将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈

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「このまま何もなければ助かるわね」

 つい不安が口をついて出る。ソルは「大丈夫だろ」と返した。

「行動を起こせるほど後ろ盾があるようには思えない。何かあれば俺も協力するよ」
「ありがとう。ソルには頼ってばかりね」
「気にしなくていい。ただ、少し残念ではあるよ」
「残念?」

 聞き返したら躊躇いつつも答えた。

「いや……君が嫁いできてくれるなら楽しそうだと思っていたんだ。前世の話なんて、簡単には出来ないだろ?」
「それならリリーローズ嬢も同じじゃない」
「彼女は……まず話が通じ無さそうだ」

 そう言いながら肩を竦める。確かに、騒ぎになったあとも自分の結婚のことしか、言葉にしてなかった彼女には難しいかもしれない。私たちも話に乗ったのは悪かったけれど、始めに行動したのは彼女の方だ。

 誤りだと気づいたらすぐに謝罪すべきところを、なお大げさにしたせいで、父君の後援が危うくなっているとも聞いた。

「でもあなたは、その前世の記憶を使って領地運営を進めているのよね」
「ああ。たまにその知識が通じないときは焦るけど、おおむね順調だよ」
「すごいわね。私には、あの物語以外の記憶があまりないんだもの」

 物語の内容は鮮明に覚えているのに、それ以外はモヤがかかったように思い出せない。どんな場所で過ごしていたのか、どんな人がいたのかも。

 だからソルと話しているのは楽しかった。まるで記憶が補完されていくかのようだったから。

 肩にかかった深紅の髪を払う。手にしたカップの紅茶に映る顔が、歪んで見える。ソルが「そろそろ」と言った。

「次の予定があるから、俺は行くよ」
「あ、時間を取らせてごめんなさいね」
「いや。それより事態が変わったらすぐ知らせてくれ」
「ええ、もちろん」

 そうして互いに立ち上がり、カフェテリアを後にする。馬車まで送るとの申し出を受け取り、二人で並んで歩いていた。けど、曲がり角を抜けた瞬間、ハッとした。

 視界に入った人物に慌ててソルを引き留める。

「待って…! あの、ここまででいいから。あなたは反対から帰って」
「え? 急にどうした。馬車は目の前だろ? そこまで送るよ」
「ち、違うの! 今出たらマズイというか…なんというか。そういえば言ってなかったって思って」
「言ってなかった?」
「とにかくここまでで大丈夫だから。誤解されたらまた、ややこしくなるし」

 とにかく反対に出て、とソルの背を押す。彼は困惑気味に振り返ろうとした。そんなやり取りの中、後ろから声がかかった。
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