引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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結界を維持するもの

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 突然、誰かに抱えられるようにして身動きできなくて、口を塞がれてたけど慌てて騒いだ。掴んだ相手が驚いて、そのまま落としてくれないかなと期待して。

「んむー! むーー!」

 けど案の定くぐもった声しか出せない。しかも意外と力が強くてビクともしない。直後、背後から「ごめんね」とマリーさんの声が聞こえてハッとした。

 確かに今、ドロースの他で動ける人がいるとしたら彼女だけだ。そう考えたのと同時にルナさんの声が響いた。

「リアナ!」

 異変に気づいて駆け寄ってこようとする。けど他の二人が邪魔をする。

 ドロースが叫んだ。

「何グズグズしてる!! 早く来るんだ!!」

 その声に急かされてマリーさんが走り始める。私も本格的に焦り始めた。

 このまま連れていかれるのはマズイ!! でもうまく逃げ出せない! 懸命に暴れるけど足が浮いてて踏ん張りすらきかないっ!!

 どうしようどうしよう、と考えているうちに部屋を出てしまった。

 廊下に出て、一瞬ルベールさんのいた物置みたいな一角が見えた。けど二人はそれに目もくれず、どこかを目指して走る。

「んーーー!」

 もうバルさんたちの声すら聞こえない。それでも諦めずにジタバタして声を出す。

 でも途中でふと気づいた。

 来た道を戻ってるはずなのに、隠し通路も扉も部屋もない。廊下をひたすらに走っている。たぶん階段横にまた通路があったのだろう。

 私たちの気付かなかった道。そこに隠れていたのなら、最初から踊らされていたことになる。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。とにかく逃げなければ、と暗闇の中で考える。

 けど気づけば、扉を開く音がした。

 状況を確認するより早く、床に転がされる。

「っ……うぐ!!」
「きゃっ」

 マリーさんが重みに耐えきれずに落としたようだ。いきなりだったから受け身も取れず全身が痛い。

 それをなんとか無理やり起こそうと、目を開けたら今度は腕を強く引っ張られた。

「いたっ! な、なにを……」
「さっさと立て! こっちにこい!」

 腕の痛みに顔を歪めながら周囲を見る。そこはひんやりとした小さな部屋だった。さっきまでと同じく窓もなく、薄暗いまま、中央の床から淡い青い光が放たれているだけ。

 ドロースに腕を引っ張られて、その中央に引きずられる。

「や、やめて!! 離して!!」

 なぜか嫌な予感がして、懸命に抵抗する。でも力の差から徐々に中央へ近づいてしまう。

 その時、光の中心に文字が見えた。

 近づけば近づくほど、それが紋章だと分かる。そして重ねて描かれた記号が、あの石像の部屋で見たものと全く同じだった。

 思えばおかしな話だ。自ら望んだ者でなければ、術をかけられる間に逃げ出せばいい。だけどこうして、術を常に発動している状態であれば、無理やり連れていくだけで成立してしまう。

 そして適合者以外には害がなければ、押さえつけていればいいだけ。

 それを考えると、これから自分がどうなるのか、容易に想像がつく。あの石像と同じことになって、きっとそのまま積まれるだけ。

 一気に血の気が引いて、ドロースの手を思い切り引き剥がそうとする。けど何をしても外れない。

 知らずに視界がじわりと滲む。

「……や、やだ……!! 待って待って!!」

 なんとか、なんとかしないと、その一身で全身に力を入れる。けど全くドロースは動じない。

 暴れても、やめてと叫んでも全く動じない。

 魔導術の青白い光が間近に迫っている。もうダメだ、そう諦めかけたその時──ドロースの足が止まる。その足元にマリーさんがすがっていた。

 それを見てドロースが低い声を出す。

「なんの真似だ、マリー」
「も、申し訳ございません、ドロース様! その子はまだ幼いではありませんか。別の……別の魔術師を連れて参ります。だからその子は……見逃していただけないでしょうか!」

 懇願するように顔を上げる。マリーさんのその姿に涙がこぼれる。けど直後、彼女が蹴り飛ばされた。

「マリーさん!!」
「はっ! くだらぬ情に絆されたか……まあいい」
「っ!」

 ドサッと放り投げられて、体が痛い。それでも解放されたことに安堵する。

 だけどドロースはドスドスとマリーさんの方に行って、身を屈めて言った。

「願いを聞き入れてやらんこともない。だが貴様はそれでいいのか? 娘に会いたいんじゃないのか?」
「……あ……も、もちろんです。メイラを……」
「会いたいのだろう? しかし、娘の代わりがいなければ戻ってこれぬ。どうだ? 娘のためになら……出来るだろう?」
「……」

 マリーさんは虚ろな目で私を見る。今度こそもうダメだ、と思った。

 けど彼女は強く首を横に振った。

「できません! 誰かを代わりになど」
「チッ。使えぬヤツめ。貴様はそこで見ていろ。すぐ終わる」

 マリーさんの言葉が終わるより早く、ドロースがこっちに来てしまう。逃げる間もなくまた腕を掴まれて引きずられた。

「マリーさ……い、痛い!」
「早く進め!」

 踏ん張ってもなお、無理やり引きずられる。抵抗しても敵わない。そしてすぐ青い光の中心に放り投げられた。
 
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