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しおりを挟む「ねえ、セラス。結婚しようよ」
そんな軽いノリで聞いてきた幼馴染みのフレディ。邸の離れにいる私を訪ねてきた彼は、今まさに窓際の椅子に腰掛け、こっちを暇潰し程度に見ている。
対して私は、魔導書の通りにトカゲの尻尾をすりつぶしているところだった。
「見ての通り忙しいの。結婚なんかしてる余裕ない」
「んー……でもさ、知ってるよ? ご両親にそろそろ結婚しろ、って大量の釣書用意されたんだよね?」
「なっ……なんで知ってるのよ」
「聞いたから、かな」
「うぅ~……」
思わず手を止め、よみがえる頭痛にこめかみを押さえた。フレディの言う通り、大量の釣書を用意され、社交界に行け、結婚しろと両親から圧がかかるようになったのは最近のこと。
ちょうど昨夜もそのことで喧嘩したばかりだ。
騒ぎ始めた理由は簡単。周りの娘、息子たちが適齢期に差し掛かり、どんどんくっつき始めたのを親が見聞きしたから。
でも私は結婚するつもりはない。一生を魔導に捧げる覚悟でいるのだから。
その考えを知っているフレディは、なお続ける。
「セラが結婚するつもりがなくても、いずれどこかに嫁がされるんじゃない? そうじゃなくても周りが騒がしいんだろ? それならさっさと結婚しちゃえばいいじゃん」
「さっさと……って、それでフレディと?」
「そう」
改めてすりこぎを置いて、フレディを見る。サラサラの金髪とエメラルド色の瞳。幼いときから変わらない柔らかい雰囲気のまま彼は、へらっと笑う。
虫も殺せない害の無さそうな男。確かに気心知れた相手で、今さら取り繕うことも必要ない。もし、どうしても結婚しなきゃいけなくて、その相手がフレディなら、まあ千歩譲って納得しないこともない。
だけど、と思う。
「フレディはそれでいいの? 私と結婚したところで得なことなんて無いじゃない」
「ん、僕? 僕はそうだな……夜会で声が掛けられなくなるなら助かるかな」
「ああ、フレディって昔からよく女の子に囲まれてたものね。可愛いから」
「最後のは余計じゃない?」
「可愛かったもの、本当に。今は知らないけど」
近頃は邸に引きこもりがちで、夜会でのことはわからない。だけど昔、母についていった茶会では、よくフレディが女の子たちに囲まれていた。
その度に私の後ろへ隠れていたのを思い出す。
クスッと笑ったら、ちょっと不機嫌そうな声でフレディが言った。
「まあ。じゃあ、それでいいよ」
「つまりは女避けってことね。了解」
「それで? 結婚は了承してくれるんだよね?」
「もちろん。これはあくまで、お互いの利点のため。契約書でも作る?」
「利点のため、ね。まあいっか。ひとまず契約書はやめておこうね。誰かに見つかったら困るよね?」
「それもそうね」
諭すように言ったフレディは、椅子から立ち上がり、私のそばにくる。「一旦仕切り直させて」と言った彼は、目の前で跪いて、片手を胸元に、もう片方の手を私に差し出した。
「セラス……私と結婚してください」
「……なるほど」
形だけでもやっておかないと、あとで親族に問われた時、説明出来ない恐れがある。フレディの考えを汲み取った私は、差し出された手に手を乗せ、「喜んで」と返した。
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