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後日談2
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藤永から指定されたのは、弁護士事務所からほど近いカフェだった。それもテラス席。何かあればすぐ駆けつけますね、と言った言葉のとおり、その場所は事務所の窓から見える位置にある。
凛子は時間よりも遅れて到着した。
わずかばかりの意地だった。
到着した直後、秋名は不機嫌に眉根を寄せたが、すぐに立ち上がり頭を下げる。
「ごめんなさい! 今さら遅いと思うけど、でも言わないとって思って……許して、くれるかしら」
「残念だけど無理ね」
「なんで……あ、飲み物ね。そうよね、先にオーダーを」
「いらないわ。すぐに帰るから」
「どうして? 許してくれるつもりで来たんじゃないの?」
都合のいい考えに凛子は溜め息を吐く。テーブルに手をついて「あのね」と返した。
「私が今日ここに来たのは、あなたの謝罪を聞きに来ただけ。許すかどうかは私次第なの。それで? 謝罪はそれだけ? ずいぶん迷惑かけられたけど」
詰め寄られて秋名はのけぞる。彼女はバツが悪そうに顔を背けた。
「……私…けが……」
「なに?」
小さな声が聞こえず、凛子が聞き返す。秋名は一拍置いて、不満そうに続けた。
「私だけが悪い訳じゃないわ。省吾さんだって同罪じゃない。なんで私だけ責められなきゃいけないわけ? 会社からも損害賠償、あなたからも慰謝料請求。もう、うんざり。謝ったんだから減額してよ」
「あなたねぇ……」
自分から謝りたいと言ったから、多少反省しているのかと思いきや、全くその気がない。それどころか開き直って、さらに勝手な主張を続ける。
「そうだ! 減額出来ないなら待ってくれない? 会社の方が終わったら必ず払うから。ほら、順番ってことで」
「……はあ?」
あまりに自分本意な考えに、怒りを通り越して呆れてしまう。彼女は尚も身勝手な主張を続けた。
「あと分割にするのも、もう少し安くしてくれないかしら? いろいろ買わなきゃいけないものもあるし」
「あの金額で合意したのはあなたでしょ」
本当は一括で払わせて、以降一切の接触を断つつもりだった。だが分割を受け入れたのは、彼女の子どもである水樹のためだ。水樹が不自由しない程度に、と考えた凛子の気持ちすら気づかない秋名はさらに不服を言おうとした。
「だってあの時は……」
だがその前に凛子が釘を刺す。
「もういい加減にして。あなたは自分がとった行動の責任を取らないといけないの。相手が企業であれ、個人であれ横から奪えばそれが罪になるのは当然じゃない! そんなことも分からないの!?」
「けど、あれは省吾さんが」
「人のせいにすれば、何でも許されると思ってるのかしら。言ったわよね? あなたは、あなたがとった行動の責任を取るの。省吾がどうとかじゃない。最終的にそうなることを選んだのは、あなたよ」
ハッキリ言われて、何も返せなくなる。秋名が黙り込んだところで、凛子は背を向けた。
「あなたが今出来ることが何なのか、そこでゆっくり考えることね」
「……」
カツカツと歩き出す凛子はもう、足を止めることはなかった。休日の昼下がり、賑わう人混みに紛れていく。いつもと変わらない騒がしさに、日の眩しさも相まって、どこか煌めいているようだ。
凛子はその眩しさの中に消えていった。
fin.
凛子は時間よりも遅れて到着した。
わずかばかりの意地だった。
到着した直後、秋名は不機嫌に眉根を寄せたが、すぐに立ち上がり頭を下げる。
「ごめんなさい! 今さら遅いと思うけど、でも言わないとって思って……許して、くれるかしら」
「残念だけど無理ね」
「なんで……あ、飲み物ね。そうよね、先にオーダーを」
「いらないわ。すぐに帰るから」
「どうして? 許してくれるつもりで来たんじゃないの?」
都合のいい考えに凛子は溜め息を吐く。テーブルに手をついて「あのね」と返した。
「私が今日ここに来たのは、あなたの謝罪を聞きに来ただけ。許すかどうかは私次第なの。それで? 謝罪はそれだけ? ずいぶん迷惑かけられたけど」
詰め寄られて秋名はのけぞる。彼女はバツが悪そうに顔を背けた。
「……私…けが……」
「なに?」
小さな声が聞こえず、凛子が聞き返す。秋名は一拍置いて、不満そうに続けた。
「私だけが悪い訳じゃないわ。省吾さんだって同罪じゃない。なんで私だけ責められなきゃいけないわけ? 会社からも損害賠償、あなたからも慰謝料請求。もう、うんざり。謝ったんだから減額してよ」
「あなたねぇ……」
自分から謝りたいと言ったから、多少反省しているのかと思いきや、全くその気がない。それどころか開き直って、さらに勝手な主張を続ける。
「そうだ! 減額出来ないなら待ってくれない? 会社の方が終わったら必ず払うから。ほら、順番ってことで」
「……はあ?」
あまりに自分本意な考えに、怒りを通り越して呆れてしまう。彼女は尚も身勝手な主張を続けた。
「あと分割にするのも、もう少し安くしてくれないかしら? いろいろ買わなきゃいけないものもあるし」
「あの金額で合意したのはあなたでしょ」
本当は一括で払わせて、以降一切の接触を断つつもりだった。だが分割を受け入れたのは、彼女の子どもである水樹のためだ。水樹が不自由しない程度に、と考えた凛子の気持ちすら気づかない秋名はさらに不服を言おうとした。
「だってあの時は……」
だがその前に凛子が釘を刺す。
「もういい加減にして。あなたは自分がとった行動の責任を取らないといけないの。相手が企業であれ、個人であれ横から奪えばそれが罪になるのは当然じゃない! そんなことも分からないの!?」
「けど、あれは省吾さんが」
「人のせいにすれば、何でも許されると思ってるのかしら。言ったわよね? あなたは、あなたがとった行動の責任を取るの。省吾がどうとかじゃない。最終的にそうなることを選んだのは、あなたよ」
ハッキリ言われて、何も返せなくなる。秋名が黙り込んだところで、凛子は背を向けた。
「あなたが今出来ることが何なのか、そこでゆっくり考えることね」
「……」
カツカツと歩き出す凛子はもう、足を止めることはなかった。休日の昼下がり、賑わう人混みに紛れていく。いつもと変わらない騒がしさに、日の眩しさも相まって、どこか煌めいているようだ。
凛子はその眩しさの中に消えていった。
fin.
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2025.09.21 追記
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