引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月 瑠々奈

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戦い

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 いつの間にか周囲に冷たい風が吹きはじめる。ポタッと鼻先に雫が当たって顔を上げた。

 鈍色の空から雨粒が降ってくる。

 それでもなお、黒いモヤは変わらずそこにあった。

 むしろ……今までよりも形がハッキリしている。

「ワシが部下を呼ぶ。祭礼室まで連れていってくれ」

 バルさんに肩を借り、弱々しく歩いている。私たちは結局、ドロースを助けることにした。

 別にスフラギトの成り立ちに何か思った訳じゃない。やったことは許せないし、今も助けたことは後悔している。けど今、人手が必要なのは確か。

 彼は自分がいれば、部下を動かせる、だから助けてくれと懇願した。

 私はただ……バルさんに後を託して背を向けた。

「……」

 降りだす雨の中、ドロースの指示通り崩れかけた階段を上り建物の上に顔を出す。そこはもう騒ぎになっていた。

「急げ! 救護隊はまだか!!」
「警護兵が来るのはいつなんだ?」
「向こうに人が倒れている。何人か行ってくれ」
「あれは今どういう状況だ? なぜ動きを止めた?」

 幾人かが、「ドロース様はまだか」と言っている。そこまで来るとドロースは一人で歩き出した。そして響く声で言う。

「皆の者、聞け!! 今恐れていた事態が起きてしまっている! だが我々は備えてきたはずだ。こうして不足の事態にも対処できるように!! 相手が何であれ関係ない!! 結界都市に恥じぬ守りを見せようぞ!!」

 元楼院の長という肩書きは伊達じゃなかったようだ。彼の言葉に賛同するように「「うおー!!」」と歓声が上がる。

 そして、彼らはドロースの指示通り動き始める。

「警備隊が来るまであと少しだ! 魔術隊は食い止めるに留めろ! 下手に刺激しなくていい!」

 どこからかワラワラと集まり始めたスフラギドの魔術師たちが、黒いモヤが近づかないように、一斉に炎の術で壁を作る。

 規則正しく並んだ彼らが詠唱したあと、黒いモヤに炎が燃え移る。端から霧散していった……かに思えた。

 でもその後のモヤの動きに目を見張る。

「なにあれ……」

 黒いモヤは、急に炎を避け始めたかと思うと、グニャリグニャリと動き始めた。まるで嫌がるように、避けているように。

「なんだか意思があるように見えるね」

 バルさんも同じことを思ったようだ。そう呟く。

 おまけに炎を浮け続けると、その色が濃くなっていくように見えた。でも傷一つついているようには思えない。

 魔術師たちも痺れを切らしたのか、炎に続いて、氷の魔術を使う。これにはさすがに凍ってしまった。

 けれどすぐに、バリンッと砕けてまたグニャグニャし始める。それは段々と球体に変化していった。

「何が効果的なのか、さっぱり分からないな」
「バルさんが言ったように恨み辛みであるなら、正の力である祈りや追悼のようなものではいけないのでしょうか?」
「それは難しいようだよ」

 バルさんが視線を奥に向ける。白い神官服の男女が膝をついて祈りを捧げている。けれど全く響いていないようだった。

 それどころか体当たりするように神官たちに襲いかかる。そこを魔術師たちが今度は水の魔術で壁を作る。

「あの魔導は護りだと言っていたね」
「ええ」
「それが基になっているなら、あれこそが堅牢な守りだろう」
「死してなお、護ろうと……あ!」

 話しているうちに黒い球体へ矢が降り注ぐ。警備兵が駆けつけたようだ。それでも、効果があるようには見えない。

 そこからは本格的に攻撃を激しくする。氷と水、といった感じで合わせた術式を繰り出したり、風と炎をぶつけたり。

 激しいぶつかり合いの合間、声がした。

「リアナ!」
「ルナさん!」

 駆け寄ってくるのはルナさんだ。傍に来るとルベール卿を安全なところに移動させてきたと、説明する。

「それで? こっちはどうなってる?」
「残念だけど、いい状況じゃないね」

 バルさんの視線を辿ったルナさんが眉根を寄せる。

「なんだ、アレは」
「私たちもまだ確証を得てはいないんだけどね。恐らくあれが魔導師たちの負の感情じゃないかって言ってたんだよ」
「……そうか」

 納得したわけじゃないと思う。それでもただ、黒い球体を見ていた。

 だから私は訴える。

「あの中にマリーさんが囚われました。力を……貸してもらえませんか」

 私を無理やり魔導術の部屋まで連れ去ったのは許してない。けど、あの馬車で夜営をしたとき、同じ焚き火を囲って笑い合って、娘のようだと言ってくれたのは変わらないから。

 そして最後に庇ってくれようとした、そのお礼を言いたいだけだから。

 手のひらを強く握り、まっすぐルナさんを見る。

 彼は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにフッと笑った。

「当然だ。お前には借りがある」
「私も手伝うよ。感情が具現化して襲ってくるなんて、おもしろそうだ」
「あ、ありがとうございますっ!」

 思わず頭を下げる。

 顔を上げて、改めて黒い球体に視線を向けた。
  
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