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理由
しおりを挟む「……」
牢屋の中で、ルナさんは囚われていた魔術師のルベールさんを抱えたまま動かない。バルさんは私の肩に手を置いて黙っている。
そして裏切られたとでも言いたげなバルさんの言葉に私は……正直、何も思っていなかった。
そもそも家に帰ろうとしていたのに、勝手に同行したのはルナさんで。そこから信頼関係より常に帰宅を画策する方が先にくる。
裏切られたというより、用事が無事に果たされてお別れするなら願ってもないこと。
と、そんなことを言える空気ではなかったので、なんて返そうか悩んでいたらルナさんの抱えていた人が身じろぎした。
「……うぅ……っ」
「ルーベル! 分かるか? オレだ。ルナだ」
「……ルナ」
意識を取り戻したのか、首を動かすと波打つ黒い髪がサラサラと落ちる。おぼろ気な瞳はルナさんを見ていた。でもすぐにまた目を閉じた。ずいぶん衰弱しているようだ。
ルナさんが「出よう」と言う。
「説明は後でする。とにかく今はここを離れたい」
「そうですね。じゃあ、この人にも術を……」
「それは少し待ってくれないかな」
その言葉にバルさんを見る。首をかしげると、彼は牢屋の外、部屋の奥に視線を向ける。そして続けた。
「この先を見てからにしてほしい」
「そんな時間はない」
「本当に? なぜ行方不明者が続いているのか。彼がここにいた理由を知るべきじゃないのかい?」
「……」
ルナさんも奥へ顔を動かす。私もつい見てしまった。
バルさんは「行こう」と牢屋の入り口まで歩く。悩んだももの、私も後を追った。ルナさんも少し遅れて、抱えていた人を下ろす。そして足早に合流する。
「長居は出来ない」
「すぐ済むよ」
そう言って歩き出す。バルさんの後を追うと、言葉通りすぐにまた、扉が現れる。彼が手を伸ばして扉を押した。
引きずる様な重い音をさせながら、開いていく。
「──!」
瞬間、溢れんばかりの淡い光が視界いっぱいに飛び込んできた。思わず手で塞ぐ。目が慣れてきた頃に視線を戻すと、そこにはたくさんの石像が並んでいた。
よく見るとそれらは並んでいる、というより積まれている、の方が正しいかも知れない。
一体一体が人の姿をしていて、女性も男性もいろいろな姿の石像があった。手前の像は皆、胸元で手を組んで祈るような体勢なのに、後ろの方は走るような逃げ出すような動きをしている。
それを天井まで重ねている。途中までは確かに等間隔に並んでいるのに、途中から乱雑に乗せられていた。
それが足元から発せられる青い光に照らされている。
「石像の保管庫でしょうか」
私が聞くと、バルさんは意味ありげに微笑んで、近くの石像に触れる。そこはまだ比較的空間があって、どこか祀られているようにも見える。彼は「下を見て」と言った。
「リアナ、君なら分かると思うよ」
「?」
バルさんの言葉に不思議に思いながら、石像をよく見る。髪の長い美しい女性の石像。眠っているかのように瞳を閉じる彼女は、手前の像と同じように祈るように両手を組んでいた。
そして、彼の言った膝下部分の台座にセレスと削られた跡と、魔導師が使う紋章が浮かんでいる。その紋章と重ねて浮かぶ導きの文字『ΨЁф』が描かれていた。
その文字はどれも護りを意味する。堅牢な固さを示している。こんなところで、この石像は一体なにを守っているのだろう。
そのときふと、この都市の名が頭を掠めた。
結界都市──スフラギト。堅牢な結界に護られた都市。
「……まさか」
あり得ない、そんなはずない。そんな考えにゆっくりと顔を上げる。
だけど、と行き着く答えにバッと先の石像に視線を向けた。案の定、どの石像にも同じ文字が出ている。
もしこれだけの魔導師がいるのなら、国一つ丸ごと護ることは可能だ。
けどその代償はあまりにも非道だ。その恐怖に気付いてしまい、一歩後ずさる。
知らずに身体が震えて、抑えようと自らその身体を抱き締める。
すると異変に気付いたルナさんが「どうした?」と傍に来た。
「震えが酷い。何があった? 何かされたのか?」
「彼女を利用していたのに気にかけるんだね」
その言葉にキッと睨み付ける。低い声で言った。
「そんなことを言ってる場合か」
「フフッ、そうだね。今はそんな場合じゃない。でも安心していい。彼女は私の伝えたいことに気づいただけだよ」
「伝えたいこと?」
「ああ、ルナ。君にもわかりやすく説明してあげようか」
そう言って、再び傍の石像へ手を置いた。
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