引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月 瑠々奈

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「こっちです。こっちの……」

 案内の途中で足を止める。ルナさんと魔導術の指し示す方向へ向かっていたけど、目的の場所と思われる建物のそばで動けなくなった。そこは想定外でありながら、もしかしたらと思っていた場所だったから。

 私の手元を覗き込むルナさんも息を飲む。目の前の建物と見比べた。

「リアナ、本当にあれが目的の場所なんだな。バルが、いるのか……」

 その言葉に私は、頷くより他なかった。私たちは宿から出て、近くの石造りの階段を上がり、家屋の間を通った。私の魔導術は、ずっと北を向いていたから。

 それは、バルさんがそこから動いていないことの証拠でもあった。

 けど、近づくにつれ嫌な予感が掠める。見たことのある景色が目に入るようになったから。そして思った通り、その場所は私が少し前に見上げていた高台で、結界を張るための神殿だった。

 つまり、誘拐事件に国が絡んでいるという疑念が浮かぶ。

「行こう」

 その言葉に覚悟を決める。私たちは術の示す通り、とりあえず入り口を目指した。

 近くに行くとより細かな外観が見え始める。螺旋の模様が入った柱が使われ、重厚な木製の扉が固く閉じられている。建物全体は白っぽい石を多く使っているけれど、各所に色付きの良い石も配置されていた。

  ものすごい近寄りがたい雰囲気に加えて、警備兵と思しき人も入り口に立っている。

「入り口は厳しいですね……」
「裏口から入れないか確認しよう」

 ルナさんは短く答えて、周囲の様子を窺う。その姿からは宿での動揺が嘘みたいに落ち着いてる。探すと決めたときから行動が早い。

 でも私は逆に、不安でいっぱいだった。

 噂通り、元楼院が関わってるみたいだし、バルさん人体実験とかされてないといいけど。

 魔導術と正面を見比べつつ、動き出すルナさんを追いかける。

「裏口ありますかね?」
「通常であれば、な。だが、もしかしたら無いかもしれない」

 彼は地図と周囲の風景を見ながら、そう言った。たぶん地図には建物の後ろに道がなかったのだろう。

 それでも行くしかないから、ついていく。

 それにしても、魔王を誘拐するなんてずいぶん肝が据わっているというか、なんというか……。知らないから出来るんだろうけど、とルナさんへ話しかけた。

「バルさんは就寝する直前に出て、そのままだったんですよね?」
「そうだ。寝る間際、いきなり着替え始めて散歩に行くと」
「誰かに呼ばれたとか?」
「いや、部屋には誰も来ていない」

 そう言って、ふと顔を上げた。一つに結んでいるルナさんの青い髪が揺れる。こちらを見る金色の瞳が、わずかに細められた。

「そういえば、バルが出た後、フードを目深に被ったローブの後ろ姿を見たな」
「ローブ? 私みたいな?」

 私はミゼンで入手した黒いローブを見に纏っている。でも彼は首を横に振った。

「あまり記憶に残っていないんだ。夜だったから……ただ、そうだな。どこかで見た気もするんだが」
「どこかで……もしかして」

 ふと、幌馬車でマリーさんと話したときのことを思い出す。たしかローブで顔を出さなかった男性がいた。

 まさか、と思ったタイミングでルナさんが立ち止まる。

「思った通りだな」

 その言葉に視線を上げる。そこには心配していた通り、ドーム状の建物の背面があった。

 けれど言っていた通り、道どころか生け垣で遮られて中の様子も見えづらい。

「裏から行くのも無理か」

 ルナさんが、横から私の手に自身の手を添えて、魔導術を微妙に動かしていく。

 細かい位置を知りたかったようだ。

 だけど、どう見ても中心を指しているように見える。ルナさんが手を離したタイミングで聞く。

「どうしますか?」

 正面しか入り口がないのなら、日の高い時間に行くのは悪手だ。ルナさんも同じことを思ったのだろう。空を見上げた。

「明るすぎるな。もう少し陽が暮れてから再度来よう。それまでは準備と情報収集を優先した方がいい」
「そうですね。そうしましょう」

 ルナさんの提案にワタシも承諾を返した。

 今は仕方ない。それに魔王だもの。少しくらい平気なはず。

 ひとまず無事を祈って、その場を後にした。
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