引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月 瑠々奈

文字の大きさ
55 / 64

婚儀

しおりを挟む

「では、これより婚礼の儀を執り行う」
「……」

 さすがにさ、危険なことはないと思ってた。けどね、こうなるとは全く考えてなかったんだけど。

「始めに創正神の訪れから……」

 神父が朗読台の前で話し始める。私と隣にいる男性は、それを黙って聞いていた。ちらりと見ると、どこか緊張した面持ちを感じた。

 ミリアーナの花婿のレオナードさん。濃い茶髪の若い男性で、白いタキシードを着ている。

 そしてもちろん、私は真っ白な花嫁衣装だ。鏡を見せられた時は別人の顔だったから、ミリアーナの記憶をなぞっているに過ぎないのだけれど。

 それでも触れられる以上、やっぱり現実感があって困ってしまう。

 今も体の主を呼ぶ声がハッキリ耳に届く。

「ミリアーナ」

 顔を上げたら神父が、横を見るように促した。私はしぶしぶ、隣へと体を向ける。レオナードと向かい合うように。

「──」

 視線を上げると、薄紫の瞳を細めて彼は微笑んだ。愛おしそうに見つめられて、居たたまれなくなる。

 スッと視線を逸らしたけれど、冷や汗が出てくる。

「……」

 新手の精神攻撃みたい。結婚式を擬似体験なんて、望んでないのに。

 でも何かしないといけないみたいで、思いっきりみんな沈黙してる。注目されてるのが分かって息苦しい。意識を逸らそうにも限界だ。恥ずかしすぎて、今すぐ逃げ出したい。

 これは過去で、記憶の欠片。つまり幻なんだ、と言い聞かせても、今の私には現実と大差ない。

 窓から入り込む風の音も、レオナードが私の手に触れる感触も、差し込む陽射しが眩しいのも……全て現実。

 ふとした瞬間に、自分の本当スフラギドが持っていかれるような恐怖すらあった。

  とにかくこの儀式が終わった後に、一度外に出れば──瞬間、神父の声が耳に入る。

「……誓うのならば、承の意を」

 その言葉に、レオナードが私を見る。反射的に何か言おうとして、何も言えず、口をパクパクさせた。

 そもそも承の意って何て言うの? そんなの聞いてない。レオナードが急かすように言う。

「答えは?」

 そう問われて、思わず返事をしてしまった。

「し、承諾で……?」

 この回答でいいのか分からなかったけれど、なんとか続けてくれるようだ。神父が静かに続けた。

「では、その証を」

 レオナードが私のベールに手をかける。そこでふと、嫌な予感がした。

 前に町で見かけた結婚式ではこの後、口づけをしていた。同じことをするの、と混乱してしまう。

 目の前のレオナードは眩しいくらい優しく微笑んだ。

「今日、この日を迎えられて幸せだよ」

 きっと、心から喜んでいるのだろう。それくらい幸せそうな笑みだった。

 けど、それとこれは話が違う!!

 近づいてくるレオナードをなんとか避けようとした。けど良い案もなく、どうにでもなれ!と、目を強く瞑った。

 瞬間────耳を打ち付けるような大きい音を立てて扉が開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...