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しおりを挟むジークリード様の調査結果を聞くにあたって、もう一人呼びたいと、日を改めて顔を合わせることにした。
場所はジークリード様の庭園にあるガゼボ。そこに家主のジークリード様、それとリリーローズ嬢、それに私と……呼びたいと言われていたソルが来る。
到着してすぐ、隣にいたソルがコソッと耳打ちした。
「……これ、なんの集まり?」
「今から分かるはずよ」
「へえ。でもあまり歓迎されてるようには見えないんだが」
その視線の先にはリリーローズ嬢がいる。彼女はジークリード様にずいぶん執心しているようで、我先に到着したあと隣を陣取っていた。
まるで部外者のような私とソル。顔を見合わせて、仕方なしに傍にあった椅子へ隣同士に座ろうとした。
けどジークリード様が突然立ち上がると、自身の座ってた椅子へソルを押しやり、自分が私の隣に座って足を組む。
それに抗議するのは当然リリーローズ嬢。
「! ちょっと! なんでそっちに行くんですか? あなたも戻りなさいよ!」
「ちょっと……押すなよ。さすがに、そろそろ諦めた方がいいと思うんだけど」
「は?」
ソルが噛みつかれてる間に、ジークリード様は我関せずといった感じで、テーブルへ何かをのせる。
それは、一本の短剣と丸く纏められた羊皮紙だった。
ソルが首をかしげ、リリーローズ嬢はなぜか目を見開いた。
一見すると普通の短剣で、でも触れようとしたら、その手をやんわり止められる。
「これは?」
様子を見ていたソルが聞く。隣のリリーローズは眉間にシワを寄せ、途端に大人しくなった。
ジークリード様が手を動かし椅子を勧めて、応える。
「魔術や呪いというものは知ってるよね」
「ああ、知識としては。そういえば隣の国でも一時期流行ったな。傷が治るとか、想い人と結ばれるとか、効果はないとすぐに廃れたと思うが」
「そう。だけどそれには理由があったんだ」
「理由?」
ソルの疑問に、ジークリード様が丸められた羊皮紙を開き始める。開かれたそれには、黒い線で描かれた不思議な図柄と重なるようにして、薄くなった茶の文字が綴られている。
見ていると、何か背筋がざわつく気がした。
ジークリード様が続ける。
「血筋の者が行わなかったからだよ」
「血筋……そういえば流行り始めた頃、エレガティス族が流浪の民として入ってきたのは話題になってた。新聞で読んだよ……いや、でもまさかこれ」
思い出したように言って、羊皮紙に視線を移したソルが何かに気づき眉根を寄せる。ジークリード様がわずかに目を細めた。
「その通り。これはそのエレガティス族の血で書かれた文字だ。そうだよね? リリーローズ嬢」
いまだ立ったままのリリーローズ嬢へ、視線が集まる。けど彼女は黙ったまま何も言わない。ジークリード様が続けた。
「隣国で流行った呪いはエレガティス族が広めたらしい。その時の占いがよく当たったから流行ったんだね。けどそれは魔術に長けたその血筋だからこその話だった」
「だからそれを真似しただけの人間には何もおこらず、結局廃れたわけか」
そして、とジークリード様が引き継いだ。
「リリーローズ嬢は隣国の親戚筋から養子としてとったと調べがついた。もちろん彼女の母がそのエレガティス族だということも」
そこまで言うと、突然リリーローズ嬢が「ハッ」と鼻で笑う。
「だから何? そうよ、私が呪いをかけたの!! 婚約破棄するようにね! 養父が言ったわ。私がジークリード様と結婚すれば全て上手くいくって。だから、あなたたち二人の記憶に偽りを混ぜて、その通りに行動するよう仕向けた。なのになぜ、ジークリード様だけ掛からなかったのか分からないけど」
突然の告白に困惑する。それでは前世だと思っていたものが、全て偽りだったのだろうか。
ジークリード様を見ると、彼はわずかに口角を上げて左耳のイヤーカフに触れた。
「それはこれだよ」
私の贈った黒い石をつけたイヤーカフ。対として買った右耳のイヤーカフに、無意識に触れる。
ジークリード様は「これのおかげ」と続けた。
「ミリィが贈ってくれたコレは、偶然にもエレガティス族の祈りが込められた装飾品だったんだ。おかげで魔を払い、おかしな記憶の変更もされなかった」
「なにそれ……聞いてない。祈りで魔を払う? お養父さまはそんなこと一言も」
戸惑い気味に言う。ジークリード様が静かに答えた。
「そうだろうね。君は幼いうちに引き取られた。それから教わったのは魔術の闇の部分だけ。だけど物事には闇も光もある。純粋にエレガティス族として継いでいれば教わっていたことだろうね」
「……エレガティス族として……もし母がいれば……」
リリーローズ嬢が呟き項垂れる。ジークリード様は畳み掛けるように続けた。
「今回の件が君一人の策略じゃないことも分かってる。今頃、養父たちも捕まっているだろう」
「……っ!!」
顔を上げたリリーローズ嬢が大きく目を見開いた。彼女だけここに呼んだのは、その騒ぎを見せないためと逃がさないためなのだろうか。
身を翻し駆け出すリリーローズ嬢を使用人たちが捕まえる。
「離して! 私は何も悪くないわ! 言われたとおりにしただけよ!」
押さえつけられ、地面に膝をつく。涙を溜めた瞳でジークリード様を見た。
「どうしてこんなことするの……? ずっとずっと愛していたのに」
「それは思い込みに過ぎないよ。結局全て、君が作り上げたまやかしだ」
冷たく言い放ち、使用人に「連れていけ」と指示する。騒ぎが落ち着くとソルが半ば呆然としながら聞いた。
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