引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

文字の大きさ
51 / 64

望んだ犠牲

しおりを挟む

 結果的に、セレスの考えは成功した。

 彼女は数人の協力者を募ってΨサルトの防御術を完成させた。そのおかげで、村が発展していく。村はどんどん大きくなって、人々の笑顔も増えて、町となって行き交う人たちも増えた。

 そうした功績が認められ、次代の長としてセレスは選ばれた。

 けれどミルベルだけが、それを喜べないでいる。町外れの小屋で言い争いになっていた。薄暗い中で、テーブルの上のランプだけが二人を照らす。

「セレス! 忙しいのはわかるけど身体を休める時間は取って。お願いよ」

 ミルベルが心配するのも無理はない。わずかな明かりに照らされたセレスの顔は、気付けば頬が痩けて、目の下にクマが出来ていた。

 けれどセレスは不服そうに返す。

「私がいなければ町がどうなるか知らないの? 休んでる暇なんてないのよ」
「だからってあなたが倒れてしまうわ。あなたの代わりに誰か他の」
「誰がいるっていうの? 姉妹として生まれたのに姉さんですら防御術を扱えないのに!」

 魔導術はそもそも、魔力の流れを感知出来なければ扱えない。セレスは生まれ持った霊憶こんきがよかった。

 防御術を組む才能もある。だからこそ、町に入り込む魔物を追い払うことも出来た。

 一方のミルベルは魔力の流れに疎く、霊憶もよくなかった。姉妹として生まれても別人のように力の差がついてしまうのが魔導術。

 ミルベルがセレスの扱う魔導術を理解することは全く出来なかった。けれど目の前で疲弊していく妹を放っておくわけにもいかない。ミルベルは懸命に訴える。

「力になれず、ごめんなさい。だけどあなたが休んでいる間は、町の皆とここを守るから。だから今日はもう休んで」

 そう話した矢先、外で鐘が鳴る。ミルベルが振り返る。セレスは「行かなくちゃ」と呟いた。

「ほら、姉さんこそ休んで。私が守るから」
「ダメよ、セレス。あなたはここにいて。私が」
「何度言わせるの? 姉さんじゃ出来ないのよ! 私が行くしかないの!」

 叫ぶように言ってセレスが飛び出した。

「セレス!!」

 ミルベルの声も虚しく、扉の先にはもうセレスの姿はなかった。


*  *  *


「もう限界だ!」

 誰かが叫ぶ。どしゃ降りの中、農具を片手に座り込んでいる男性が続けた。またスフラギトに魔物の異常発生が起きたらしい。ミルベルもローブに身を包み、片手に麻紙を握りしめていた。

 それはまるで私のようだと思う。

 少ない手札で魔物を退けたものの、誰もが疲弊しているは見て取れた。誰かがまた口を開く。

「長が倒れてどれくらいになる? もう我々だけではどうにも出来ないぞ」
「警備隊も作ったが、まだ戦いに慣れていない」

 そんなことを口々に言った。間を置いて、高台の方から女性がミルベルを呼んだ。

「ミルベル! セレスが目を覚ましたよ!」
「!」

 その言葉に彼女は高台の家を目指す。いつの間にか二人の住居となった神殿近くの家には、他の人たちも押し寄せた。

 ミルベルが声をかけるより早く、集まった人たちがワッと騒ぎ立てる。

「目を覚ましてくれ助かったよ」
「聞いてくれ! 魔物が異常に押し寄せている」
「警備隊では無理だ。あんたがいてくれないと」

 口々に言われる言葉を、ぼんやりとした表情でセレスが聞いている。そして誰かが言った。

「そうだ! セレス、あんた前に言ってただろう? 強力な結界術があるって。それを使ってくれ!」
「!」

 ミルベルはハッと目を見開き、声を上げた。

「いい加減にしてちょうだい! セレスは目覚めたばかりなのよ! さっさと全員出てって!!」

 騒ぎ立てる町民たちを急いで追い出す。不満を口にしつつも彼らは部屋を出ていった。

 静まり返って、ようやくミルベルがセレスを見る。

 以前にも増して、痩せて顔色が悪い。ぼんやりしたままの瞳に光はなく、ミルベルは気遣うように声をかけた。

「何か飲める? スープを持ってきましょうか。軽食もあるわ。今持ってくるわね」

 身を翻し、部屋を出ようとするミルベル。その後ろから弱々しい声がした。

「姉さん……」
「なに?」

 小さな声にもすぐさま反応して振り返る。

 セレスは言った。

「私、あの術を使おうと思うの」

 その言葉にミルベルが息を飲む。ベッドサイドに駆け寄り、椅子に座るとセレスの手を取った。

「バカなことを言わないで。あんなものは忘れていいのよ。魂を留めて結界を張り続けるなんて……今でも私たちは戦えてる。さっきの声はちょっと大袈裟だっただけよ」
「姉さん……」
「みんな騒ぎすぎなのよ。私たちだっていろいろ考えているのよ? この間は罠を張って……」
「姉さん」
「小さな魔物だったけど一網打尽にしたのよ? それで」
「姉さん!」
「……」

 突然の大きな声にミルベルが口を閉じる。セレスが続けた。

「もうわかっているでしょう? ここまで大きくした町を今失うわけにいかないの。次に何かあれば、今度こそ本当に皆の心が壊れてしまうわ」

 けれどミルベルは首を激しく横に振る。

「やめて!! 聞きたくない!! 私にはあなたがいればいいのよ、セレス。あなたさえいてくれれば……ねえ、もういいじゃない。町から出ましょう。二人でもやっていけるから」
「姉さん……」

 眉尻を下げるセレスは、弱々しく笑った。

「昔、村を転々としていたとき、虐められていたことがあったでしょう?」
「……急に何を」
「あの頃、姉さんがいつも助けてくれたわ。私をかばって、一緒に逃げて」

 突然の話に訝しみながらも、ミルベルも応える。

「そうね……たいして力になれなかったわ。結局あなたも殴られていたじゃない。私にはあなたのような力がないもの」
「それでも母と父が亡くなったばかりで、心細かった私にはとても頼もしく見えていたのよ」
「ねえ、セレス。急にどうしたの? 何故そんな話をするの? まるで……」

 ふと気配がしてミルベルが振り返る。いつの間にか部屋に人が入り込んでいた。

 黒いローブに身を包み、フードを目深に被った二人。彼らは気づかれた直後、素早く近づきミルベルを羽交い締めにすると、口元に何かを当てる。

「──!」

 するとすぐに彼女は意識を失ってしまう。静かに床へ下ろされるミルベルを見ながら、セレスが立ち上がった。

 ローブの二人が頭を下げて、彼女へ似たローブを差し出す。

 彼女はそれを羽織ながら言った。

「姉さん、少し寝ていて。すぐに終わるから」

 そうして身を翻し、部屋から出ていく。静まり返った室内で、ただミルベルの息づかいだけが聞こえていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...