引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月 瑠々奈

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旅立ち

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 ヴォーーー!!っと汽笛が響く桟橋付近。私は立ち尽くしている。

「……」

 天気は晴れ。雲一つ無い快晴。周囲は海。目の前には大きな船。

 突然だが……私──リアナ・ヴェルは今、窮地に陥っている。

 再び、自分の体のあらゆる部分を叩く。

「ない!! ない、ない! やっぱりない!!!」

 昨日買ったばかりの乗船券がなかった。ポケットもカバンもポーチの中も。

 散々探したのに埃しか出てこない。ものすごい高い券だから、宿を出るときに何回も確認した。ルナさんにも「絶対無くすなよ」って念を押されたし、バルさんには「無くしたら共に観光でも行こうか」と笑われた。

 ここで本当に無くしたなんて、恥ずかしくて言えない。

 そもそも二人はとっくに出発した。バルさんはまだその辺にいそうだけどね。

 って、それどころじゃない!!

「と、とりあえずもう一度宿に戻って……っわ!」

 振り返ったタイミングで誰かにぶつかる。その拍子に尻餅をついた。相手が慌てた様子で手を差し伸べる。

「ごめんなさい。よく見てなくて」

 女性と思われるその姿が、眩しいくらいの日の光に照らされて見えない。だけど一瞬、懐かしい感じがして顔を上げる。

 私と同じ薄茶の髪の女性が柔らかく微笑う。思わず口が動いた。

「あっ、あの──」
「お母さん!!」

 横から駆け寄ってきた少女が、女性の腰に飛び付く。よく見たら、女性は濃い茶髪だった。

 恐らく日の光が強くて見間違えたのだろう。

 改めてその女性が手を出した。

「怪我はない? うっかりしてたわ」
「あ、はい。大丈夫です。こちらこそ見てませんでした。すみません」

 その手に手を重ねて、立ち上がる。女性は「じゃあ、お互い様ね」と笑う。

「ところで、この場所にいるなら船に乗るのかしら?」
「え?」
「ほら、乗船口だから。でもそろそろ締め切りそうね」
「え!?」

 女性の言葉に慌てて船を見る。乗務員が慌ただしく動いてる。船に乗り込む為のタラップを外されたら、もう乗れない。

 でも今の私は乗船券を持ってない。

 どうしようどうしよう、と焦っていたら、少女が「ねえねえ」と声をかけてきた。

「なんかはみ出てるよ」
「はみ出てる? ……あ!!」

 何度も探したはずのポケットから、紙の端っこが出ていた。引っ張り出したら、それは確かに乗船券で。

 両手で掴んで掲げて涙する。

「うあーー! よかったああ!!」

 先程の親子がちょっと引いてる気もしたけど、それどころじゃない。船が出てしまう。親子に頭を下げた。

「ぶつかってごめんなさい! ありがとうございました!」
「なんだか分からないけどよかったわね。船に乗るなら、良い船旅を!」
「よい船旅をーー!」
「はい!」

 二人へ軽く手を振って身を翻し、今度こそ本当に乗船口を目指した。

 近づくと、タラップを外す寸前だった。乗員の男性が券を確認して、乗るように促した。

 外壁が白い三階建ての建物が優に入りそうな、大きな船。

 私が乗り込んですぐ、汽笛が鳴る。ヴォーーっと低い音を響かせて、ほどなくして離岸した。

 離れていく船と、吹き抜けていく風。ふと、その風に乗って声がする。

「お姉ちゃん!! よい船旅をーー!」
「あ! ありがとうーー!」

 さっきの少女が追いかけようとしている。途中でお母さんに引き留められていたけど、見えなくなるまで私たちは互いに手を振りあった。

「……」

 風を切って進む船。日差しが海面に反射して、煌めいている。私はそっと目を閉じた。

 少しだけ冷たい風が頬に当たる。

 その感覚に身を委ねて、手すりにゆっくりと寄りかかる。

 短い間に起きた出来事を思い出しながら、船の到着先へ想いを馳せる。

 到着したら真っ直ぐ帰ろう。そして何度も思い描いた通り、あの言葉を言おうと思う。


 ────ただいま、って。








fin.



 
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