引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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異変

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「あ……や……やめて!!」

 光の中心に転がされると、その光が強くなる。魔導術の発動条件は触れること。その対象の私は、恐らくこのまま石像となって魂が囚われる。

 嫌だ嫌だ嫌だ、と思わず目を瞑った。現実から目を逸らしたくて。

 だけどその時、地面が微かに震えた気がした。

 ハッと顔を上げる。天井からパラパラと小石や埃が降ってくる。ドロースも周囲を見始めた。

「なんだ……?」

 すぐ後に私の真下の光が揺らぐ。ゴゴゴッ!と響く音に、見ればいつの間にか細い亀裂が走っていた。

「わ!!」
「なん……ぐっ!」

 突然、ガタガタと建物自体が揺れてドロースですら転んでいる。地面の亀裂が大きくなっていき、天井からもバラバラと板や石が落ちてきていた。

 それらがドロースの上を直撃する。

「な──!!」

 そしてやがてゴゴゴゴゴッ!と響いて、大きな地震となって建物を襲った。私は咄嗟に小さく丸くなる。それでも降り注ぐ破片やら何やらで、すぐに状況がわからなくなった。


*  *  *


 最後に聞こえたのは、建物が崩れる音だったと思う。それもすぐ聞こえなくなったのだけど。一瞬真っ暗になった気がして、でもどこかから声がして目を開ける。

 そこには心配そうに覗き込むバルさんの顔があった。

「リアナ、ここにいたのか。怪我はないかい?」
「……はい。たぶん」

 私がいたのは、崩れた壁と壁の間だった。覗き込むバルさんが手を伸ばして、その力を借りて体を起こす。でもその直後、クラっとして頭を押さえる。

 少ししてから再び視線を上げて、見えた景色に思わず固まった。

「……え」

 崩れた壁に剥き出しの階段、そして天井は抜けて鈍色の空が見える。とにかく何かが起きて、建物が崩れたらしい。そしてこれだけの状況で、私はなんとか生きていた。

 膝をついて私を引っ張り出したバルさんが、階段に目を向ける。

「ルナはもうルベール卿を連れて離れているはずだ。私たちも行こう」

 それに返事をしようとしたその間際、うめき声がした。目を向けるとドロースが崩れた壁の下敷きになっていた。

「……」

 助けるべきか、と一瞬悩んで、けど私は動けなかった。

 たとえ街を守るためだったとしても、ドロースの言動を私は許せない。

 でも直後、反対側から声がした。

「リ……リアナ」
「マリーさん!」

 同じように壁の下敷きになっているマリーさんを発見する。慌てて駆け寄ると、彼女は肩で息をしながら私の手を強く掴んだ。

「ごめんなさい。娘のメイラがここにいると、助け出すためには協力しろと言われていたの」
「それで私たちを……」
「だけどやっぱり間違っていたわ。あなたを危険に巻き込んでしまってごめんなさい。許してもらえるとは思ってないけど謝らせて」
「そんなの……」

 息も絶え絶えで、そんなことを言われてどうすればいいのだろう。そんなの勝手だと叫びたかったけど、ぐっと堪えて離れそうなマリーさんの手を客に強く握った。

「とにかく逃げましょう! 話は後で聞きます」

 思い切り引っ張ったけど、マリーさんは動かない。彼女は弱々しく笑った。

「足が抜けないの。リアナ、あなたは早く逃げて」
「マリーさんも逃げるんですよ! 足なんて何かに……」

 挟まっているだけだと思っていた。だけど隙間から覗くと何かおかしな違和感があった。

 ただの暗いだけじゃなくて、何かが動いている。さらによく見ようと目を凝らした瞬間、その黒いものが意思を持ったかのように細い紐のようなものになっていく。

 そしてシュルシュルとマリーさんの体に纏わりつくと、そのまま彼女の体は奥に引っ張られてしまった。

「!!」
「マリーさん!」

 瓦礫などもろともせず、跳ね飛ばしていく。彼女の姿は一瞬にして見えなくなった。

 慌ててと探す間もなく、神殿の中央を見ていたバルさんが警戒した声を出す。

「リアナ、あれも魔導術なのかい?」
「え」

 反射的にバルさんの視線を追う。灰色の空を背景に、黒くて大きい蔓のようなものがいくつも蠢いていた。

 その一つに、一瞬マリーさんが見える。けど、いきなり宙に放り投げられたかと思うとそのまま黒い塊の中に取り込まれた。

「な……!!」
「とりあえず、ここから離れよう。あれが何かは分からないが、危険な気配がする」

 行こう、と歩き出そうとしたところを「待ってくれ」と呼び止められた。
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