41 / 64
結界を維持するもの
しおりを挟む突然、誰かに抱えられるようにして身動きできなくて、口を塞がれてたけど慌てて騒いだ。掴んだ相手が驚いて、そのまま落としてくれないかなと期待して。
「んむー! むーー!」
けど案の定くぐもった声しか出せない。しかも意外と力が強くてビクともしない。直後、背後から「ごめんね」とマリーさんの声が聞こえてハッとした。
確かに今、ドロースの他で動ける人がいるとしたら彼女だけだ。そう考えたのと同時にルナさんの声が響いた。
「リアナ!」
異変に気づいて駆け寄ってこようとする。けど他の二人が邪魔をする。
ドロースが叫んだ。
「何グズグズしてる!! 早く来るんだ!!」
その声に急かされてマリーさんが走り始める。私も本格的に焦り始めた。
このまま連れていかれるのはマズイ!! でもうまく逃げ出せない! 懸命に暴れるけど足が浮いてて踏ん張りすらきかないっ!!
どうしようどうしよう、と考えているうちに部屋を出てしまった。
廊下に出て、一瞬ルベールさんのいた物置みたいな一角が見えた。けど二人はそれに目もくれず、どこかを目指して走る。
「んーーー!」
もうバルさんたちの声すら聞こえない。それでも諦めずにジタバタして声を出す。
でも途中でふと気づいた。
来た道を戻ってるはずなのに、隠し通路も扉も部屋もない。廊下をひたすらに走っている。たぶん階段横にまた通路があったのだろう。
私たちの気付かなかった道。そこに隠れていたのなら、最初から踊らされていたことになる。
って、そんなこと考えてる場合じゃない。とにかく逃げなければ、と暗闇の中で考える。
けど気づけば、扉を開く音がした。
状況を確認するより早く、床に転がされる。
「っ……うぐ!!」
「きゃっ」
マリーさんが重みに耐えきれずに落としたようだ。いきなりだったから受け身も取れず全身が痛い。
それをなんとか無理やり起こそうと、目を開けたら今度は腕を強く引っ張られた。
「いたっ! な、なにを……」
「さっさと立て! こっちにこい!」
腕の痛みに顔を歪めながら周囲を見る。そこはひんやりとした小さな部屋だった。さっきまでと同じく窓もなく、薄暗いまま、中央の床から淡い青い光が放たれているだけ。
ドロースに腕を引っ張られて、その中央に引きずられる。
「や、やめて!! 離して!!」
なぜか嫌な予感がして、懸命に抵抗する。でも力の差から徐々に中央へ近づいてしまう。
その時、光の中心に文字が見えた。
近づけば近づくほど、それが紋章だと分かる。そして重ねて描かれた記号が、あの石像の部屋で見たものと全く同じだった。
思えばおかしな話だ。自ら望んだ者でなければ、術をかけられる間に逃げ出せばいい。だけどこうして、術を常に発動している状態であれば、無理やり連れていくだけで成立してしまう。
そして適合者以外には害がなければ、押さえつけていればいいだけ。
それを考えると、これから自分がどうなるのか、容易に想像がつく。あの石像と同じことになって、きっとそのまま積まれるだけ。
一気に血の気が引いて、ドロースの手を思い切り引き剥がそうとする。けど何をしても外れない。
知らずに視界がじわりと滲む。
「……や、やだ……!! 待って待って!!」
なんとか、なんとかしないと、その一身で全身に力を入れる。けど全くドロースは動じない。
暴れても、やめてと叫んでも全く動じない。
魔導術の青白い光が間近に迫っている。もうダメだ、そう諦めかけたその時──ドロースの足が止まる。その足元にマリーさんがすがっていた。
それを見てドロースが低い声を出す。
「なんの真似だ、マリー」
「も、申し訳ございません、ドロース様! その子はまだ幼いではありませんか。別の……別の魔術師を連れて参ります。だからその子は……見逃していただけないでしょうか!」
懇願するように顔を上げる。マリーさんのその姿に涙がこぼれる。けど直後、彼女が蹴り飛ばされた。
「マリーさん!!」
「はっ! くだらぬ情に絆されたか……まあいい」
「っ!」
ドサッと放り投げられて、体が痛い。それでも解放されたことに安堵する。
だけどドロースはドスドスとマリーさんの方に行って、身を屈めて言った。
「願いを聞き入れてやらんこともない。だが貴様はそれでいいのか? 娘に会いたいんじゃないのか?」
「……あ……も、もちろんです。メイラを……」
「会いたいのだろう? しかし、娘の代わりがいなければ戻ってこれぬ。どうだ? 娘のためになら……出来るだろう?」
「……」
マリーさんは虚ろな目で私を見る。今度こそもうダメだ、と思った。
けど彼女は強く首を横に振った。
「できません! 誰かを代わりになど」
「チッ。使えぬヤツめ。貴様はそこで見ていろ。すぐ終わる」
マリーさんの言葉が終わるより早く、ドロースがこっちに来てしまう。逃げる間もなくまた腕を掴まれて引きずられた。
「マリーさ……い、痛い!」
「早く進め!」
踏ん張ってもなお、無理やり引きずられる。抵抗しても敵わない。そしてすぐ青い光の中心に放り投げられた。
10
あなたにおすすめの小説
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~
阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」
婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。
けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。
セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。
「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。
――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる