52 / 64
別れ
しおりを挟むミルベルが目を覚ましたのは、しばらくしてからだった。
外はいつの間にか雨が降っていて、空には稲光が見える。そんな中、ゆっくりと体を起こした彼女は軽く頭を振る。けれど事態に気付いて、すぐに立ち上がった。
「セレス……!」
家を飛び出したミルベルは、雨避けすら持たずに駆け出した。自分が戦うときは、いつも森だった。だから森を目指す。
だがミルベルは魔導術への理解が低く、知らなかった。セレスがどこで術を使うのか、を。
不思議なことに街中には人の気配がなかった。
森を目指していたものの、段々と不安になってくる。
「セレス……? どこにいるの? ねえ! 誰かいないの!?」
ミルベルは森から背を向け、闇雲に走り始めた。町中のあちらこちらを探し回る。すると、高台に明かりを見つけた。松明のようだ。嫌な予感が掠める。
彼女は無我夢中でらその明かりを目指して進む。坂途中から人が増えて、ざわざわと騒がしくなった。近づくと聞きたくない言葉が耳に入った。
「……当代様が結界を張るらしい。これでもう魔物の驚異に脅えることはなくなるな」
「!」
ミルベルが目を見開く。人々の隙間を「通して! お願い!」と叫びながら、中心を目指していく。
でもなかなか、たどり着けない。前方になればなるほど、人が多くなる。無理やり押し退けても、すぐに押し返される。
それでもなんとか前に進む。ようやく、広場が見えてきた。
ミルベルは声を上げた。
「セレス!!」
広場に用意された祭壇。その中心に立つセレスと連なる魔導師たち。雨足が強くなる中で、その声は届かない。それでもミルベルは声を上げ続ける。
「セレス! セレス!! お願い!! やめて!!」
空を見上げていたセレスが、その手を上げようとしてピクリと動きを止めた。
ミルベルがさらに声を上げる。前に出ようとするのを警備隊が止める。諦めることなく叫んだ。けれど聞こえないかのように、セレスたちはゆっくりと動き始めた。
全てを閉じ込めるように、そっと瞳を閉じる。その指先で宙に紋章を描く。それは金色に輝き始める。
魔導師たち、それぞれの紋章が光を放つ。そうして、幾重に重なり始めると、セレスが今度は手の平を紋章へと掲げた。
次々と現れていくのは堅牢を示す記号たち。それらが連なるとΨЁфとなる。
その場で静かにセレスが膝をつく。それを皮切りに周りも皆、同じく膝をつく。
淡い彩光が彼らを包む。溢れんばかりの光が照らす。まるで昼間のように明るくなる。
あまりの眩しさに誰もが視線を外す中、一人ミルベルだけが警備隊に押さえつけられながらも手を伸ばした。
「やめてーーーー!!」
叫びも虚しく、強い風が吹く。空には淡い膜が引かれていく。
そして、全てが終わる頃、光さえも輝きを失って周囲は静まり返る。セレスたちのいた場所には、ただ同じ形をした石像があった。
ミルベルが崩れ落ちるように、膝をつく。小刻みに震える手を伸ばす。けれどもうそこには、ミルベルを心配して声をかけるセレスの姿はなかった。
「……あ……っ……あああああ!! いやーーーー!!」
いまだ雨降る中で、その叫びだけが響いていた。
11
あなたにおすすめの小説
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜
小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」
私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。
そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。
しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。
二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ
だが、自分にせまる命の危機ーー
逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。
残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。
私の愛する人がどうか幸せになりますように...
そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか?
孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる