引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月 瑠々奈

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淀んだ想い

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「行くな……助けてくれ」

 振り返った先では、ドロースが再度声をかけてきた。

「ワシを置いていけば後悔することになるぞ……早くこの石をどけてくれ」

 声は小さいものの、物言いは強気。ムッとしていたら、バルさんがドロースの前でしゃがみこむ。

 そしてフッと笑みを作った。

「後悔? 君をここで助けた方が後悔しそうだが? どうだい? リアナ」

 聞かれて一瞬躊躇ったものの、キッと睨み付ける。口を開きかけたけど、何かを察したのかドロースの方が慌てた様子で言った。

「ま、待て!! 聞いてくれ! あれが何か、なぜ結界が出来たのか、聞きたくはないか?」
「それは……」

 たしかに気になる。地下にあったのは魔導術。脅されて組んだものかもしれないけど、それにしては長い期間も保持されるほど、しっかりしていた。

 私が黙り込んだのを良しとして、ドロースは嬉々として語り出す。

「やはり聞きたいだろう? そなたは若いが為に知らぬことだろうが、理由があるんだ! 知りたくばワシをここから出せ! ……!」

 急に吹く風の勢いが増して、音が大きくなる。見ればバルさんが、その手に小さな風の渦を作っていた。

「あまりふざけたことは言わない方がいいよ。世の中には知らなくていいことが山ほどある」
「だ、だが……」
「話したいなら話せばいい。私の機嫌が良ければその塊を吹き飛ばしてあげなくもないからね」
「!」

 その言葉に表情を変えたドロースが話し始める。

「……あれは、魔導師たちの願いそのものだ。この地に根付き、繁栄すると決めた決意の証だ」

 昔──魔の国に近いスフラギトは捨て置かれた地だった。荒廃し、誰も住まぬ土地。そこにたどり着いたのが魔導師たちだった。

 その頃、魔術というものが知られるようになったが、まだまだ信を得られるような状態ではなかった。

「怪しい術を使うと肩身の狭い想いをして来た初代たちは、スフラギトを魔導師たちのための街にしようと決めた」
「だが、そこはまだ魔獣たちの支配する土地だったんだよね」
「ああ、そうだ。だから初代らは決めた。自らが礎になると! 分かったか!? 彼らは皆、望んで護りの要となっているんだ! 貴様も魔導師の端くれならば尊い犠牲となるのが本望だろう?!」
「……っ!」

 強い言葉で言われると、そうしなければいけないのか、と考えがよぎる。勢いに気圧されて、フラフラしながら後ずさると代わりにバルさんが言った。

「本当に全員がその考えに賛同したのかい?」
「……何?」
「君はあの黒いものが何かと知っているようだったね。それが答えじゃないのかい?」
「……」

 ドロースが黙り込む。バルさんが無言で立ち上がった。それを見捨てられたと思ったのか、慌てて返す。

「き、貴殿が言った通りだ。初代の考えに同調したのは一部で、術は半ば無理やり決行された」
「それでは当然、反感を呼ぶと思うが?」
「その通りだ。繁栄せずとも犠牲者を出したくないと反対する者はいた。だが皆、結局礎となったと記録されている」
「なるほど。望んでいないのに殺され魂を囚われ、恨み辛みが重なる」
「そんなことはない! ここは世界で最も安全な地となった。彼らの願い通りに繁栄している!」

 必死に訴えるドロースを見て、そして神殿の中心から現れた黒いものを見る。

 バルさんも同じように見ていた。

「だがそれは表面上に過ぎなかったようだね。恨み辛みがあったのは事実のようだ。そうして具現化されものを君たちはと捉え、結界を強めるために新たな魔導師を捕らえては礎に加えた。でも、それは一時しのぎに過ぎない。そして今、抑えきれなくなった」

 ドロースは眉間に皺を寄せる。ギリッと歯軋りして険しい顔をした。

「ならば貴殿は、あれが我々の行動の結果だと……間違いだったと言いたいのか!!」

 吠えるような叫びに、バルさんが目蓋を伏せる。そして返した。

「残念だけど、その答えを出すのは──私ではないよ」

 そうして、あの黒いもやに目を向けた。
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