引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月 瑠々奈

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引っかかり

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「リアナ、行けるかい?」

 バルさんが部屋を覗き込んでそう言った。

 スフラギドに到着したのが昼過ぎで、そこから宿を探したり、なんやかんやしているうちにもう夕方になっていた。

 私は荷物整理もそこそこに、バルさんへ「今行きます」と返事をして向かう。

 結局、多少迷ったもののそれなりの宿をとることが出来た。坂の上の二階建ての宿で、お値段もそれなり。

 その宿の外に出るともう、家々には明かりが灯っていた。淡いオレンジの儚い輝きが溢れんばかりに輝いている。

 そして空には濃い茜色に混じっていく闇色。そこにふと、別の色を見つけた。虹色が滲んだような薄い色。波のように揺れて、でも決して消えることはない。

 もっとよく見ようと目を凝らしていたら、バルさんが言う。

「見えたかい? あれが名物の結界だよ」
「カーテンとかベールみたいですね」
「まあ、そんな感じかな。風が気持ちいいね」

 潮風が吹いてバルさんの髪を揺らす。正面には海が広がっている。昼間上がってきた坂下には、入り口の門がある。まだ馬車が並んでいるようだ。

 ポツポツと輝く灯りを目に残しつつ、歩き出したバルさんの後を追いかけ近くの食事処へと向かった。


 *  *  *


「ここですか?」

 日が落ちても変わらず賑やかな街中で、前を歩いていたルナさんが並ぶお店の一つに入っていく。それを見て、入り口の看板を見上げる。バルさんが「そうだよ」と答えて入っていった。

   食事処サンファンと書かれた横目に、開け放たれたままの入り口を入る。

 中は肉を焼く美味しそうな香りがして、白い煙が薄く漂っていた。ついお腹が鳴ったけど周りが騒がしくて聞こえない。

 入り口近くはお客さんが結構席を埋めていたけど、奥はそこそこ空いていた。

 先導するルナさんは、突き当たりの壁でしきられ個室のようになっている席を取る。バルさんも続いて、後から私も入る。

 壁のおかげで、入り口の喧騒が小さくなった。その中で、それぞれ希望のメニューを選んで店員さんに伝える。

 そして一呼吸置くと、バルさんがテーブルに肘をついて頭を乗せて、ふと口角を上げた。ちなみに円卓で私たちは三角形に座ってる感じ。

 彼はルナさんに聞く。

「それで? こんなにも奥まった席を選んだのには理由があるんだろう?」

 その問いにルナさんは驚いた様子でわずかに目を開いて、でも真剣な顔で答えた。

「……二人に、話しておきたいことがあるんだ」

 その重苦しい空気に、チラッとバルさんを見ると目が合ってしまう。すぐにルナさんに戻すと彼は続けた。

「魔王討伐は少し待って欲しい」
「待つ……?」

 その言葉にドキッとした。まさかバルさんの正体がバレてしまったのかと思ったから。そしてルナさんは仲間と思っているバルさんを斬ることは出来ず悩んで……。

 と、思ったけど。それはただの考え過ぎだったみたい。バルさんが優しく声をかける。

「気になるんだろう? あの噂が」

 ルナさんも小さく頷いた。
 
「ああ。本来なら準備が出来次第、ここを出発する予定だった。だが、少し話を聞いただけでも行方不明者がいることは事実のようだ」
「私も聞いたよ。最近特に数も増えているそうじゃないか。表向きは変わらないようにも見えるがね」
「そうだな。元楼院が横暴だ、とは聞いたが街中でいざこざすら起きていない。それが余計に薄気味悪さを感じる」
「見過ごすには難しい状況だ」
「そうなんだ。だから」

 言いかけて口を閉じたのは、ちょうど料理が運ばれてきたから。

 「お待たせしましたー!」と置かれていく皿の数々。

 テーブル中央に置かれた大皿のサラダやスープの他、鶏の一枚肉がのった味付けご飯と魚介のシチューがくる。それぞれバルさんとルナさんの頼んだもの。そして最後にくる小麦と山菜を混ぜてこねて焼いたドンドン粉焼きが私の料理。

 鼻に香る特製ソースの匂いがたまらない。

 なんだか深刻な話をしていたようだけど、私はお腹がペコペコだ。「お先にいただきますね」と一応言って、早速とフォークで切り分けて口に運ぶ。塩気が少し強いけど甘味もあって美味しい。

 二口、三口食べてサラダに移ろつかな、と目を向けた。するとさりげなくバルさんが取り分けてくれている。思わず驚いて、知らずに目を瞬かせていたらしい。目が合うと彼が頭を傾けた。

「うん?」
「……いえ、あの、ありがとうございます」

 小皿の一つを取って、食べ進める。かかっているドレッシングはあまり見慣れないオレンジ色をしていたけど、口に含むと野菜のシャキシャキ感と相まって爽やかな甘さが広がる。

 うん、美味しい。
 
 ある程度、進んだ頃、またルナさんが口を開いた。

「勝手を言って悪いと思うが、二人にも協力してもらえないだろうか」
「もちろんです」
「返事が早いね」

 すかさず返したらバルさんが苦笑する。だって、滞在時間が延びれば船に乗るチャンスもあるし、なにより魔王討伐よりは安全なはず。

 バルさんの言葉には答えず、しれっと食事を進めていたら、彼はルナさんに「それで」と言った。

「これからどうするつもりなんだい? ここで情報を集めるとしても闇雲にやるわけにはいかないだろう?」
「とりあえず、入出国記録を調べたい。もし噂通り、元楼院が何かをしているのなら、一番痕跡が残るのはあの書類だからな」

 その言葉につい反応してサラダを食べる手を止める。

「それって、スフラギドに入るとき書いた紙ですか? 身分証と並べて出して……たしか名前と職業を書いたような?」
「そうだ。そこに行方不明者のものがあるかどうか、それだけでも確認したい」
「なら、さっそく明日から行動することにしようか。振り分けはどうする?」

   バルさんが聞いたことに対して、ルナさんが悩みながら、とりあえず、と口を開く。

「まずはオレが入国審査管の状況を見てくる。二人は街中で情報を集めてくれ。どんな小さなものでも構わない」
「もし国ぐるみで誘拐が起きているなら一人になるのは勧められないが……いいのかい?」
「気にしなくていい。自分の身は自分で守れる。それよりリアナを頼む」

 そう言いきった彼に、バルさんがフフッと笑う。

「それなら任されよう。私たちは街中だったね」
「はい、ルナさんも気をつけてくださいね」
「ああ」

 それから今後の詳細を詰めながら、食事も進める。合間に雑談も挟みつつ過ごした。
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