも分かる、屋根がドーム状の真っ白な神殿。入り口と見られる二本の支柱には、それを支えるのような格好をした男性の像が彫られている。

 つい見ていたら、バルさんに呼ばれた。

「リアナ、行くよ」
「あ、はい!」

 慌てて歩き出す。ふと、すれ違った親子が楽し気に笑っている声が聞こえた。なんだか穏やかでホッとする。

 先を歩いていたバルさんの隣に並ぶと、ルナさんがいくつか宿の候補を絞ったと教えてくれた。

 歩き出しながら、また周囲を眺める。海も近いし、店も多いし、人の出入りもすごく多い。ギラロッシュの王都もそれなりに広いけど、それ以上かもしれない。

 思わず素直な言葉が出てしまう。

「すごく大きな町ですね。迷子になりそう」
「都市と呼ばれるくらいだからね。リアナは初めて?」
「はい。結界はちょっと分からないけど」
「日が暮れると見えるようになるかもしれないよ。けど……」

 空を見上げた彼の表情が一瞬変わった気がした。眉根を寄せたような。けどすぐフイッと顔を戻してニコッと笑う。

「今は宿を見つける方が先だからね。今の時期は特に理由もない。混んではいないと思うけど早いに越したことはない」

 直後、ルナさんが足を止めた。私の隣にいたバルさんへ声をかける。
 
「バル、お前が言っていた食事処が無いんだが」
「ん? あれ、おかしいな。この間来たばかりだと……ああ、そういえば月日の感覚が違うんだったね。ごめん、ルナ。記憶違いだ」
「なら、道自体が違うのか?」

 さりげなく気になる言葉が入っていたけど、ルナさんは何事もなく再度地図に視線を落とす。

 バルさんが言うには道自体に違いはなく、古くから続いている店や宿は残ってるそう。そのうちの一つに行ってみることになった。
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