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婚儀
しおりを挟む「では、これより婚礼の儀を執り行う」
「……」
さすがにさ、危険なことはないと思ってた。けどね、こうなるとは全く考えてなかったんだけど。
「始めに創正神の訪れから……」
神父が朗読台の前で話し始める。私と隣にいる男性は、それを黙って聞いていた。ちらりと見ると、どこか緊張した面持ちを感じた。
ミリアーナの花婿のレオナードさん。濃い茶髪の若い男性で、白いタキシードを着ている。
そしてもちろん、私は真っ白な花嫁衣装だ。鏡を見せられた時は別人の顔だったから、ミリアーナの記憶をなぞっているに過ぎないのだけれど。
それでも触れられる以上、やっぱり現実感があって困ってしまう。
今も体の主を呼ぶ声がハッキリ耳に届く。
「ミリアーナ」
顔を上げたら神父が、横を見るように促した。私はしぶしぶ、隣へと体を向ける。レオナードと向かい合うように。
「──」
視線を上げると、薄紫の瞳を細めて彼は微笑んだ。愛おしそうに見つめられて、居たたまれなくなる。
スッと視線を逸らしたけれど、冷や汗が出てくる。
「……」
新手の精神攻撃みたい。結婚式を擬似体験なんて、望んでないのに。
でも何かしないといけないみたいで、思いっきりみんな沈黙してる。注目されてるのが分かって息苦しい。意識を逸らそうにも限界だ。恥ずかしすぎて、今すぐ逃げ出したい。
これは過去で、記憶の欠片。つまり幻なんだ、と言い聞かせても、今の私には現実と大差ない。
窓から入り込む風の音も、レオナードが私の手に触れる感触も、差し込む陽射しが眩しいのも……全て現実。
ふとした瞬間に、自分の本当が持っていかれるような恐怖すらあった。
とにかくこの儀式が終わった後に、一度外に出れば──瞬間、神父の声が耳に入る。
「……誓うのならば、承の意を」
その言葉に、レオナードが私を見る。反射的に何か言おうとして、何も言えず、口をパクパクさせた。
そもそも承の意って何て言うの? そんなの聞いてない。レオナードが急かすように言う。
「答えは?」
そう問われて、思わず返事をしてしまった。
「し、承諾で……?」
この回答でいいのか分からなかったけれど、なんとか続けてくれるようだ。神父が静かに続けた。
「では、その証を」
レオナードが私のベールに手をかける。そこでふと、嫌な予感がした。
前に町で見かけた結婚式ではこの後、口づけをしていた。同じことをするの、と混乱してしまう。
目の前のレオナードは眩しいくらい優しく微笑んだ。
「今日、この日を迎えられて幸せだよ」
きっと、心から喜んでいるのだろう。それくらい幸せそうな笑みだった。
けど、それとこれは話が違う!!
近づいてくるレオナードをなんとか避けようとした。けど良い案もなく、どうにでもなれ!と、目を強く瞑った。
瞬間────耳を打ち付けるような大きい音を立てて扉が開いた。
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