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事情
しおりを挟む再び石像に視線を向ける。部屋の中にある全てが、魂の囚われた魔導師だと思うと怖くなってくる。
そこから目を逸らしながら言った。
「前にオババが……私の家族が魔導師を見なくなったと言ってました。昔は魔導術の依頼も多かったのに、最近は知らない人もいるって。私は単純に珍しいだけだと思ってたんです。けど、そもそもここに魂があるなら転生することなんて出来ない。新たな魔導師が生まれるわけがなかったんです」
「そうだね」
奥まで閉じ込められるように積まれている石像。今では悔しささえ込み上げてくるようだ。
私は知らずに続けていた。
「こんなにたくさんの人が閉じ込められて囚われて、新たな命を得ることも出来ずに術を使い続けているのに……どうしてこの街はまだ」
「人を集めているのか、って聞きたいのかい?」
バルさんの言葉に頷く。
都市に異常は見られなかった。この石像に囚われている魂が、きちんと機能している証拠だ。
それなのになぜ、さらわれる人がいるのだろう。奥の石像が乱雑に積まれているのに理由があるのだろうか。
バルさんは「残念だけど」と言う。
「私も詳しいことは知らない。だけど何か焦っているような口ぶりだったのは覚えているよ」
「バルさんはその相手を見たんですか?」
「いや。……だが」
何かを言いかけて、でもルナさんが遮るように口を開いた。
「魔導師が必要なら……それなら何故ルベールが狙われた? アイツは魔術師だ。必要なのは魔導師なんだろう? なんで……っ!」
振り返って彼は、私を見てハッとした様子で顔を逸らす。私はどこか気まずさを感じて俯いた。バルさんはいつもより静かな声で答える。
「私たちを拐った人物はその違いが分かっていなかったようだよ。魔導師も魔術師も変わらないものだと思い込んでいるようだった」
「でも魔導師じゃないから、この術の犠牲にはならなかった」
「そう。私も彼も」
「だから……」
「そういうことだよ。君が身分を偽ってリアナと共にいたのと同じ理由だね」
「……そういうことか」
そう呟いたルナさんが、私を見て贖罪のようにポツリポツリと話し始める。
彼がギラロッシュ王国の騎士だということ。少し前から王宮魔術師が遠征に出て行方知らずになることがあったこと。
そしてとうとう、友人のルベールさんがいなくなってしまったということ。
以前より掛け合っていたのが功を奏して、王国は本格的な作戦を仕掛ける。
それが魔王討伐。集まった魔術師、魔導師を囮に事件を暴こうとしたらしい。
「それで各魔術師や魔導師たちには、冒険者を装った騎士団の人間が後をつけた。隙を見て、同行出来るように」
「……」
つまり魔王討伐は結局建前で、ついてきたのも理由があって。バルさんが私を利用したって言ったのは間違いじゃなかった。
だから、バルさんが魔王でも関係なかったし、居場所が簡単に分かったのはルベールさんのためを考えれば、むしろ良かった。
そこでふと、思い出す。
「そういえば、どうしてバルさんが狙われたんですか?」
私が囮なら、拐われるのは私のはず。
それに彼が、街中で彼が魔術を使っているタイミングなんてなかった。唯一、心当たりがあるのは入国審査のとき。
だけどあの時も身分証を出していたし、当然、私の職業が魔導師だって書いてある。それなのに狙われたのはバルさんだけ。
私の疑問に答えようとした彼は、突然動きを止める。
入ってきた扉の方を見ていたら、人影が見えた。咄嗟に警戒する。ルナさんも気付いたようだ。
だけどバルさんは、逆に警戒を解いて柔らかい笑みを見せた。
「やあ、また来たんだね。私たちは用済みだったのではなかったのかな」
そう聞く。相手は無言のまま姿を現した。それを見て、私は大きく目を見開いた。
グレーのローブ。それはスフラギトに来る前、幌馬車で同乗した人によく似ていた。
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