引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

文字の大きさ
30 / 64

引っかかり

しおりを挟む
  
「リアナ、行けるかい?」

 バルさんが部屋を覗き込んでそう言った。

 スフラギドに到着したのが昼過ぎで、そこから宿を探したり、なんやかんやしているうちにもう夕方になっていた。

 私は荷物整理もそこそこに、バルさんへ「今行きます」と返事をして向かう。

 結局、多少迷ったもののそれなりの宿をとることが出来た。坂の上の二階建ての宿で、お値段もそれなり。

 その宿の外に出るともう、家々には明かりが灯っていた。淡いオレンジの儚い輝きが溢れんばかりに輝いている。

 そして空には濃い茜色に混じっていく闇色。そこにふと、別の色を見つけた。虹色が滲んだような薄い色。波のように揺れて、でも決して消えることはない。

 もっとよく見ようと目を凝らしていたら、バルさんが言う。

「見えたかい? あれが名物の結界だよ」
「カーテンとかベールみたいですね」
「まあ、そんな感じかな。風が気持ちいいね」

 潮風が吹いてバルさんの髪を揺らす。正面には海が広がっている。昼間上がってきた坂下には、入り口の門がある。まだ馬車が並んでいるようだ。

 ポツポツと輝く灯りを目に残しつつ、歩き出したバルさんの後を追いかけ近くの食事処へと向かった。


 *  *  *


「ここですか?」

 日が落ちても変わらず賑やかな街中で、前を歩いていたルナさんが並ぶお店の一つに入っていく。それを見て、入り口の看板を見上げる。バルさんが「そうだよ」と答えて入っていった。

   食事処サンファンと書かれた横目に、開け放たれたままの入り口を入る。

 中は肉を焼く美味しそうな香りがして、白い煙が薄く漂っていた。ついお腹が鳴ったけど周りが騒がしくて聞こえない。

 入り口近くはお客さんが結構席を埋めていたけど、奥はそこそこ空いていた。

 先導するルナさんは、突き当たりの壁でしきられ個室のようになっている席を取る。バルさんも続いて、後から私も入る。

 壁のおかげで、入り口の喧騒が小さくなった。その中で、それぞれ希望のメニューを選んで店員さんに伝える。

 そして一呼吸置くと、バルさんがテーブルに肘をついて頭を乗せて、ふと口角を上げた。ちなみに円卓で私たちは三角形に座ってる感じ。

 彼はルナさんに聞く。

「それで? こんなにも奥まった席を選んだのには理由があるんだろう?」

 その問いにルナさんは驚いた様子でわずかに目を開いて、でも真剣な顔で答えた。

「……二人に、話しておきたいことがあるんだ」

 その重苦しい空気に、チラッとバルさんを見ると目が合ってしまう。すぐにルナさんに戻すと彼は続けた。

「魔王討伐は少し待って欲しい」
「待つ……?」

 その言葉にドキッとした。まさかバルさんの正体がバレてしまったのかと思ったから。そしてルナさんは仲間と思っているバルさんを斬ることは出来ず悩んで……。

 と、思ったけど。それはただの考え過ぎだったみたい。バルさんが優しく声をかける。

「気になるんだろう? あの噂が」

 ルナさんも小さく頷いた。
 
「ああ。本来なら準備が出来次第、ここを出発する予定だった。だが、少し話を聞いただけでも行方不明者がいることは事実のようだ」
「私も聞いたよ。最近特に数も増えているそうじゃないか。表向きは変わらないようにも見えるがね」
「そうだな。元楼院が横暴だ、とは聞いたが街中でいざこざすら起きていない。それが余計に薄気味悪さを感じる」
「見過ごすには難しい状況だ」
「そうなんだ。だから」

 言いかけて口を閉じたのは、ちょうど料理が運ばれてきたから。

 「お待たせしましたー!」と置かれていく皿の数々。

 テーブル中央に置かれた大皿のサラダやスープの他、鶏の一枚肉がのった味付けご飯と魚介のシチューがくる。それぞれバルさんとルナさんの頼んだもの。そして最後にくる小麦と山菜を混ぜてこねて焼いたドンドン粉焼きが私の料理。

 鼻に香る特製ソースの匂いがたまらない。

 なんだか深刻な話をしていたようだけど、私はお腹がペコペコだ。「お先にいただきますね」と一応言って、早速とフォークで切り分けて口に運ぶ。塩気が少し強いけど甘味もあって美味しい。

 二口、三口食べてサラダに移ろつかな、と目を向けた。するとさりげなくバルさんが取り分けてくれている。思わず驚いて、知らずに目を瞬かせていたらしい。目が合うと彼が頭を傾けた。

「うん?」
「……いえ、あの、ありがとうございます」

 小皿の一つを取って、食べ進める。かかっているドレッシングはあまり見慣れないオレンジ色をしていたけど、口に含むと野菜のシャキシャキ感と相まって爽やかな甘さが広がる。

 うん、美味しい。
 
 ある程度、進んだ頃、またルナさんが口を開いた。

「勝手を言って悪いと思うが、二人にも協力してもらえないだろうか」
「もちろんです」
「返事が早いね」

 すかさず返したらバルさんが苦笑する。だって、滞在時間が延びれば船に乗るチャンスもあるし、なにより魔王討伐よりは安全なはず。

 バルさんの言葉には答えず、しれっと食事を進めていたら、彼はルナさんに「それで」と言った。

「これからどうするつもりなんだい? ここで情報を集めるとしても闇雲にやるわけにはいかないだろう?」
「とりあえず、入出国記録を調べたい。もし噂通り、元楼院が何かをしているのなら、一番痕跡が残るのはあの書類だからな」

 その言葉につい反応してサラダを食べる手を止める。

「それって、スフラギドに入るとき書いた紙ですか? 身分証と並べて出して……たしか名前と職業を書いたような?」
「そうだ。そこに行方不明者のものがあるかどうか、それだけでも確認したい」
「なら、さっそく明日から行動することにしようか。振り分けはどうする?」

   バルさんが聞いたことに対して、ルナさんが悩みながら、とりあえず、と口を開く。

「まずはオレが入国審査管の状況を見てくる。二人は街中で情報を集めてくれ。どんな小さなものでも構わない」
「もし国ぐるみで誘拐が起きているなら一人になるのは勧められないが……いいのかい?」
「気にしなくていい。自分の身は自分で守れる。それよりリアナを頼む」

 そう言いきった彼に、バルさんがフフッと笑う。

「それなら任されよう。私たちは街中だったね」
「はい、ルナさんも気をつけてくださいね」
「ああ」

 それから今後の詳細を詰めながら、食事も進める。合間に雑談も挟みつつ過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...