将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月るるな

文字の大きさ
7 / 9

7

しおりを挟む
 
 しばらく穏やかな日が続いたかと思えば、突然事件が起きる。

 それは我がシルベール侯爵家が開いた、絵の品評会でのこと。通常であれば、リリーローズ嬢とジークリード様が愛を深めるタイミングであったが、諸事情で延期されていた。

 そこに彼女が現れたらしい。

 侍女の一人が顔を覚えていて、教えてくれた。

 彼女は誰かを待つように入り口に陣取っている。大方、ジークリード様だと思うけど、彼は今日来られないと連絡があった。

 それを教えるべきか否か、迷ってしまう。出来れば接点は少ない方がいいかな、とも思う。

 もしかしたらジークリード様に求められて、婚約破棄が本格的に怖くなったのかもしれない。

「……」

 それでもやっぱり放っておくことができなくて、一つ息を吐き出し近づいた。私に気づいたリリーローズ嬢が顔を上げる。

「あなた……ジークリード様は?」
「彼は今日、不在にすると連絡がありました。他に用事がないなら、お帰りになったら?」

 扇を開いて口元を隠す。彼女の前だと何故か、こんな物言いになってしまう。リリーローズ嬢は、キッと睨み付けて「嘘よ」と言った。

「今日、ここでジークリード様に会うはずなのよ! そもそも延期したのだって嫌がらせでしょ? 早く彼と別れなさいよ!」
「延期したのは納入予定の絵画の到着が遅れたからよ。こちらでどうこうしたわけじゃないわ」
「なら彼がいないのは!? この後来るんでしょ? 隠したって無駄なんだから!」

 フイッとそっぽを向く。完全にジークリード様と結ばれると思い込んでいるのか、私の言葉など聞く耳持たない。

 呆れて物も言えなくなる。

「隠したって思うのは自由だけど、私は伝えましたからね。ここに残るのなら好きにしてちょうだい」

 とにかく、それだけ言って離れる。そのあとは会場としている庭園と温室を行き来して、訪れた貴賓たちの相手をして忙しかった。

 だけど、品評会自体は想定よりも盛況で、懇意にしていた画家たちは皆喜んでくれた。

 けれど、その喜びに水を差すようにリリーローズが現れる。

 来客を見送ったあとの正門前。周りに人が少なくなったタイミングで、彼女は険しい顔をして私に詰め寄ってくる。

「ねえ、どうしてジークリード様が来ないの!?」
「私は言ったわ。今日は不在にすると」
「あんなの嘘だと思うじゃない」
「嘘じゃないとも言いました」

 無駄な押し問答になお、言い返そうとしたリリーローズ嬢。けど、顔を上げた彼女は急にパッと明るくさせる。なんだろう、と思う間もなく横をすり抜け駆けていった。

「ジークリード様っ!」

 弾んだ声で駆け寄った彼女は、馬車から降りてきたジークリード様に抱きつく。

 私は振り返ってすぐ息をのんだ。胸が苦しくなる。それは記憶にある二人の姿そのものだったから。まるで、身を引けと言われているようだった。

 けどその直後、一瞬右耳に痛みが走る。

「っ! ……?」

 それはすぐにおさまり、目を戻すとジークリード様の不快そうな顔が見えた。思い切り眉根を寄せて、リリーローズ嬢を剥がしている。

「……いい加減にしてくれないかな。親しくない相手に突然抱きつくなんて、人としてどうかと思うよ」
「でも私とあなたは運命で結ばれていて……」

 躊躇うように、けど精一杯リリーローズ嬢はその言葉を告げる。ジークリード様はスッと目を細めて、淡々と返した。

「それは違うね。悪いけど、全部調べさせてもらったから」
「え……?」

 これには端から聞いていた私も驚いてしまう。リリーローズ嬢は「どういうことですか」と聞いた。

「調べたって、前世を調査したんですか?」
「君の言う前世、それとミリィの言った天啓。それらについて、過去に似た事例がないか調べたんだ」

 そう、ジークリード様は言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。【ざまぁ追加】

白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。 聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて…… 母親視点でその後の話を追加しました。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

モブなので思いっきり場外で暴れてみました

雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。 そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。 一応自衛はさせていただきますが悪しからず? そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか? ※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

私に婚約者がいたらしい

来栖りんご
恋愛
学園に通っている公爵家令嬢のアリスは親友であるソフィアと話をしていた。ソフィアが言うには私に婚約者がいると言う。しかし私には婚約者がいる覚えがないのだが…。遂に婚約者と屋敷での生活が始まったが私に回復魔法が使えることが発覚し、トラブルに巻き込まれていく。

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...