引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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慰霊祭

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 食事処を出る頃には、外はすっかり暗くなっていた。

 けどやっぱり市場は賑やかで、騒がしい。それにどこか、お祭りのような雰囲気を感じた。それをルナさんに言ったら、鎮魂の意味を込めてランタンを下げているのだと教えてくれた。

「ドロースが説明して謝罪したらしい。どんな人間が犠牲になって、どれだけの過ちを犯してきたのか、それを伝えたんだ」
「彼の進退はわからないけどね。誰かがこれを提案したらしいよ」

 バルさんが視線を上げる。手作りの絵が貼り付けられたランタンが風に揺れていた。

 道のあちらこちらへ灯されたランタンは、まるで私たちを導くように置かれている。

 その道を辿っていくと、変なオブジェがある広場へ着いた。

 そこには所狭しと屋台が出ていた。

「少し休憩しようか」

 バルさんが言って三人で、その広場に立ち寄る。飲食物を売る店から、不思議な小物を売る店まで様々あった。

 その一つに立ち寄って、バルさんが何かを買う。

 私とルナさんが顔を見合わせると、「近くで食べてみよう」と誘われた。

 広場の一角に用意された、規則正しく並ぶ木製の椅子に私たちは並んで腰かける。途中でルナさんが飲み物も買って配ってくれた。

「リアナ、どれがいい?」
「端ので大丈夫です」
「バルは?」
「私は左にしようか。ありがとう。代わりにこれを」

 紙袋から手の平サイズのお菓子を取り出して、飲み物を受け取るついでにルナさんへ渡す。

 受け取って怪訝な顔をするルナさんへ説明した。

「おかしな顔をしないで食べてごらん。ココリノってお菓子だそうだ。この辺りでは珍しい果物を使っているらしいよ」
「バルは食べたことがあるのか?」

 それに返事はせず、飲み物を椅子の端に置いて、また紙袋をごそごそやったかと思うとお菓子を取り出し私の手元にも持ってくる。反射的に受け取って指でちょっと押してみると弾力があった。

 なんだかクッキーより柔らかい。でも、焼きたてのパンほどではない。

 ルナさんがバルさんの返事を待たず、口に含む。

 それを見て、私もかじってみる。もぐもぐすると果物の味が染みてきた。

   こ、これは……っ!!

「かっら!」「からっ!!」

 ほとんど同時に声に出す。慌てて飲み物を流し込む私たちを見て、バルさんが「はははっ!!」と笑う。

「まるで兄妹のようにそっくりの反応だ!」
「知ってて渡したのか?」
「いやいや、まさか。ただ、使われてる果物には覚えがあっただけだよ」
「それをって言うんですよ」

 私とルナさんはジト目で、バルさんを見る。彼は「悪かったね」と言いながらも、全然悪びれていなかった。

 それどころか、自分でも小さくちぎったココリノってお菓子をヒョイっと口に入れた。モグモグしてからチロッと舌先を出して、ちょっと眉根を寄せた。

「それにしても、こんなに辛いとは……さすがにお菓子だと聞いていたから」
「一つ学べてよかったな。巻き込まれたのは不本意だが」
「そう言いながら、この辛さが癖になっただろう? 今夜の記念にプレゼントするよ」
「遠慮する」

 完全に拒否されて、バルさんがしぶしぶ二つ目を食べ始めた。私は、口直しに飲み物を飲んで、目の前の景色に目を向ける。

 ところどころで淡く灯るランタン。金色の輝きはまるで魔力と同じ。それらが点在して景色を彩る。

 ふとバルさんが優しい声で聞く。

「二人はこの後、どうするつもりだい?」

 雰囲気もどこか柔らかい。見つめられると安心するような、そんな感じ。私が答えるより早く、ルナさんが口を開く。

「オレは王都に帰るよ。外交上、ヤド王国にはそれなりの非難が寄せられるだろうが、少しでも穏便に済ませられるように動くつもりだ。魔導師たちが……命懸けで守った土地だからな」

 ポンッと頭に乗せられた手。見上げたら、ルナさんと目が合う。バルさんがさらに促した。

「リアナは? ルナと行くのかい?」
「私は……」

 気付けば、こうして三人でいるのも悪くないと思い始めている。だから、すぐには答えられなかった。でもやっぱり、望みは変わらない。

 ゆっくり顔を上げた。

「私は帰ります。魔導師のことを、改めて調べたいと思います」

 今までオババの話ですら興味はなかった。深く知ろうとしなくても、術は使えるし問題なかったから。

 けど、この街に来て、魔導師たちの行く末を見届けて霊憶こんきというものがなんなのか、知りたくなった。

 それに最後の親しみを感じる気配……あれは──。

 思い出しかけたら、ルナさんが「そうか」と言った。

「旅に出るだけが成長に繋がるわけじゃないからな。たまには立ち止まるのも悪くない」
「そうだね。だが行き詰まった時には知らせなさい。私がとびっきりの場所を案内しよう」

 パチンと片目を閉じる。星でも出てそうなソレをジト目で見ていたら、ルナさんが思いがけず同意した。

「そうだな。その時にはオレも呼んでくれ。今回の礼をしたい」
「おや、本業はどうするつもりだい? 国を守らなくていいのかい? 魔王が攻めてくるかもしれないよ」

 あえて言ってるな、とわかってるから口は挟まない。ルナさんはフッと口角を上げて、持っていたカップの飲み物を一口飲んだ。

「当面、その心配はなさそうだ」
「ずいぶんな余裕だね」
「信頼ってやつかもな。それよりリアナ、王都から程近いところに遺跡があるのは知ってるか?」
「遺跡ですか?」

 首をかしげると、バルさんが代わりに答えた。

「知ってるよ。魔術に関係する遺物があるとか。もしかしたら魔導師の残したものかもしれないね」
「遺物……」
「そういえば、その先には大きな街があるんだよな」
「そうそう。商いが盛んでね。新書も古書もたくさん流通してるだろう」
「!」

 それはさすがに気になる。それが顔に出ていたのか、二人はフフッと笑った。

「リアナはわかりやすいね」
「気になるなら行ってみればいいさ。きっと得るものはある」

 私はこれ以上、気になる話が入ってこないように両耳を押さえた。

「とにかく今は一旦保留でお願いします! このままじゃ帰られなくなりそうなので」

 その行動に二人は、はいはい、といった雰囲気で返した。

「わかったよ。とにかく、何かあればすぐ連絡してくれ」
「私もすぐに駆けよう。近くにいたら、だがね」

 ニコッと笑うバルさんに、「連絡するのが大変そうですね」と返事した。

 彼は「そうかな」とまた笑っていた。ルナさんが新しい飲み物を買ってくると言って、私も立ち上がる。バルさんは他の屋台を見てくると離れた。
 
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