縁 ーENISHIー

翠月るるな

文字の大きさ
2 / 2

後編

しおりを挟む
 生を受けて、友梨と出逢ったのは高校の時だった。すぐに意気投合して、バカみたいに騒ぎ合って。

 けど俺は、精神的にまだ幼かった。

 友梨と一緒にいる時間以上に、友人達と遊んでいる時間の方が多く取ってしまっていた。バランスが取れなくなっていたのだろう。

 次第に彼女の存在が煩わしくなって、自分から別れを切り出した。

 彼女は悲しそうにしながらも、仕方ないね、と無理やり笑顔を見せた。それが友梨なりの気遣いだと気づいたのは、ごく最近のこと。

 別れた直後はタガが外れたみたいに遊び呆けていた。けど、そんな俺もすぐに彼女の大切さに気づかされた。

 ふと考えては、未練がましく連絡先を見つめる。友人を介して動向を知る。一度、実際に連絡したこともあった。

 けど繋がらなかった。

 それからは、諦めばかりを残していた気がする。

 だけど今日、連絡が取れなかった理由がなんとなく分かったのだ。

 恐らくそれは制約のせいだと。

 きっとこれからも彼女と道が交わることはない。まるでこのスクランブル交差点のように。

 人を挟んで、彼女の声が耳に入った。

「ねえ、尊ってヤキモチとか妬いてくれないよね?」
「なに? 妬いてほしいの?」
「そりゃ……まあ、私もモテたりしないから無理かもしれないけど、たまにはね」

 くくっと尊が笑う。人の合間から、一瞬目が合った気がした。

「友梨はモテてないわけじゃないよ。ただ、他の男と縁がないってだけ」
「あー、そっか。そういうのもご縁になるんだね。ま、私は尊と縁があればいいや」
「だろ? ほら、映画が始まるから早く行こう」

 手を繋いだ二人が離れていく。

 その後ろ姿を見送ってふと思う。

 記憶が蘇るのは敗者だけのはずだけど……彼は覚えているのだろうか、と。

 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

処理中です...